第15話 岡田、拳銃の腕前を試される
片桐が食事を終えてどんぶりを洗いに行った。
詰め所の片隅の流しで腕まくりをしてどんぶりを洗う片桐を見て岡田は少し、見直した気分だった。
食事を始める時も手を合わせて小声でいただきますと言ったし食べ終わった時も手を合わせてごちそうさまでしたと小声で言っていたし、ワシワシと食事をしていてもなんというか、食べ方が奇麗だった。
初日の印象ではガサツで狂暴なイメージを持っていた岡田は改めて片桐を見直した思いだった。
岡田は新巻鮭を平らげて割りばし程の巨大な楊枝で歯を掃除している熊夜叉に声を掛けた。
「あの…熊夜叉さん…。」
「なんだ?岡田?」
「片桐警部って…意外とその…。」
熊夜叉は楊枝を置き、口内洗浄液を口に含みうがいをしてからごくりと飲み込んだ。
「なんだ?
片桐が意外と行儀良いと言いたいんだろう?」
岡田が疑問を見透かされた気分で頷いた。
「はぁ…はい。」
熊夜叉がぐふぐふと笑った。
「奴は元々高名な神社の巫女だったからな。
代々禰宜の家系なんだよ。
しつけが厳しい家だと言ってたぞ。」
「…。」
「そして子供の頃に神隠しに会って数年間行方不明だったらしいな。
本人はあまりその事は言いたくないらしいから、岡田、その辺りの質問するなよ。
それに警察官になる前には色々とハードでやばい経験があるらしいしな。
まぁ、そんな経歴の奴だから…こんな部署には持って来いの人材じゃないか?」
熊夜叉がそこまで言うとぐふぐふと笑った。
「まぁ、あの若さで気色悪い人面爺を平気で受け入れて背中を貸しているしな。」
岡田は熊夜叉の言葉を聞きながら、食後の歯磨きをしている片桐の後ろ姿を見つめていた。
歯磨きを終わった片桐が岡田と熊夜叉の所に来た。
「さて、岡田、午前の研修はどうだった?
まぁ、絵美里は親切丁寧だからな。
判らない所はどんどん質問しろよ。」
「はい、そうします。」
片桐が腕時計を見た。
SINNの856S。
余程タフな使い方をしてきたのか所々に傷がついている古強者の時計のようだった。
「夕方になったら、春日部の張り込みに行くが、まだ時間があるな…。
岡田、お前の射撃の腕を拝見するとしよう。
うちの特捜部は拳銃の使用事案が通常勤務の警官と比べたら段違いに多いんだ、射撃の腕前は重要なスキルだぞ。
来い。
熊夜叉も一緒だ。」
片桐は岡田と熊夜叉を連れて廊下に出ると奥の方に歩いて行き、突き当りにある頑丈な扉を開けた。
そこは射撃場になっていて、絵美里がいて射撃台に拳銃を置いて待っていた。
「霞タン、熊夜叉タン、やっぱり来たんだね~!」
絵美里の笑顔に片桐が苦笑を浮かべながら答えた。
「絵美里、一応新人の射撃の腕は確かめないとね。
今日の張り込みに岡田にうちの拳銃を持たせて大丈夫か確かめないといけないからな。」
片桐が岡田に振り向き顎をしゃくった。
「資料を読んだが、一応岡田は射撃検定ではまぁまぁの成績だな。
実銃射撃は辛うじて上級、シミュレーターでもまぁ、上級か…上の下と言う所だったな。」
「はい、まぁ…。」
「宜しい、だが特捜部で使用する拳銃はへなちょこ威力のサクラではない。
サクラより数段威力が高い40口径の自動拳銃だ。
自動拳銃の操作もリボルバーと違って些か複雑で反動もそれなりにある。
本来は朝霞あたりで研修をするべきなんだが、そんな時間の余裕は無いんだ。
夕方には春日部の張り込みに連れて行くぞ。
ここで射撃講習を受けながら、実務もしなければいかんのだ。
いささかハードな時間割だが、しっかりついて来いよ。
それじゃ、絵美里、頼むよ。」
片桐と熊夜叉が腕組みをして見守る中で岡田は特捜部で使用する大型の自動拳銃の説明を受けた。
「それじゃ岡田タン、始めるよ~!」
いつの間にか絵美里は岡田さんから岡田タンと呼ぶようになっている事に岡田は気付いた。
多少受け入れてくれているのかな?と岡田が思った。
絵美里が拳銃を手に取った。
「特捜部で使う拳銃はこれ。
SIGザウアー製のP226の40口径バージョンだよ~。
体力的に人間以上の妖怪相手のケースが多いからどうしても最低これ位の威力が必要なんですよ~!」
岡田は絵美里から基本的なSIGの扱い方を教えられ、何回も同じ操作を練習した。
そして絵美里が予備のマガジンを出した。
「岡田タン、妖怪の中には物凄く強い装甲板のような皮膚のものがいますからね~!
普通の銃弾では貫通出来ない時はこちらを使ってください。」
絵美里は普通のマガジンの横に黄色く塗られたマガジンを置いた。
捜査に出る時に拳銃の携行が必要と思われる時は予備のマガジンを2つ持って行き、そのうちの1つは黄色く塗られたものだった。
「黄色いマガジンにはアーマーピアシング弾が装填されています。
銃弾が聞かないと思ったらこちらのマガジンに差し替えて撃ってください。
もっとも弾頭に竜の牙の粉末がコーティングされているからとんでもなく貫通力が強いから射撃する時は注意してくださいね~!」
「…竜の牙…。」
絵美里がおかしそうに笑った。
「私の抜け替わった牙を使っているんですよ~!
大体3週間に数本抜け替わるからね~!」
「…。」
「そして通常のホローポイント弾頭にもこのアーマーピアシング弾頭にも妖怪が実体を消していても有効なように特殊な磁場を持つ実体化維持グローブと同じ繊維を弾頭にコーティングしているから普通の拳銃のように使えるようにしてありますから~!」
そこまで行ってから絵美里はシューティンググラスとイヤーマフを取り出し、岡田に渡し、自分にも装着すると射撃場の強力換気扇のスイッチを入れた。
「まず岡田さんの腕前を拝見しようかな~?
5発入りのマガジンをここに置きますからマガジンをセットして装填したらあの標的を撃ってください。
サクラと段違いの反動だからしっかり拳銃握ってくださいね~!」
絵美里が10メートル先のごつい妖怪のシルエットのターゲットを指差した。
後ろではやはりシューティンググラスとイヤーマフを装着した片桐と熊夜叉が腕組みをしながらにやにやしていた。
片桐が言って熊夜叉が頷いた。
「岡田、腕前拝見だな。」
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