新しい景色

 体を洗い終わり湯船へ。おぉ結構深いですね。一足先に入っていた文香さんなんて、思わず泳いじゃっていますね。


「あ、文香ちゃん! 久美さん達が来たから、バタ足は辞めようね」

「ん、ちょうど休憩したくなってきたから。ぷかぷかしとく……」


 そう言って、文香さんは浮き輪に頭を乗せてぼーっとし始めました。そういえばお風呂に入る前、浮き輪を膨らませてましたね、それはこの為だったんですか。


「あの、久美さん。隣に座ってもよろしいですか?」

「あ、瀬奈さん。ええ、もちろんですよ」


 瀬奈さん達も体を洗い終わったようで、湯船へとやってきました。瀬奈さんに続いてアヤメさんと桃さんも湯船に入ってきました。


「はあー、おやっぱお風呂ってサイコー!」

「そうですね、疲れが染み出ていく気がします」

「そうだね~。あったかくて気持ちいい~」


 私の右に瀬奈さん、左にアヤメさん、そして正面に桃さんが座りました。……あれ、いつの間にか三人の輪に私も組み込まれています?


 そ、それにしても、桃さんが目の前にいると目のやり場に困りますね。思わず目を逸らして右を見ると、ちょうど瀬奈さんと目が合いました。


「瀬奈さん。この旅行、楽しかったですか?」


「はい、もちろんです。久美さんは楽しかったですか?」


「もちろん私も楽しかったです。寿命が千年伸びた気がします!」


 この三日間で、てぇてぇを沢山摂取できましたからね、元気いっぱいです。


「ふふふ、大袈裟ですよ。でも、良かったです。あの、もう知っているかもしれませんが、この旅行は美香さんが計画した物なんですよ。『修学旅行に行けなかった久美さんに、思い出を作ってあげたい!』って」


「え、私の為に?! 美香さんが?!」


 ちょっと離れた所で文香さんと翠さんと一緒にじゃれ合っている美香さんへ目を向けます。こっちの声が聞こえていたのでしょう、美香さんは顔を真っ赤にさせながら私の方を向きました。


「そ、そうだけど、悪い?! もしかしてお節介だった?」


 相変わらずのツンデレムーブですね。美香さんらしいです。


「まさか、すっごく嬉しいです。ありがとうございます、最高のプレゼントですよ!」


 そこまで考えててくれたなんて。てっきり『せっかくだし誘うかー』くらいのノリだと思ってました……。ええ、どうしましょう、嬉しさで胸がいっぱいです。


「そこまで言われたら、ちょっと照れるわね。よかった、また機会があったらこうしてみんなで旅行しようね」


「はい、是非!」


 文香さんが懐くだけあって、やっぱり美香さんって優しいですよね。将来はいいお母さんになるでしょうね。


「そんな訳で、今日の主人公は久美ちゃんなんだ!」

「だからね、せんせ~。私達からも先生に何かプレゼント出来たらなぁ~って思ってるんだ~♪」

「久美さん、何かしてほしい事とかありますか? なんでもしますよ」


 そう言ってアヤメ、桃さん、瀬奈さんが私の方をじっと見ました。い、今「なんでもする」って言いました? パリン……。この瞬間、私の中で自重のロックが壊れちゃいました。


「な、何でもしてくれるんですか? そ、それじゃあ、ちょっと瀬奈さんとアヤメさん、お互いの両手をぎゅっと握って、向かい合ってもらえます? もう少し近づいて……」


「え? こう?」

「こうです? こ、これ恥ずかしいですわ……」


 やっぱり百合といえば「向かい合わせ手組み」ですよね? 一度見てみたかったんです、それを直に見れるなんて! しかもお風呂で見れるなんて!


「……いい。とっっっってもいいです! つ、次は桃さんと瀬奈さんで! その次はアヤメさんと桃さんも! お願いします」


「え~っと? もちろんいいよ~。ぎゅ!」

「! や、柔らかいですわ……」


「次は彩芽ちゃんとだっけ~? これでいい?」

「おふ。こうやって近くで見ると、桃っちの方が大きいんだって再認識させられるね……」


「はい、最高ですね。最高としか言えませーん!!」


「久美さんに喜んでもらえて良かったです……って、何変な事させてるんですかぁー!!」


 はっ! つい調子に乗ってしまいました。遠くの方で翠さんと美香さんが呆れた目でこっちを見ていますね。文香さんは相変わらずぷかぷか浮かんでます。


「あはは~。時々先生ってこうなるよね~」

「瀬奈っち程じゃなけど、久美ちゃんもかなりむっつりだよね」


「うぐ」

「あれ、さりげなく私も攻撃されてます?」


「あの……ごめんなさい」


「謝らなくていいよ~。むしろ安心したよ、先生にもそういう欲があるんだな~って」


 そう言って桃さんは私を軽く抱きしめました。そして頭をなでてくれました。


「も、桃さん……」


「そうそう、誰にでもある感情なんだから! ほら、瀬奈っちを見てよ『この機会にになれないかな』って顔してるし!」

「そ、そんなこと思って……ません……わ」


 瀬奈さんが顔を赤らめながらプイッと顔を逸らしました。え、ちょっと、可愛すぎませんか?


「え? 冗談で言ったのに、そんなマジな反応されたら困るんだけど……。でもいいよ、私はそんな瀬奈っちを受け止めるから!」

「瀬奈さん……。わ、私も受け止めますよ!」

「私もいいよ~。瀬奈ちゃん可愛いし♪」


「なんで私が慰められてるんです?!」


 こんな話で盛り上がっていると、きっとそろそろ乱入してきますかね、翠さんが。あ、やっぱり来ました。


「面白い話で盛り上がってるじゃないか! 美香、文香! 私達もこのビッグウェーブに乗るぞ! いや、乗るのはビッグウェーブじゃなくて……」

「何変なこと言ってるのよ! そもそも私は混ざらな……ちょっと?! 引っ張らないで!」

「みんなで遊ぶの~? いいね、あそぼ~」



 わいわい、わいわい。盛り上がっている皆さんを見ながら私は思います。新しい景色が見えていると。


 私は今までずっと、皆さんの百合を傍観しているだけで良いと思ってました。魔法少女という星々が形作るこの銀河は、離れた所から観賞するに限る。そう思っていました。

 ですが、皆さんとの距離が近づくにつれて、もっと近くで見たいという欲求が高まってきて――。そして今、こうして私は百合の渦中にいます。

 銀河の中入った今、銀河全体を見渡すことは出来なくなりました。しかし、顔を上げるとそこには、目を見張る程に美しい天の川が広がっていたのです。


 これから先もずっとこの景色を見ていたい。ずっとみんなと一緒にいたい。

 そう決意した私は、皆さんと共に旅行最終日の夜を満喫するのでした。



 〈Fin〉


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