第9話 研修2 新しい相棒

がらんとした空間に岡田と絵美里が入った。

かなり広い部屋の奥に3つの熊夜叉に劣らない体格の藁人形が立っていて、部屋の隅には会議用のテーブルがあり、その上には何やら様々な装備が置いてあった。


黒光りする大口径自動拳銃まで置いてある。

絵美里が拳銃を一度手に取ったが、また置いた。


「一応特別な拳銃も貸与されるんですよ。

 妖怪の中には実体弾が効かない奴もいますからね、こちらもその対策が出来ていますけど、拳銃は後で隣の射撃スペースでね~!

 岡田さんが今まで使っていたサクラよりも結構威力がありますよ~!

 だって熊夜叉さんのような体格の妖怪にサクラじゃ全然効果無さそうなの判るでしょ?」


たしかに…。

熊夜叉のようなごつい体格の妖怪が襲って来たら今までの交番勤務で使っていた制服巡査用のサクラという拳銃のような非力なリボルバーで行動不能に出来る自信はないなと、岡田は思った。


岡田はアメリカに研修に行った同期が持ち帰った笑い話を思い出した。


よいか?岡田、アメリカで射撃講習も受けたけどな、その時に教官が38スペシャル弾を使うリボルバーを手に取って言ったんだよ。

これで人を撃つのはあまりお勧めできないな。

何故なら撃たれた人間が凄く怒るからだってさ。

うひゃひゃ!

死ぬとか怪我するとかじゃなくて怒るだとさ!

俺達に支給されているサクラはその非力な38スペシャル弾よりさらに火薬を減らして威力を弱めている弾をたった5発しか入っていなくてしかも予備の弾なんて無いんだぜ!


そう言って同期の奴がやってられねえよな!と言って酒をぐいと飲んだのを思い出した。


絵美里が拳銃を置いてからベルト通しが付いたナイロンのポウチを手に取ると蓋を開けた。


「さて、カプセル狼なんですけど、岡田さん、あとで説明すると思うけど妖怪の成り立ちって判ります~?」


絵美里から言われて岡田は昨日の夜、熊夜叉が通報者の家政婦に言った言葉を思い出した。


「あの、確か人間が死んで幽霊になって100年以上経つと確か妖怪に…。」

「そうそう!

 そうなんですよ~!

 人間由来の妖怪はまぁ、大体そんな流れですね~!

 そして、動物もねそんな感じで妖怪になるものがいるんですよ~!」

「…動物も…。」

「そうそう!

 まぁ、そんな存在もね妖怪が手なずけて何というか、一種の使い魔にする事が出来るんですよね~!

 勿論ある種の手続きを踏めば人間でも使い魔として使う事が出来るんですよ~!」


絵美里がポウチからボールペンを太くして長さが3分の1くらいのものを取り出した。


「この中にはシベリア狼が妖怪になった者が封印されているんですよ。

 携帯用の警察犬と言うか警備犬と言うか…まぁ、岡田さんのボディガードのような事をしてくれます。」

「…警察犬…ですか?」


絵美里がニヤリとした。


「まぁ、妖怪警察狼という感じですかね~!

 もちろん普通の警察犬よりずっと強いし、おつむはそれなりだけど簡単な言葉のやり取りは出来ますよ~!

 そして手なずけた妖怪によると犬のように接してやれば良いそうです。

 岡田さんとハンドラー認定の手続きをすれば忠実極まりないボディガードになります。

 この子達を導入してからY事案特捜部の殉職率も少し減りましたからね~!」


なるほどそれは心強いなと岡田は思いながら子供の頃に家で飼っていたシェパードを思い出した。


絵美里が2つのカプセルを手に取った。


「使い方自体は簡単です。

 いざという時はこのカプセルを投げてこの子達の名前を呼んで『行け!』と叫べば良いです。

 この子達、頭が良いから封印を解かれた時に大体の状況判断が出来ますし、何よりもハンドラーを守ろうとしますからね。

 攻撃しろとか誰々を守れとかの命令も聞き分けます。

 収容する時はやはり名前を言って『戻れ!』と言えばまたカプセルに封印された状態でハンドラーの手に飛び込んできますから。

 まず、岡田さんとハンドラー認定の手続きですね!」


絵美里がカプセルを俺に見せた。


「この2つのカプセルにそれぞれ1頭ずつ封印されています。

 雄の『ケン』と雌の『メリー』です。

 今から封印を解放しますけど、見た目が少~し怖いけど取り乱したり逃げようとしないでくださいね。

 ハンドラー認定が済まないと岡田さんが慌てて逃げようとしたり騒ぐと襲い掛かるかも知れないですから~!」


絵美里は何がおかしいのかきゃはは!と笑い声をあげた。


「あ?岡田さんは犬とか大丈夫ですか?」

「え、ええ、子供のころ家でシェパードを買っていましたから…。」

「そうなんだ!

 其れなら大丈夫そうですね!

 封印を解きますよ~!

 ケン!メリー!行け!」


絵美里がカプセルを前方に投げつけると、ボワン!と煙が上がり、妖怪警察狼のケンとメリーが姿を現した。


岡田がケンとメリ―を見つめて固まった。


怖い…岡田は凄く怖く感じた。


通常の狼の優に2倍近い体格で物凄い牙を剥きだし、2本のしっぽが生えていた。

2頭の妖怪警察狼はじっと岡田を見つめた。


ケンとメリ―が素早く周囲を見回し、岡田に目を止めた。


「…だれ…こいつ…。」

「えみりたん…こいつ…ころす?」


ケンとメリーが岡田を睨みつけながら牙を剥きだしていささか低い声で言った。








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