第20話 張り込み3

やがて片桐は食事を終えた。

今のところ張り込み対象にこれと言った動きは無い。

人面爺も妖怪の接近接触は関知していなかった。


岡田が食事を始めた頃に片桐が話し始めた。


「岡田、先ほどの質問だが、お前はそもそも発端となった事件の事は知っているよな?」

「ああ、はい。

 群馬の神社の件ですよね。

 警察に追われた窃盗団が神社に逃げ込んだところにカラス天狗の集団が突然現れて…。」

「そうだな、あの時窃盗団の奴らは全部、カラス天狗が捕まえて警察の前につき出した…まぁ、縛り上げて警官達の前に放り出したんだがな。

 あの時窃盗団の奴らは神社裏の山の中にあちこち散りじりに逃げそうでな。

 警察でももっと応援を読んで山狩りをしなきゃいけないような状況だったんだが…。」

「…。」

「岡田、神社と言うのは大体が本来の神域は私達が普段お参りする所じゃないケースが多いんだ。

 大抵は神社のもっと奥の山の中などが本当の神域なんだ。

 窃盗団の奴らは神社に逃げ込んで来た時にかなり罰当たりに神社を荒らしてな、そしてさらに警察から逃れるために裏山、本来の神域に侵入しようとしたんだ。」


岡田が食事を終えたのを見て、片桐が窓を開けてラッキーストライクを取り出すと火を点けた。


「たまたま運の悪い事のあの晩は近所の有力妖怪が裏山の神域で会合をしていてな、警備担当のカラス天狗達が…カラス天狗系の妖怪は妖怪の世界でも主に警察的な役割をするものが多いんだよ。

 現にY事案特捜部はカラス天狗系の妖怪が多いしな。」

「はぁ、確かにそんな感じがしますね。」

「そしてカラス天狗達が侵入してきた窃盗団をふん縛って警察の前に放り出したのさ。

 その時にな、警官達がカラス天狗を見てそりゃあもう驚いた。

 驚いたのはカラス天狗たちも同じだったそうだ。

 明らかのその場にいた警官全員が自分達の姿を見ている事に驚いた。

 いままでごくごく少数の人間にしかその姿が見る事が出来なかったからな。」


そこまで言うと片桐がラッキーストライクをまた吸って煙を窓の外に吹き出した。


「カラス天狗たちが警官達に最初に言った言葉がこうだったらしい。

 驚き固まる警官達にな『お前達…わしらが見えるのか?』とな…。

 まぁ、これが妖怪の存在が公になるファーストコンタクト事案と言う訳なんだよ。」

「…つまり…。」

「そうだ、誰が仕組んだかは判らない、何が原因なのかも判らないが、突然人間達に妖怪の存在が感知できるようになったと言う訳さ。

 ほとんど全ての地球上の人間に妖怪が見えて話せて触れる事が出来るようになったと言う訳さ。

 妖怪以前の死霊も見えるおまけ付きでな。

 当然大騒ぎになってしまうから警察のほうでもなんとかこの事を隠蔽しようとしたがな、ほら、警察密着なんとかと言う番組があるだろう?

 その時警察に同行していた取材班のカメラにもばっちりカラス天狗が映ったしな。

 そしてほぼ同じくらいの時期に日本各地、いや世界各地で妖怪を見た!精霊がここにいる!悪魔が姿を現した!と市民からの通報がどんどん来て隠しきれなくなったと言う訳さ。」

「…。」

「まったく、気が遠くなるほどいにしえの時代から存在していた妖怪が突然その姿を現したと言う事でな、古くからすぐ隣にいた隣人である妖怪がな、姿を現した。

そして、それからは岡田も知るような大騒ぎになったと言う訳だ。」


そう、それからの騒ぎは岡田も知っていた。


片桐が双眼鏡を手に取って張り込み対象の家を覗きながら続けた。


「日本の場合は運が良かったかな?

 まず、人間界と妖怪世界の警察に当たる者同士が最初に接触して比較的冷静に対応できた事。

 そして、その時裏山には日本の有力な妖怪たちが集まっていた事でな。

 多少の混乱はあったが、人間と妖怪達の影響力がある者同士が会合をしてこの事態をどう収拾するかの話し合いを持つ事が出来た訳だ。」









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