第17話 研修並行捜査のハードスケジュール


岡田が絵美里が抱えて来た弾薬箱を見てげっそりした。


「岡田タン、この箱に1200発入っていますよ~!

 勿論練習用の普通の弾薬です。

 それでこっちは予備のマガジンが10個!」


絵美里が予備のマガジンが入った箱を横に添えた。


「まずはこのマガジンに弾を詰める事から始めてね~!

 うちはあまり予算が潤沢じゃないから、ローダーなんて無いから、マガジンには1発づつ手で詰めてくださいね~!」


岡田はため息をつきながらも椅子に座り、マガジンに1発づつ弾を詰め始めた。

1マガジンに12発。

満タンに近づくと指の力も込めて弾丸をマガジンに押し込まなければならなかった。

これは意外に重労働になると、岡田は箱に詰まった弾丸を見て思った。


絵美里はまた箒とちり取りを手に持ちキャスター付きのゴミ箱を押してきた。


「エジェクトした空薬莢は小まめに掃除してこれに入れるようにね~!

 案外、空薬莢に滑って転ぶ事も有るから~!」


銃の手入れが終わった片桐と熊夜叉が立ち上がった。


「岡田、詰め所に戻るからな。

 もう少し撃ち込んでいろ。

 張り込みに出かける時は知らせる。

 大体の状況は春日部に行く途中に教えてやる。」


片桐と熊夜叉が出て行った。


岡田が片桐達を見てため息をついた。

まだ、空のマガジンが7個も残っている。


「あのう、絵美里さん…。」

「なんですか岡田タン、水臭いな~絵美里タンで良いよ~!」


やはり○○さんから○○タンは絵美里にとって親しみのランクが上がっていると言う事なんだろうか…。


「はい…絵美里…タン。」

「なぁに?

 岡田タン。」

「あの…熊夜叉警部補は元々妖怪だから力も凄いからあのショットガンを片手で軽々と撃つのも判りますけど…片桐警部の射撃は凄いですね…凄すぎるんですけど…なんか凄い経歴だって熊夜叉警部補が言っていたけど、それに子供のころ神隠しに遭って何年か行方不明だったって…。」


絵美里が笑顔で岡田を見つめながらも微かにため息をついた。


「はぁ、熊夜叉タンも少しおしゃべりかな~?

 それとも岡田タンに見どころがあると思ったのかな~?」


絵美里が座っている椅子を岡田に近づけた。


「あのね~霞タンがとんでもなく苦労したのは確かなのよね~。

 それに、神隠し?

 霞タンが子供の頃にこっちの世界に来た時に私は一度会った事があったんだ~!

 まだちっちゃい子供だったけどね~!」


片桐の思いもかけない過去の話を聞いて岡田の手が止まった。


「岡田タン、霞タンの事、聞きたい~?」


岡田は思わず身を乗り出した。


「は、はい!是非聞きたいです!」


絵美里が満面の笑みを浮かべて岡田の顔に顔を近づけた。


「あのね~、岡田タンが無事に研修終って死んだり大怪我したり精神がおかしくなかったらね~!」


岡田がずっこけた。


「岡田タン、知りたかったら研修をしっかりやって捜査もしっかりやれば霞タンも自分から話してくれると思うですよ~!

 今日は張り込みに行くまでにもう少しSIGの腕を上げる事ですね~!

 さっさとマガジンに弾を込めてくださいね~!」


岡田はがっかりしながらもマガジンに弾を込め、絵美里から構え方や狙いの付け所を直されながら射撃練習を続けた。


「岡田タン、警棒の使い方は明日ですね~!

 SIGの扱いよりも難しくて危険ですから~!

 今日の張り込みはヤバいと思ったらケンとメリ―に任せてくださいよ~!

 刑法や刑事訴訟法も妖怪の部分でかなり付け加えられているから、時間を見てはしっかり目を通してくださいね~!」


そう言うと絵美里は分厚い書物を机の端に置いた。


SIGを撃っては新たに空になったマガジンに弾を込め、岡田が射撃練習を続けていると片桐と熊夜叉が入って来た。


「岡田、張り込みに行くぞ。」


片桐はそう言って穴だらけになった岡田のターゲットを眺めた。


「ふん、ほんの少しはましになったかな…だが、今日はサクラを持って行け。

 一応住宅地だから流れ弾で誰かに怪我をさせたら大変だ。」


絵美里がホルスターに収まったサクラを岡田に差し出した。


「岡田タン、今日は大サービスで絵美里タンがSIGの清掃手入れとから薬莢は掃除してあげるですよ~。

 今日だけのサービスですからね~!」


岡田がサクラを受け取ると熊夜叉が机の上の分厚い書物を岡田に差し出した。


「岡田、これも忘れず持って行け。

 春日部に行く途中に少しでも目を通せよ。」


そして、片桐、熊夜叉、岡田の3人は張り込み用の地味な覆面パトカー仕様のハイエースに乗りこむと春日部に向かった。


今日の予定は午前7時から午後7時の12時間勤務の予定だ。

だがしかし、絶対に今日の勤務は午後7時には終わらないだろうな、と岡田は思った。









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