幼馴染

「なあなあ。久美さんも一緒に食べないか?」


 お昼休み、お弁当を食べようとしていると翠さんから声をかけられました。そちらを振り向くと、翠さんは文香さんと美香さんと一緒にご飯を食べる為に席を動かしているところでした。


「え、私ですか? え、ええと……。いいんです?」


 私が混ざっていいんでしょうか? 特に美香さんは私を敵視していますし……。


「もちろん。ちなみに話したいって言い始めたのは美香だぞ」

「ちょ?! そ、そんな言い方してないわよ!」


「え、美香さんが?」


 私が美香さんの方を見ると、パニックになったように視線をずらして「ちが、私は……」と言いました。ですが……。


「うん、美香が言い出したんだよ~。『声かけたいけど、普段の久美さんは壁を作ってる感じで話しかけにくいんだよね』って言ってた」

「文香ちゃん?! それは内緒だって!」

「? ……そうだっけ?」


「えっ、美香さんがそんな事を言ってたんですか?!」


 私は驚きのあまり、思わずそう叫んでしまいます。すると近くにいた別のグループの子に「え、何事?」という目線を向けられました。は、恥ずかしい。思わず口を手で覆います。


「ち、違うからね! ただ、久美さんがぼっち飯してるの可哀そうだなーって思っただけだから! 変な意味じゃないから、勘違いしないでよね!」


 私が驚いた声よりも遥かに大きな声でそう叫ぶ美香さん。今度は遠くにいた子にまで「え、何事?」という目線を向けられました。

 って、何を言ってるんですか、美香さん?! そんな言い方されたら、逆に変な意味なんじゃないかって勘ぐってしまうじゃないですか。そう思った私は「えーっと」と気まずそうに顔を背けました。


「もぅ。美香、そんないい方しちゃダメだよ。あのね、美香はね、久美とお友達になりたいんだって。趣味の事とか話したいって」

「文香ちゃん?! それも内緒だって!」


 ああなるほど、そういう意味でしたか。アニメについて語り合いたかったんですね。そう私が納得する中、文香ちゃんは言いました。


「あのね……。美香は私の大好きな人だから。そんな美香が誰かに嫌われたら、私も悲しいの」

「文香ちゃぁぁぁん! うん、私、気を付ける! 文香ちゃんを悲しませないよう気を付けるねー!!」

「みぎゅう」


 今度は教室中に響き渡る程の大声で叫びました。教室の端にいた子がこっちを向いて「またやってるわ……」という目を向けてきました。


「なんでもいいけど、早くご飯食べるぞー」


「「「はーい」」」



「そういえば三人って凄く仲がいいですよね。幼馴染って聞いてますが、いつ頃から知り合いなんです?」


 そう尋ねると、美香さんは「よくぞ聞いてくれました!」と言いました。


「凄くドラマチックな出会いがあったの……。ね、文香ちゃん!」

「? そうなの?」

「え、覚えてないのー?!」


 あ……。気まずい瞬間を見てしまいました。翠さんも気まずそうにして……ないですね。むしろ、ジト目で美香さんを見ています。えーっと、ドラマチックな出会いってどんなのです?


「あれはまだ小学校3年生の頃。遠足に行った時のことなんだけど、集合時間まで残り僅かなのに、悠長に寝てる子がいたの」


……

………


『あれ? あの子って確か同じクラスの……。起こさないと! ねえ、起きて!』


『Zzz……』


『もう集合時間だよ、起きて』


『ふみゅう。ママ~? 抱っこ……』


『?!?!?!?!?!?! て、天使だぁ……』


………

……


「それが文香ちゃんとの出会い。あの時の衝撃は今でも覚えてる、もう本当に可愛くて可愛くて……。私、この子のお母さんになりたいって思ったんだ。あ、えっと! もちろん、今の文香ちゃんも大好きだよ!」


「そ、そんな事が。ちなみに、その後はどうなったんですか?」


「おんぶして運んだよ! 集合時間にはホントにギリギリ間に合ったわ。その後のバスの中でもずーっと可愛い顔で寝てて……。はあ、懐かしいなあ」


「なるほど、素敵なお話ですね。……ってあれ? ひょっとしなくても文香さんはその最中ずっと寝てました」


「そうね」


 ――それだったら、文香さんがその時のことを覚えて無いのはしょうがないのでは? あ、だから翠さんがジト目を向けてたんですね。なるほど。


「ちなみに、翠と知り合ったのもその時だよね」


「ああ。文香を寝させるためにバスの一番後ろの席に座ったんだが、そこで二人の隣にいたのが私だったんだよな」


「あの頃の翠は純真無垢で真面目な子だったのに……。なんで今は『こう』なのかしら?」


「失敬な」



 いやはや、いい話が聞けました。これはてえてえ純度500%のビューティフルな百合ですね!

(↑理系にあるまじき発言)



「ところで、久美さんは小学校の頃ってどんな子だったの? 遠足の思い出とかある?」

「それは私も気になるな。昔から真面目だったのか?」

「おぉ~。気になる」


 三人はじっと私の方を見てきます。そんな期待を込めた目で見られましても……面白い事なんて無かったですよ?


「えーっと。遠足の時は整備士試験の勉強をしてましたね」


「え?」

「あ、ああ。そ、そっか。確か8歳で試験を突破したって言ってたもんな」

「わあ~。遠足でお昼寝してなかったの? すごいね」


 信じられないものを見る目で私を見つめる三人。だって仕方ないじゃないですか。転生者の私にとって、小学校の遠足ってつまらないんですよ……。


「しゅ、修学旅行は?」

「試験は突破してたんだろ? 流石に勉強してたって事はない……よな?」

「しっかり寝てた?」


「修学旅行は、学会発表と被っていけなかったんです。あ、しっかり寝てましたよ」


「「学会発表?!」」

「寝てたんだね。よかった」

「「いや、安心するところじゃないから?!」」


 いやあ、私も修学旅行には行きたかったんですよ。だって修学旅行と言えば百合が咲き誇るじゃないですか。見たいなーって思っていたんですよ。

 だけどですね。学会発表の方にはもっと大人な――もっとディープな百合があったんです! 子供同士の百合を見飽きていた私は、いつもと違う百合を見たくなっちゃったんです……!


 結果ですか? はい、お察しの通り、結局そんな濃厚なのは見れませんでしたよ。公の場でそんな事するカップルはいませんよね、あはは。

 ですが、金髪美女同士のハグやキッスは見れたので、後悔はしてません。むしろ大大大満足です!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る