第15話 あなた、まだ勃起を習得していないのですか?

「!?」


 なっ、ななな、なにやってんだよ!?


 突然、第二王女によるストリップショーが始まり、俺は驚きのあまり目を見開いた。

 混乱してパニックに陥っている間に、気づけばグラセラが下着姿になっていた。11歳の子供が着用するにはセクシーすぎる黒いレース付きの下着だった。


 子供は子供らしく熊さんのパンツを穿いていろよ!

 というか、何脱いでんだよ。


「あ、あの……殿下………な、なぜ服を脱いでおられるのですか?」

「うふふ」


 何だよその不敵な笑みは!?

 イデアに助けを求めるように顔を向けたが、彼女は俺には興味を示さず、ずっとグラセラを見つめていた。


「お、おれ……急用がッ――――!?」

「動くなでござる」


 急いで席を立ち、この場をすぐに離れようとした瞬間、首筋に白銀の刃が押し当てられているのを感じた。


 ゆっくりとイデアの方を見ると、あどけない少女の印象は消え去り、代わりに冷徹な赤い瞳の暗殺者が、刀を握って立っているのが見えた。


「わたくしの方が女王に相応しいと思いませんか?」

「……は、はい」


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 死にたくない一心で、俺はもちろんだと答えた。


「うふふ」


 グラセラの細い指が俺に向かって伸びてきて、俺は恐怖でギュッと瞼を閉じる。その氷のように冷たい指先が頬に触れると、背筋がゾクッとした。俺は全身に力を込め、口元が震えるのを隠すために口を固く結んだ。


「あらあら、お可愛らしい」


 俺は指一本動かせなかった。

 蛇ににらまれた蛙とはまさにこのことだ。


「貴方、わたくしと致したかったのでしょ?」

「……」

「奇遇ですわね。わたくしも是非、大きな金玉を持つ貴方とまぐわりたいと思っていました。貴方の噂を聞いてからというもの、朝も、昼も、夜も、夢の中でさえ、わたくしは貴方を求め続けておりました」


 グラセラの手が頬を伝って首、胸、そして腹部に徐々に下りていく。

 そして、彼女は俺のズボンのベルトに手をかけた。


「で、殿下……これは……その、早計かと……」

「うふふ。アレン・マイヤー、貴方は気づいていないかもしれませんが、貴方はわたくしを女王にするために生まれてきた存在なのですよ? わたくしは、今すぐにでも、第一王女に返り咲きたいのです。理解、していただけますか?」


 グラセラは煽情的な言葉と手つきで俺のベルトを外し、パンツを下ろすと、股間を見つめたまま固まってしまった。


「イデア、例のものを」

「こちらでござる!」


 グラセラはイデアから大きな本を受け取り、栞を挟んでいた特定のページを開き、その内容を読んでいる。


 首を傾けて背表紙を確認すると、【男を使った限界突破完全マニュアル】という文字が目に飛び込んできた。


 何だよその生々しい書物はっ!?


「あらあら、萎んだままですわね」

「萎んだままでござるな。玉金も恐怖で縮み上がっているでござる」


 できれば言語化しないで頂きたい。


「限凸するには、アレン殿が勃起なる技を体得しておらねばならんようでござるな」

「貴方、まだ勃起を習得していないのですか!」


 こいつらはさっきから真顔で何を言っているんだ!


「答えなさい!」

「え……っと、まだ教わってなくて」


 何をだよ!

 俺も何を言ってんだよ。

 勃起なんてものは誰かに教わるものでも、まして体得するものでもねぇんだよ。勃起はただの生理現象だっつーの。

 強いて言うなら、お前らが女だから勃たねぇだけだわ。


「どうやら、勃起を習得させるところから始めなくてはいけないみたいですわね」


 マジで何言ってんだよ。


「たしか88ページに、勃起の体得方法が記載していたでござるよ」

「でかしましたわよ、イデア!」

「お褒めいただき恐悦至極でござる」

「えーと、習得方法その1、接吻。舌を絡ませながら金玉を軽くマッサージしましょう。意外と簡単ですわね」


 え? うそ……いや、なに顔を近づけてきてんだよ!


「――――――んんっ!?」


 グラセラに両手で顔を掴まれ、無理やり口づけされた。彼女の舌が激しく動き回り、とても不快で嫌な気分になった。しかし、それ以上に不快だったのは、彼女の手が俺の股間に伸びてきたことだった。


「ンンンんンンッ!?」


 グラセラは手で胡桃をいじるように、俺の金玉をやわらかく揉みほぐしていた。


「あらあら、おかしいですわね。こうすれば膨張すると書かれているのに、何も変化がありませんわね」


 俺はゲイなんだから、女にキスされたり触られたくらいで勃つわけないだろ。

 本当はそう言ってやりたかった。


「んー、アレン殿はここに書かれているインポなるものかもしれんでござるな」

「あらあら、それはどういったものですの?」

「呪によって勃起しにくい体にされている可能性があるでござるよ」

「あらあら、それは困りましたわね」


 この地獄から脱出できるなら、この際インポでも何でもいい。


「主殿、こうなれば勃起体得方法その2を試すでごさるよ!」

「あらあら、それはどのようなものなのかしら?」

「この芋虫のような物体を口に咥え、前後、あるいは上下にスライドさせながら、スパゲティを吸うように一気に吸い上げるでござるよ」

「こ、これを咥えますの!?」

「たしかに少し気色の悪い見た目をしているでござるな。……ならば、ここは主殿に代わり拙者が、勃起体得方その2をアレン殿に行うでござる」


 イデアが俺の股間に向かって身をかがめ、大きく口を開けて迫ってくる。

 このままではイデアに俺の俺がぱっくんちょされてしまうと思った俺は、


「ちょっ、ちょっと待ってぇ――――ッ!!」


 全身全霊で叫んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る