第7話 勤務後初帰宅

岡田は暫く遠回りをしてJR東川口駅近辺を走った。


徹夜明けなのに全然眠くなく、海まで行ってみたかったが、遠出をする時は特捜班あてに届け出を出さないといけないので渋々とアパート近くのイオンでモスバーガーを買ってアパート近くに指定された駐車場に車を停め、部屋で腹ごしらえをする事にした。


ずっと電源を切っていた私用のスマホをオンにしたらえらい数のメールが来ていて驚いた。


見ると、加須警察署の同僚や交番で一緒に勤務していた先輩果ては暫く連絡を取っていない警察学校の同期などからもY事案特捜部に配属された事の詳細を求める物で溢れていた。


皆、謎の包まれたY事案特捜部に興味津々なんであろう。


そのメールの中には加須警察署で交番勤務の時に同じ所にいて物凄く気になっていたが結局ろくに声を掛けられなかった、辛うじて署の忘年会の時にメールアドレス交換できただけの美人の巡査長、御影三里奈みかげみりなからのものも混じっていて、ハンバーガーを頬ばる岡田の顔を赤くさせた。


彼女は27歳だったと思う。


岡田よりも一つ年下だったが階級は一つ上だった。

今は岡田も巡査長になり、彼女と同じ階級になった。

そして今は皆の注目を浴びるY事案特捜部の捜査班員になった。


岡田は支給されたボルボに彼女を乗せて海にドライブに行く妄想を楽しみながら、動悸を激しくしながら食事を済ませた。


しかし岡田は支援装備開発部の竜宮絵美里にも強い関心を持っていた。


初配属で初仕事でショックの連続で不安だった岡田の心を優しい心使いと明るさとあの愛くるしい笑顔で癒してくれた。


人間と妖怪の間で恋愛は成立するのであろうか…。


そして竜宮絵美里はきっとすごく人気があるんだろうな…。


あの熊夜叉でさえ絵美里タンと呼び、頬が緩んでいたのだから。

そして…竜宮絵美里は1700歳以上なのだ。

やっぱり俺には御影三里奈…。

いやいや、竜宮絵美里も…。


そんなしょうもない事を考えている内に岡田の瞼が重くなって来て少し昼寝をする事にした。


勿論メールの返信は今のところ一切する気はしなかった。


夢を見る事も無くぐっすりと寝て、目が覚めると既に午後4時近くになっていた。

次の勤務は翌日の朝7時からだ、朝5時に起きて準備をすれば充分間に合うだろう。


今日はまだまだ時間があるなと思いながらとりあえずたまっていた洗濯物を洗濯機に放り込み、部屋に軽く掃除機をかけ、インスタントコーヒーを作り、マニュアルに目を通そうとテーブルに置くと、Y事案特捜部への転属辞令がマニュアルの間から顔を覗かせた。


岡田は辞令を手に取って改めて目を走らせた。

所属が県警本部付けに変更、巡査から巡査長に昇進。

そして給与の変更…。


岡田はその金額に、新しい自分の給与額を見つめた。

巡査長に昇進した事やY事案特捜部勤務になった事への手当て等々…岡田の給与の手取り金額が月額9万円近く上がっている。


岡田はもう一度給与金額を確かめ、笑顔になり小さくガッツポーズをとった。


だがその時、片桐警部が岡田に言った不吉な言葉も思い出し複雑な気分になった。


「岡田、まぁ、ここは警察の中で今の所一番殉職率が高い部署だからな。」


そして


「岡田、それとな、Y事案特捜部に入ったら元同僚などが色々とここがどんな所か聞いてくる奴らがいると思うが、あまり話さない様にしろ。

 まぁ、お前が半年でも生きていたら誰もおまえの話を信じなくなると思うがな。」


岡田は辞令を見つめて濃い目のブラックコーヒーを飲んだ。


(ただでさえ怖いものが苦手な俺が…あんなところでやって行けるのだろうか…それどころか殉職せずに半年も生きて行けるのだろうか…竜宮絵美里は凄く可愛くて性格も良さそうだけど1700年以上生きている竜だし…片桐警部も無茶苦茶美人だけどスゲエ厳しそうでおまけに背中にあんな気味わるい爺の顔が張り付いているし…やっぱり俺は御影三里奈が…いやいやそんな事では無くて俺の命と精神の均衡が…)


岡田は今更にY事案特捜部の殉職率の高さと発狂率の高さを思ってぞっとした。


岡田は気を取り直し、趣味のプラモデルを作ろうと、高くてなかなか手が出なかったプラモデルと最近ちょっと調子が悪くなったプラモ塗装用のエアコンプレッサーを買いに行く事にした。


帰ってきたら心霊系のYouTube動画を見て少し怖いものに耐性を付けようと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る