第12話 研修5 その他の装備色々


絵美里が様々な装備が置かれたテーブルに歩み寄り、岡田もついて行った。


「どうぞ座って。

 さて、まずはこれですね。」


絵美里が拳の部分が厚めの手袋を手に取った。


「これは実体化維持グローブ。

 妖怪の中には物理的な実体を消す能力があるものもかなりいます。

 普通に体を掴んでいても実体を消すと掴んだ手からするりと抜け出る事が出来るんですよ。

 まぁ、そう言う事が出来るから妖怪と言えるんですけど~。」

「…はぁ…。」


絵美里がにこりとして岡田に手を差し出した。


「岡田さん、私の手を握ってみてください。」


絵美里の申し出に岡田は戸惑い、固まった。


岡田は女子と手をつなぐなんて事は学生の時にフォークダンスで嫌そうな顔をした女子と手をつないだ時か、警察学校のクロスカントリー訓練で同期の女子警官訓練生の身体を障害物から引っ張り上げる時に手を握ったくらいしか無かったのだ…。


岡田は…チェリー岡田だった。


岡田はときめきと戸惑いを胸に、絵美里の手を握った。

その柔らかくすべすべした感触に密かに酔いしれているといきなり絵美里の手の感触が消え失せた。


「あれ?」


岡田が宙を握りしめている自分の手を不思議そうに見ると、絵美里が差し出した自分の手を岡田の顔の前でひらひらさせた。


「ほら、私達妖怪は実体を消す事で簡単に人間の束縛をすり抜ける事が出来る者が多いんですよ~!」


背中で竜のしっぽを振りながら絵美里が笑った。


「そこで!これなんです!

 じゃじゃ~ん!

 実体化維持グローブ!

 岡田さん、これを手にはめてみてください。」


岡田は差し出されたグローブをはめた。


「はめましたね?

 それではもう一度私の手を掴んでください。

 思い切り力を込めて掴んで大丈夫ですよ。」


岡田が絵美里の手を力を込めて掴んだ。

絵美里が岡田の手から自分の手を引き抜こうとしたが、今度は引き抜けなかった。


「このグローブは特殊な磁場を発生する妖怪の髪の毛を織り込んでありますから、掴まれた妖怪が実体を消してすり抜ける事が出来なくなるんですよ。

 そして、このグローブをはめた人間の身体全体を磁場が覆うから、手も足も有効に使えるんです。」


絵美里が立ち上がった。


「岡田さん、今度はあたしの身体を思いきり抱き締めて動けないようにしてください。」


絵美里の言葉に岡田の心拍数が跳ね上がった。

岡田はドキドキしながらも言われた通りに絵美里を抱きしめた。


「しっかり抱きしめていてくださいね~!

 私が逃げようとしますから~!」


岡田の腕から逃れようと身を捩ったが、逃れる事が出来なかった。


「ほら!ね!

 磁場の影響で実体を消す事が出来なくなるんですよ~!

 だから人間でも妖怪の身柄を確保できると言う事なんです~!」


岡田は力を込めて絵美里を抱きしめ、その柔らかい身体ととても良い匂いに夢中になり、そして絵美里が岡田の腕から逃れようと身をよじり多少息が荒くなることにますます興奮してしまっていた。


1700歳以上の竜の化身の絵美里だが、岡田はもうそんな事にも構わないと思ってしまった。


「岡田さん、判りましたか?

 ん!んふ!もう離して大丈夫ですよ~!

 あ!こら!離しなさいよ~!」


いきなり絵美里の背から竜のしっぽが飛び出て岡田の身体を跳ね飛ばした。

岡田が床に這いつくばった。


「あら!きゃ~!

 御免なさいね~!

 私の体臭って特殊な媚薬成分が少し入っているらしくて…人間の男性が少しおかしくなると言われたけど…もう、人込みを歩いたり満員電車乗ったりすると大変な騒ぎになるんですよ~!

 岡田さん大丈夫~?」

「…あ、はい、大丈夫です…しかし絵美里さん…媚薬成分て…。」

「どうも私の匂いをあまり長く嗅いでしまうと人にもよるけど時間の流れさえ忘れてしまうらしいんですよ~!

 先に言っておけばよかったですね~!

 御免ね~!」

「時間を忘れる程…まるで浦島太郎…竜宮城の乙姫みたいですね…」

「ああ!あれは私の姉よ~!きゃはははは!」


本当の事なのか、からかわれているのか、岡田には判らなかった。


「さて、次の装備ゆきますよ~!

 どれも岡田さんの命を守るためのものですから、きちんと手抜き無しで説明しないとね~!」


絵美里がそう言うと、シャツの裏に来ても目立たないサファリランドクラスⅠ位の頼りない薄さのチョッキを取り出した。


「これはね~!

 結構貴重品なんですよ~!

 素材となる超希少種の妖怪の体毛があまり取れないからね~!

 でも、防弾も防刃も最高品質ですよ、ケブラー繊維やスペクトラム繊維、セラミックアーマーより、最近流行りの超高分子量ポリエチレン繊維も裸足で逃げだす位凄いんですよ~!」


自慢気に語る絵美里。

又その背中から竜のしっぽが飛び出てぴょこぴょこと左右に振れた。





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