知らない一面
前世の私は、いくつか好きなアニメはありましたが、オタクとまではいきませんでした。むしろオタクと呼ばれる人々に対して、漠然と「よく分からない人達」という認識を抱いていました。
ですが、この世界に来てから私は重度のオタクになりました。何故か? それは簡単、この世界のマンガやアニメって登場人物が全員女性なんですよ! 登場人物同士の恋愛は全て百合なんですよ、もう最高じゃないですか。しかも、邪魔な男性キャラが出てくる心配もないんです。最高でしょう?!
こうしてオタクになった私は、今日は同人誌の即売会に来ています。このイベントでは即売会以外にもコスプレイベントなども同時開催されているそうで、凄く楽しみです!
「あれはゲーム『ダンアイ』関連のエリアですね。わあ、沢山の本が売られています!」
ゲーム『ダンアイ』は音ゲーを楽しみながら本格的なダンジョン探索も楽しめるRPGゲームです。歌と踊りの力で魔法をぶっ放す「アイドル」を育成し、ダンジョン攻略に挑むって感じのストーリーです。登場人物同士の掛け合いが面白く、百合成分もたっぷり摂取できる良作なんです。
「えーっと、これはユニット『バニー
「は~い」
「バニラビが推しなんですか?」
「そうなんです~。アニメから入ったもので~。あ、こちら商品です~」
「なるほど、アニメ、良かったですよね。ありがとうございます、読むの楽しみです」
「まいどありです~」
こっちではユニット『アクマの寵愛』のコスプレをされている方々がいますね。わあ、ダンスもお上手です! 投げ銭不可避です。
こっちではサキ×スミ本が売られてますね。この二人は幼馴染カップルで、初めはただの親友だったのが、徐々に恋愛感情になっていく感じがとっても素敵なんです~。買っておきましょう。
「他にも何かありますかね~♪ あ、あれは?!」
カナ×ミナ本の、なかなか濃厚な本が売られていました。表紙だけ見てもとってもエッな感じですね。買いましょうか。ってあれ? あの売り子さん、どこかで見たような……。
「こんにちは、美香さんじゃないですか。こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「え? ぴぎゃあ?!」
美香さんは変な声を出しながら後ろにひっくり返ってしまいました。その声を聞いて、少し離れた場所にいた別の売り子さんが近づいて来ました。
「おいおいMIMI先生、どうかしたか? ってあれ、久美さんじゃないか」
「あ、翠さんもいたんですね。こんにちはです。ミミ先生?」
「えーっと。どうせバレるだろうしいっか。それ見てみな」
翠さんは売られているカナ×ミナ本を指さしました。改めてみると、本当にエッな表紙ですね。作者は――MIMI先生らしいです。それがどうしたのでしょうか。
あれ? さっき翠さん、美香さんの事をミミ先生って呼んでましたよね。ミミ先生、ミミ先生、MIMI先生……。
えっ?! もしかして美香さんが。
「作者さんです?」
「そういう事だな」
「はい、そうです……」
私の問いに翠さんが肯定し、美香さんは観念したように頷きました。
「あの、久美さん! この事は内密にしてほしいの! お願い、なんでもするから! 翠はともかく、私にオタク趣味があるって知られたら、みんなに馬鹿にされる!」
「あれ? なんか私、ディスられてね?」
美香さんは土下座する勢いで頭を下げながら懇願してきました。なるほど、美香さんは自分がオタクだって事を隠しているようです。だから私が声をかけた時、後ろにひっくり返るほど驚いたのですね。
「分かりました、ここで会ったことは誰にも言いません」
「ホント? でも、内心引いてるんでしょ? 陰でみんなに言いふらして『あいつ、キッモー』とか言わない?」
「引いてないですし、言いませんって。というか私だって『ダンアイ』のファンですから、引いたりしませんって。ほら」
私は自分の買った物を見せながらそう言いました。それを見た美香さんは心底驚いたのか口をポカンと開けています。
「え? 久美さんも好きなの、こういうの」
「ええ。ここへ来たのも買うためですからね、一冊下さい」
「う、うん」
「ほい、どうぞ。袋は要らないか?」
「はい、大丈夫です。読むの、楽しみです! あ、次のお客さんが来ましたし私は退散しますね」
「ま、まいどありー」
「また学校でなー」
美香さんがオタクで百合好きで絵が上手だったとは、知らない一面を知れましたね。
あ、ちなみにMIMI先生の本の感想ですが……。すっごく良かったです。カナとミナの絡みが尊くて尊くて、これだけで寿命が10年伸びた気がします。そして肝心のエッなシーンは、描写がとても艶めかしく、官能的で、美しかったです。MIMI先生の他の作品も読んでみたくなりました。
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