第2話 拉致強制配属

岡田啓介おかだけいすけは埼玉県警に努める制服巡査である。

警察学校での成績はごく平均というところ。


余り事件が起こらない加須市の警察署に配置され、派出所と言うよりも駐在所と言う方が良いかも知れないのどかな田舎の交番に勤務していた。


「今日も暇ですね~。」


岡田は隣に座っている先輩警官に声をかけた。


先輩警官は勤務書類で隠しながらクロスロードパズルをしていた。


「岡田、まぁ、暇なのは良い事だよ。

 しかし、この前の銅線盗難の聞き込みもたまにはやらないとな。」


そう言いながらも先輩警官はクロスロードパズルから目を離さなかった。


岡田は目の前に広がる一面の田んぼを眺めた。


「午後番が来たら巡回がてら聞き込みをするからな。

 いつまでも派出所勤務の巡査じゃやってられないからな…。」


先輩警官はクロスワードパズルに書き込みをしながら呟いた。


「岡田、お前、来週から夜番だよな?

 この前みたいに巡回を適当にするなよ。

 空き家もきちんと見て廻れよ。」

「先輩、自分は怖いの苦手って言ってるじゃないですか。

 空き家の窓を懐中電灯で照らして幽霊なんて見えたら…。」


先輩がクロスワードパズルから目を離し、立ち上がると奥の部屋に行き、煙草に火を点けた。


「やれやれ、お前は絶対に化け物課には配置されないよな~。」


そう、岡田は大の怖いもの嫌いで夜晩の時に同僚から心霊話を聞かされてマジで1人でトイレに行けなくなったエピソードは署内でも有名だった。

先輩が苦笑を浮かべながら煙を吐き出すと遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来て、先輩は慌ててタバコの火を消した。


「何だ何だ?

 緊急事案かな?」


岡田と先輩が交番の出入り口に近寄るとパトカーが交番の前で急停車、運転席と助手席から制服警官が、そして、後席からまるでメンインブラックのような黒スーツで黒いサングラスの2人が降りて来た。


岡田と先輩は息を呑んだ。


「ま、ままままさかあれは…赤紙…。」


冷や汗を顔から噴き出した先輩が呟いた。

4人は交番に入り込み、黒スーツの男は胸から赤い書類を出した。

そう、それはY事案特別捜査課への転属命令書だった。


黒いスーツの男が尋ねた。


岡田啓介おかだけいすけ巡査がどちらか?」


先輩はあからさまにほっとした顔をして岡田を指差した。


黒いスーツの男達が岡田に向き直り、今日付けで埼玉県警本部Y事案特別捜査課への転属と巡査から巡査長への昇進の旨を告げた。


突然の事に頭が真っ白になり思考能力が銀河の彼方に吹き飛んだ岡田の両腕を黒スーツの男達が掴むと思考停止の岡田の耳元で言った。


「良いか?転属拒否並びに逃亡すると重罪だからな。」


岡田は両腕を掴まれて黒いスーツの男に両側を挟まれてパトカーの後席に乗りこまされた。


急発進したパトカーの後部席で思考を取り戻した岡田が叫んだ。


「いやだぁあああ!

 化け物課は嫌だぁああああ~!」


岡田の顔から涙と鼻水と涎が吹き出した。


「言葉に気を付けろ。

 転属先で化け物課と言ったりしたら同僚から食い殺されるかも知れないぞ。」


黒いスーツの男が言ったが、その言葉は岡田の頭脳に届かなかった。

岡田は後ろを振り向き、涙で歪んだ光景の中の交番を見て叫んだ。


「先輩~!先輩~!」


だが、交番では先輩と岡田の交代の巡査がびしっと去り行く岡田に敬礼をしていた。

泣き叫ぶ岡田を載せてパトカーは署へと急いだ。





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