新型武器
「
それはある時からこの世界に出現した人類に敵対的なロボットです。その出現は幾つもの悲劇を生みましたが、同時に計り知れない発展をもたらしました。
例えば「魔力」の発見。
例えば「生態金属」の発見。堅さとしなやかさを兼ね備えたこの金属は、魔法少女サポートユニット(MSU)のみならず、重機や乗り物への応用が進められています。
人類が安全かつより快適に生活する為には
小さな発見でも莫大な富と名声を得られるこの業界では、大小様々な企業・研究所がしのぎを削って研究開発に勤しんでいます。
その中でも最大規模を誇る「国立MSU研究所」の若手教授とお友達になった私は、二年ほど前からその先生のラボに籍だけ置いています。
先生からは「学生生活優先で良いからね」と言われていますが、とはいえ何もしない訳にはいかないので、時々ラボに行って新型武器の開発に着手しているんです。
ありがたい事に先生やラボメンバーが沢山協力して下さって、ついに実戦に役立ちそうなレベルの試作品が完成しました! そして今日はその実戦試験が行われる事になっています。
上手く動くでしょうか、ドキドキします。
「まさかこんなにも早く完成するなんてね。流石は久美ちゃんだよ」
キャンデーを口に加えながらこっちに向かってきた白衣の女性。この人こそがラボのトップたる
「いやいや、私は夢を語っただけで、作り上げたのは先生方じゃないですか」
「そんなことないよ、久美ちゃんのアイデアがあってこそ完成したんだから。いやまだ未完成か。今日の実戦試験が成功して初めて『完成』だね。いやはや、この銃は私が今まで見てきたパーツの中でもトップクラスの妖艶さがある。それが動くのを見れるなんて、本当に感動だよ、ふへへへ……」
そう言って先生は、机に並べられた10丁の試作品を愛おしそうに見ました。この先生は重度の機械オタクなんですよねー。なにせ、普段からロボットと結婚するのが夢だと語っているくらいですから。
一方で、機械に興奮するような性癖を持ち合わせていない私は、妖艶さとか言われてもよく分からず、苦笑するしか出来ません。
早く話題を変えないと!
「あはは……。そ、そういえば、被験者って集まったんですか?」
「ああ。バイト代をはずんだ事もあって、結構な人数が集まったそうよ。予定人数の5倍以上の応募があったから、選考があったとか」
「それは良かったです」
この研究所は、国立魔法少女養成学園(私がいつも通っている学校)と連携していますので、その生徒が被験者バイトに来てくれるんですよね。
「ひょっとしたら私の知り合いがいるかもしれないですね、ちょっと楽しみです」
「……あ、なるほど! そういえば貴方ってあそこに通ってるんだったね。おや、ちょうど来たみたいだね」
先生が指さした方を見ると、被験者の方々が入ってきました。
知っている子はいるかな~ってあれ!?
「文香さんじゃないですか。おはようございます」
「あ、久美だぁ。おはよ、今日はよろしくね~」
なんと文香さんが居ました。私に気が付いた文香さんはトテトテと私に向かって走ってきました。
そして私の手を取ってぶんぶんと上下に振りました。こちらこそよろしくお願いします。
「おや、ホントに知り合いがいたとは。お話ししたい気持ちは分かるけど、先に実験を始めようか」
「はい、すみません。えーっと、それではみなさん。今日使っていただく武器の紹介とタイムスケジュールの確認をしますね」
この武器の名前は「集中神魔妨害銃(Focused MythMagical Interference Gun)」、略して
タイムスケジュールについては、午前中にバーチャルエネミーと戦って頂いて使い勝手に慣れてもらいます。そして午後からは、実際に
「何か質問はありますか? ――無さそうですね、それでは早速バーチャル訓練場へ行きましょう」
◆
「えい、えい、えーい」
文香さんはなんというか気の抜けた声で銃を三発発砲しました。しかしそれらはバーチャルエネミーのコアを適確に破壊しました。
これが文香さんの強みです。文香さんは普段の雰囲気とは裏腹に、天才としか形容できない程の射撃能力を持っているんです。
「流石ですね、もうここまで使いこなせるなんて」
「ありがとー。この武器、とっても使いやすいよ」
「ありがとうございます、そう言っていただけたら制作者冥利に尽きます。午後の実戦も楽しみです!」
「うん。あ、でもその前にごろーんってしたいなあ……。Zzzzz……」
「え? あ、ちょっと?!」
文香さんは私にもたれかかってきて、そのまま眠っちゃいました。ああ、やっぱりこうなっちゃいます?!
どうしたらいいか困っていると、教授が近付いてきて「他の参加者の方は私が見ておくから、二人はそのまま青春してていいよ~」と言って去っていきました。ち、違うんです、そうじゃなくてぇー!
午後になり、実戦試験が始まりました。相手はδ級と呼ばれる、大型トラック程の大きさの
――ピピピ! ガガガ!
「ふああ……。そんなの当たらないよ」
――ポペポペ?!
「お返しだよ、はい、はい、そい、それー」
――ピ!? ピ!? ピ!? ピガァァァァ!
隙を逃さずFoMMIGを4発撃ち込みました。それらは的確に急所を破壊し、
「良い感じですね。使ってみてどうですか?」
「うん、すっごくいいよー。内側に隠れてる急所を壊せるから戦闘が速く終わるのがとっても良い。それに、傷を少なく倒せるから、獲れる素材が増えるのもグッドだよ」
「ふむふむ」
使い手からも好印象と。これは製品化達成も間近かもしれませんね。
「それにね、この武器、使ってて楽しかった! 早く完成させてね!」
「っ!」
文香さんは私のすぐ前に着地して、私の手をぎゅっと握ってから満面の笑顔でそう言いました。
心臓がドクンと跳ねました。私の研究を「すごい!」「便利だ!」と褒めてくれる人は他にも沢山いましたが、文香さんの笑顔はそれとは一線を画す衝撃がありました。
文香さんっていつも眠たそうにしてて、あまり感情を表に出さない子なんですよね。そんな彼女が笑顔で私の研究を褒めてくれた。その事がとても嬉しかったんです。
あ、危うく惚れそうになりました。いけません、文香さんには美香さんがいるのに!
でも、またあの笑顔をみたいなぁって思ってしまうんです。はぅぅぅ……。
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