模擬戦にて

◆ Side 瀬奈 ◆


 今日の「戦闘」の授業では試合、つまり他の魔法少女と戦う訓練が行われています。闘技場内部で行われた戦闘は全て仮想の物であり実際に怪我を負う事はありませんので、お互い出し惜しみせずに戦う事が出来ます。

 今はアヤメさん、桃さん、私のパーティーと文香さん、美香さん、翠さんのパーティーの試合が行われているのですが……。


「え、マジで?! きゃっ!」「あ~れ~」


 アヤメさんと桃さんが退場してしまいます。


「あ、負けちゃった……」「あ、しまっ」


 ですが、こっちもやられっぱなしではないです。ミリ残っていたシールド残量がゼロになり、文香さんと美香さんが退場しました。ふぅ。これで残っているのは翠さんと私だけになりましたね。

 いったん仕切り直し――させて貰えないようですね。私の斜め後ろでレールガンをチャージしている音が聞こえます。……来る!


「ふっ!」


 足についているブースターを起動、宙返りするように攻撃を避けます。キャリィィィインという音と共に、私がさっきまでいた場所を弾丸が通過するのが視えました。間一髪でした。

 宙返りの最中、後ろにいた翠さんの姿を捉えました。すぐさまショットガンを放ちますが、回避されてしまいます。


「今のを避けますか」


「それはこっちのセリフだよ。なんで真後ろからの攻撃を避けれんだよ」


「貴方ならそうすると思ったので」


「どーなってんだよ、ホント。委員長、まじで強すぎ」


「あなたも凄く強くなっていますよ。以前の貴方ならさっきのショットガンに当たって下さったの……に!」


 放電グレネードの充電が貯まったので連続で発射します。彼女のブースターの状態を見るに、全弾避けるのは不可能なはず。さあ、どうします?


「私だって鍛えてるから……な!」


 翠さんは一つ目のグレネードをハンドガンで撃ち抜いて相殺、二つ目と三つ目をブースターで避けて、四つ目を帯電サーベルで切りつけて無効化しました。そしてお返しとばかりにプラズマガンを発砲します。

 明らかに以前の彼女よりも強くなっていますね。放課後に自主訓練しているという話は聞いていましたが、まさかここまでとは……。いったいどんな訓練をしたのでしょうか?


 その後も遠距離攻撃での攻防が続きましたが、なかなか決着が尽きそうにありません。これは……被弾覚悟で接近する方が良いかもしれません。


「今っ!」


 翠さんのレールガンがリロード状態になったのを見計らって私は彼女に接近します。翠さんはプラズマガンを発砲しますが、私はそれを盾で受けながら接近しました。避けずに突っ込んでくるとは思っていなかったのでしょう、翠さんは驚いています。作戦通り!

 さらに退路を断つように放電グレネードを投げつけます。至近距離で投げられたそれに気を取られている隙に、私はトドメの準備をします。そして……。


「抜刀!」


 特殊武器の一つ「刀」、それはさやに納められている間に魔力を増幅させ、鞘から出された時に爆発的な火力を出す武器です。

 これで決着、そう思っていたのに……


「なっ!」


 避けられた?! 翠さんはグレネードに直撃しながら、抜刀を躱したようです。

 まさか避けられるとは思っていなかった私は、一瞬の隙を晒してしまいます。翠さんはその隙を見逃さず、帯電サーベルとプラズマガンで私にダメージを与えます。


「っ!」


 どうにか猛攻から逃れたときには、私のシールド残量は残りわずかとなっていました。しかし、余裕がないのは翠さんも同じようで、シールドが割れかけています。


「「これで……!」」


 お互いとどめの一撃を入れようとして――。





「まさかの引き分けですか……」

「くっそー! 今日こそは勝てると思ったのにぃー!」


 結果は引き分けに終わりました。横で悔しがっていた翠さんでしたが、「そういえば」と言いながら私の方へ向き直って言いました。


「なんか委員長、強くなってないか? 以前にもまして動きがきびきびしてるっていうか」


「ああ、はい。実は……」


 別に隠す事でもないので、久美さんに相談したという事を話ました。


「……という訳で。久美さんはとても素敵な整備士でした」


「ふーん。そんな事があったのか。実はな、私が強くなったのも久美さんのおかげでさ」


「え、そうなんですか?」


 確かに翠さんの実力は見違えるように向上していました。一体何をしたのでしょう?


「ああ。『マッサージが必要です』って言われて整備室に連れていかれてさー」


「な?! そ、そ、そ、そんな事が?! 久美さんが、そんな事を?!」


「初めてだったから痛かったけど、途中からは慣れて気持ち良かったぜ」


「き、気持ち良かっ?! こ、この学校は恋愛自由ですが、そんな破廉恥な事はダメですわ! 節度は守って貰わないといけませんわよ!」


 何かをしたのではなく、んですか?! そ、そんな……。


「破廉恥? 何を言ってるんだ? 私は普通のツボ押しマッサージを受けただけだぞ。ついでに言うと実際にマッサージをしたのは別の先生だぞ」


「へ?」


 私があっけにとられていると、翠さんはニヤニヤしながら言いました。


「あれ? 委員長ってばどんなことを想像したのかな? どんなを想像したのかなー?」


「っー!!!! 何でもありませんわ!」


 まったく、翠さんが紛らわしい事を言うから悪いんです!


「あはは、委員長ってむっつりだよなー。それはともかく、真面目な話をするとな……」


 なんでも久美さんは翠さんの特訓に付き添い、様々な助言をしたそうです。そんな事があったのですね。


「いやはや、やっぱプロってすごいな。しかも優しいし。改めて尊敬したよ」


「そうですわね」



 はい、久美さんは本当にすごい方です。

 そうですか。クラスメイトと距離を置いている久美さんに、新たな理解者が出来たのは良い事ですね。


 ですが――何故かその事を素直に喜べない自分がいました。ひょっとして私は「自分だけが彼女の理解者」という優越感に浸っていたのでしょうか。それとも――。


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