第18話 張り込み

〒344-0103埼玉県春日部市上吉妻1の春日部市立江戸川小中学校に向けて覆面パトカー仕様のハイエースが走って行く。


助手席で絵美里から渡された法務関連のハンドブックを読む様に言われた岡田。

片桐がハイエースを走らせながら声を掛けた。


「岡田、特に刑法と刑事訴訟法の妖怪関連の変更点は頭に叩き込んでおけよ。

 しばらくは暇があったらしっかり読んで頭に入れておけ。

 それを読み続けながら今日の張り込みに付いて言うから聞いて置け。」

「はい。」


片桐は今日の張り込みに向かう事案の説明をした。

どうやら人の精神を思うがままに操り、それまで全く問題無く生活していた人間を意味不明な奇行を行わせて混乱させると言う、一種の愉快犯らしい。


「愉快犯…ですか?」


岡田が尋ねた。


「そうだ、人を操り金をとらせたり誰かを殺そうとする明確な意思は無さそうなんだが、奴らの行動の結果ターゲットになった人間が死んでしまっても大して気にしていないようなんだ。

 今のところ、奴らの犯行の動機が判らない。

 今は単なる憂さ晴らしで面白半分に犯行を続けていると判断している。」

「あの…奴らって…。」

「ああ、複数犯の可能性が高くてな。

 巧妙に自分の後を消していて今まで奴らの存在が判らなかったが、ターゲットになった犠牲者の奇行の通報で駆け付けた警官にたまたま霊感の強い者がいて、どうやら背後に妖怪が絡んでいると気が付いてな、そしてこちらにお鉢が回って来たんだ。」

「…。」

「うちで今までの春日部周辺の奇行事案や自殺者を調べたらやはり背後に妖怪の存在を突き止めた。

 そして、犯行を繰り返す妖怪と関わる人間の事も突き止めたが、なにせ今のところしっかり証拠を掴んでいないからな、任意で聴取をしたりしたら、まだ所在を掴んでいない肝心の主犯である妖怪が姿を晦ます恐れがある。

 今のところは唯一の情報源である人間に交代で張り付いて監視していると言う所だ。

 あいにくと具体的にどうやって妖怪と接触しているかがまだ判らないんでな。

 張り付いて監視して何かぼろが出るのを待つしかない。」

「その、妖怪と関わっている人間とは…。」


片桐が苦笑まじりに答えた。


「ああ、一見ごく普通の主婦だ。

 小学4年生の娘が1人、旦那は東北に単身赴任中だ。

 人相風体を覚えておけ。」


片桐がファイルを岡田の膝の上に置いた。

隠し撮りで撮影された主婦の写真があった。

一見ごく普通のどこにでもいそうな30代後半と思われる女性だった。


田之上恵たのがみめぐみ37歳だ。

 人面爺は感が強いからな。

 田之上に妖怪が接触してきたらすぐに判る。

 今日は監視するだけだが、突発的に状況が激変するのがうちの現場だからな。

 気を抜くなよ。」

「はい。」

「それと長丁場になるかも知れんから途中でだらけるなよ。」

「はい…長丁場になりそうですか…。」


岡田が小声で言うと片桐がニヤリとした。


「岡田、安心しろ午後12時に交代の班が来て私達の今日の仕事は終わりだ。」


後席で寝そべる熊夜叉がニヤリとした。


「今日は残業5時間すこしと言う所だな。

 俺達の仕事はそこで終わりだ。

 何かが起こらない限りはな…。」


そう言うと熊夜叉は乾燥した新巻鮭のスティックを取り出すとぼりぼり齧り始めた。


「私達も夕食の準備をしておかないとな。」


片桐がそう言うと〒344-0011埼玉県春日部市藤塚2624-1のローソン 春日部藤塚店の駐車場にハイエースを停めた。


「買い出しだ。

 岡田、ついて来い。」


熊夜叉をハイエースに残して片桐と岡田はローソンに入り買い物をした。

やはり人面爺の分まで食べなくてはならないのか、片桐の夕食は大量だった。


三元豚の厚切りロースソースカツ丼(とんかつ まい泉監修ソース使用)と半熟たまごの牛すきごはんをかごに入れた片桐は更に新発売のごはん大盛!肉野菜弁当を手に取り、何かぶつぶつと呟いてからかごに入れ、そしてご褒美スティックケーキ 濃厚モンブランを2つ、更にバニラ香るもっちりプリン〜エスプレッソカラメル仕立てを手に取り、鋭い目つきで見つめてからかごに入れ、そしてコーヒ牛乳の大きな紙パックをかごに入れた。


片桐は岡田のかごを見た。

岡田のかごにはレタスサンドとハムチーズたまごサンド、お茶のペットボトルが入っていた。


「なんだ、岡田は意外と小食なんだな。」


片桐が呟いたが、いやいや片桐警部が食べ過ぎなんだよ!と岡田は思った。

岡田の心を読んだのか片桐が自分の背中に親指を向けた。


「まぁ、私はこいつの分も食わないといけないからな。」



















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