第21話 張り込み4


片桐が言うように人類が妖怪と死霊の類を認知した事で一時期は世界中が大混乱に陥った。


ごくまれに昔に亡くなった死霊との対面を果たして涙なしでは見られないような感動動画なども現れたが、ごく少数の例外を除いて世界中がパニックに陥り、あわや人類がいたるところで妖怪に攻撃をかけ、妖怪の方でも気分を悪くして反撃をし、頭がおかしい者が国を統治して更に核兵器など持っている国は自国領土内に核ミサイルを発射する寸前になると言う騒ぎになった。


非常に幸いにも人類側と妖怪側の指導者層が理性を取り戻すように必死に呼びかけ、騒ぎは徐々に沈静化して人類が妖怪もろとも滅亡するほどの騒ぎはおさまった。


それでも一神教を信じる国々では未だに紛争の種がくすぶっているが、これは仕方がない事だろう。

一神教ではただ一つの神以外の人間以外の存在は全て悪魔と片付けて来たから…。

宗教指導者たちは悪魔以外にも神が送り込んだ使徒もいてそれが妖怪の原型なのかも知れないと信者に告げてなんとか騒ぎは収まりつつあったが…。


日本は更に幸いにも神道系統の宗教観があったからなのか800万からの神がいると言う『緩い』考えが浸透していたので取るに足らない小競り合い程度で騒ぎは収まり、人間と妖怪の間での協定が成立し、世界に先駆けて人間妖怪共同チームによる妖怪警察を設立した。


そして世界も日本に習って妖怪との協定を結び、各国に日本同様の妖怪警察が出来たと言う事だった。


片桐が唐突に言った。


「岡田…いきなり妖怪や死霊が人間に認知されたと言う事はな…。

 ただの偶然でなくて…何か大きな流れの中の通過点に過ぎないかも知れないんだ。」


片桐の言葉を聞き、それがただの感想でなく何か確信めいたものを感じた岡田は身を乗り出した。


「え、それって、片桐警部。

 片桐警部は何かを既に知っているんじゃないのですか?」

「顔が近いぞ岡田。」

「あ、すみません…。

 自分は片桐警部が過去に神隠しに遭った事と、神隠しに遭ってその…異世界のような所で絵美里さんに会った事も聞きました。」


片桐が苦笑いを浮かべた。


「ふふ、絵美タンもおしゃべりだからな…そう、私は一時期確かに妖怪たちの世界にいた事があり、様々な存在と出会ったのは確かだ。

 ただな…お前が聞きたい事は判るがその…。」


そこまで言ってから片桐が視線を外に向けた。


「今はまだ話す時期ではないな。

 私も人間界に戻ってからは神隠しに遭ってからの一切の記憶が無いと言うしかなかったんだ。

 張り込みに集中しろ。

 いずれ話す時も来るかもな…。」


結局何も起こらず、何の情報の得られずに交代の班がやって来て張り込みは終わり、片桐達は県警本部に戻りその日の業務は終了した。


片桐は神隠しに遭った時の事は一切言わなかったが岡田は非常に非常に片桐が体験した事が気になった。

次の勤務の時に、神隠しに遭った片桐に出会った時の様子をもう少し絵美里から聞き出そうと思いながら絵美里から渡された法務関連のハンドブックを持って帰路についた。


家では勤務の疲れが出て風呂に入り軽い夜食を食べた後ハンドブックを持ってベッドに入り数行読んだところで寝落ちした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖怪警察事件簿 とみき ウィズ @tomiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ