第19話 張り込み2
片桐が運転するハイエースは〒344-0103埼玉県春日部市上吉妻1の春日部市立江戸川小中学校の裏門についた。
「よし、ここなら家の様子が判る。
岡田、あの緑がかった白い家がそうだ。」
片桐が指差す方向に洒落た感じの一軒家があった。
「単身赴任中の旦那はかなり稼ぎが良いのだろうな。
ホシ…いや、ホシに繋がる重要参考人はパートも何もしていない専業主婦だ。」
「片桐警部、なぜ
片桐が運転席からやや背中を離すとその襟から人面爺がチューブに押し出されたマヨネーズのように顔を出した。
「わしじゃよ、岡田。」
「ひ…すみません、いきなり顔を出さないでくれますか?
まだあまり慣れていないので…。」
「失礼な事を言う小僧だな。
まぁ、良いさ。
越谷でな主婦がいきなりスーパーのトイレで変なコスプレをして街に飛び出して両手に持った赤と緑の塗料のスプレーを誰彼構わず吹きかけてな、そして駆け付けた警官達に追い詰められて電柱に昇り、降りてこなくなった事件じゃが…。」
岡田が声を上げた。
「ああ!私もそのニュースはテレビで見ました!
確か電柱のてっぺんに昇って3時間も降りてこなかったと言う…。」
「そうじゃ、あの時は我らの班も別件で越谷の捜査に行っておったのだが、どうやらY事案と言う事で応援に狩り出されたのじゃ。」
「人面爺、これから飯を食うんだ喉が窮屈になるから背中に引っ込んでくれ。
後は私が説明する。」
人面爺がチッと舌打ちして片桐の背中に引っ込んだ。
片桐が弁当を開け始めながら人面爺の後を継いで話し始めた。
「私達も駆け付けたがその主婦は狐憑きに似たような状態だった。
岡田、お前もニュースを見たなら結果は知っているだろう?」
「ああ、はい、それまで下に集まっている警察官達に罵詈雑言を浴びせていた主婦がいきなり正気に戻った感じで、電柱にしがみ付いて、高い所は苦手なのよ~!誰か助けて~!と叫んで結局救助されたと言う感じでしたよね。」
「そうだ、その時周りの野次馬の中で人面爺が怪しい奴を見つけてな…。」
後席で熊夜叉がビーフジャーキーをくちゃくちゃ噛みながら後を説明した。
「それがあの
人面爺も具体的に細かいところまでは読めなかったのだが、かなり怪しいと言う事で俺達は密かに
そしてな、過去の奇行事案を調べたらな、ちらほらと彼女と関係がある奇行事案当事者の名前が出て来たんだよ。
奴のママ友だとか、奴の旦那の担当だった生命保険会社の社員だったりとな…まぁ、全部の奇行事案全てが奴の関係者や接点があるかはまだ判らんが、今のところ手掛かりと言えるのは奴しかいないんだ。」
片桐が弁当をワシワシと食べ始めた。
「そこで地道な捜査を始めたと言う訳だ。
彼女が何かの鍵を握っているのは間違いない。
岡田、私達が食べ終わるまでしっかり見張っていろよ。」
「はい。」
岡田は双眼鏡を覗いて
1階のリビングに電気が付いていて窓越しに子供がテレビを見ているかゲームをしているのか。
その奥のキッチンで
岡田が見る所、ごく普通の平穏な家庭の感じがした。
制服の巡査になってから私服の刑事になる事にあこがれを持っていた岡田だった。
化け物課と言われるY事案特捜部に配属されたのはいささか不満だったが、今張り込みをしている自分を少しだけ嬉しく思った。
双眼鏡を覗きながら岡田は片桐に質問した。
「あの…片桐警部…お食事中ですが一つ質問しても良いですか?」
「なんだ?」
「あの…前々から疑問に思っていたんですが…なぜ急に今になってからその…妖怪や幽霊が現実に存在する事が人類にはっきり判ったのでしょうか?
なぜ、妖怪が大っぴらに人類の前に姿を現したのでしょうか?」
「…。」
「その…なんで今になって急にって…気にはなっていたんですけど…。」
岡田は熊夜叉から過去に片桐が神隠しに遭った事、そして、絵美里から異なる世界でまだ子供だった片桐に会った事があると聞いている。
岡田は片桐ならば何かこういう状況になった事の原因を知っているのではないかと思っていた。
片桐は口の中の弁当をお茶で流し込んだ。
「岡田、お前はここに連れて来られてから初めてまともな…と言うか、根源的な質問をしたな。
まぁ、夜は長いな
私が知っている所くらいまでは暇つぶしに話してやろう。
私達がこれを食い終わるまでしっかり見張っていろ。」
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