第10話 研修3 岡田、使い魔を手に入れる

「ケン、メリー、殺さないで大丈夫だよ~!

 ビスケットあげるからこっちにおいで~!」


絵美里が白衣のポケットからビスケットを取り出すと、ケンとメリ―が岡田を横目で見て警戒しながら絵美里の方に近寄った。


直ぐ近くに来たケンとメリ―に絵美里は手に隠し持ったスプレーを鼻先に噴射した。


見る見るとケンとメリ―の身体が小さくなり、可愛らしい子狼になった。


「さて、岡田さん、このビスケットをケンとメリ―にあげてください。」


岡田は少し面喰いながら絵美里から受け取ったビスケットを子狼になったケンとメリ―の鼻先に差し出した。


ケンとメリ―はキュンキュンと鳴きながらビスケットを食べ、岡田の手をぺろぺろと舐めた。


「よし、これで良しっと。

 このビスケットにはね、ある細工がしてあるんですよ。

 岡田さん、あとは子狼状態のケンとメリ―と遊んであげて下さい。

 1時間も遊べば疲れて寝てしまいますからね。

 岡田さんの懐に潜り込んで寝てしまうはずですから。

 テーブルの上にボールやタオルがありますからそれで思い切り遊んであげてください。

 子狼状態のケンとメリ―に新しい記憶を植え付けますから。

 終わった頃にまた来ます。

 あ、自分のフルネームを言ってケンとメリ―に自己紹介してあげてくださいね。

 岡田さんの名前を覚えないと変な名前で覚えてしまいますからね~!

 変な名前を覚えちゃうとその名前でしか呼ばなくなるから要注意ですよ~!

 熊夜叉さんの使い魔になった万次郎と小次郎は…プッ!

 熊夜叉さんのことデブデブぐまって覚えちゃいましたからね~!

 キャハハハ!」


絵美里はそう言うと色々仕事があるのでと言って部屋を出て行った。


研修始めが小狼と遊ぶ事かと、岡田は少し拍子抜けした。


しかし。先ほどのとても恐ろしい巨大な狼と違いモコモコの丸い顔をした子狼のケンとメリ―が舌を出してキラキラした瞳で見上げられたら、岡田の頬も緩んでしまった。


「ケン、メリー、よろしくね~!

 俺は岡田啓介だよ~!」


岡田はケンとメリ―に自己紹介してボールを投げたりタオルで綱引きをして遊んだ。


岡田は息をハァハァさせ、舌をなびかせて、目をキラキラさせて遊ぶケンとメリ―にすっかり心を癒された。


やがて遊び疲れたケンとメリ―は岡田の懐に潜り込んですやすやと寝てしまった。


分厚いファイルを何冊か抱えた絵美里が戻って来た。


「あらあら、ケンとメリ―が懐いた様ですね!

 良かった良かった!」


絵美里の背でまた竜のしっぽが振られた。


「それじゃケンとメリ―を大人に戻しますけど、その前に岡田さんにケンとメリ―の扱い方の注意をしておきますね。」

「はい、よろしくお願いします。」


岡田は懐で寝ているンとメリ―の頭を撫でながら答えた。


絵美里が岡田の横の床に腰を下ろした。


「これでケンとメリ―はあなたの使い魔になりました。

 子狼の頃の記憶がケンとメリ―に刷り込まれるから岡田さんに忠実な狼になったと言う事です。

 群れで言うと岡田さんがアルファになったと言う事ね。」


Y事案特捜部に配属されてもう部下を持てるようになったと岡田は思い、嬉しくなった。


「ただね、ケンとメリ―の扱いた方は気を付けてください。」

「どんなところを気を付ければ…。」


絵美里が笑顔で言った。


「うふふ、もうケンとメリ―はあなたの命令が最優先になります。

 あなたの命令に無条件に従うようになるんですよ。」

「…。」

「岡田さんが命令したら、ケンとメリ―は私にでも襲い掛かって殺そうとすると言う事です。」

「え…。」

「そうなんですよ。

 だからケンとメリ―の行動は岡田さんが全責任を持たないといけないんです。

 そしてね、これから取り締まり逮捕しようとする妖怪にはケンとメリ―でも敵わないほど強い者も当然いるんですよ。」

「…。」

「どんな強い妖怪でもケンとメリ―は岡田さんが命令する限りどんなに不利でもどんなに大怪我をしようと完全に死ぬまで戦う事をやめないんです。

 岡田さんがやめろと命令しない限りはね…。」

「妖怪警察狼は自分の群れのアルファの命令は絶対なんです。

 だから、岡田さんは状況を見定めて、ケンとメリ―に手が追えないと思ったらすぐにカプセルに戻してあげてください。

 岡田さんはケンとメリ―の命を握ったと言う事ですからね。

 その責任は決して軽くないですよ。

 この子達に無駄死にをさせないように気を付けてくださいね。」

「…カプセルに戻すにはどうすれば…。」

「簡単です。

 ケンとメリ―に手のひらを向けて『戻れ!』と言えば良いんです。

 そうすればケンとメリ―は直ぐにカプセルに封印された状態で岡田さんの手のひらに飛び込んできますから。」


岡田はケンとメリ―の頭を撫でながら2頭の命を握った責任を噛み締めた。


「わかりました、絶対にケンとメリ―を死なせないようにします。」

「そう!その通りですよ!

 じゃあ、ケンとメリ―を大人に戻しますね!」


絵美里がポケットからスプレーを取り出すと子狼のケンとメリ―の鼻に吹きかけた。

岡田の膝の上で小狼のケンとメリが見る見ると大きくなり、凶悪なシベリア狼妖怪になった。

岡田がケンとメリ―の下敷きになった。


「うふふ、ケンとメリ―に起きろと言ってください。」

「ケン、メリー、起きろ。

 早く!重いよ!」


ケンとメリ―が目覚め体を起こした。


ケンとメリ―が岡田を見つめ、そっと岡田の服を加えて立ち上がらせた。

その瞳は先ほど凶悪な光を帯びて岡田を見つめるものとは明らかに違っていた。


「けいすけたん。」

「けいすけたん。」


ケンとメリ―が甘えた声で鳴きながら岡田の脇に鼻を突っ込んで擦り付けた。








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