第17話 わたくしを突いて突いて突きまくりなさい!

「蛇夜の森だと!?」


 冗談じゃない。

 レベル3の俺が蛇夜の森になんて行けば、確実に死んでしまう。

 あそこにはトロールだっているんだ。


「ちょっ、ちょっと待ってください! 蛇夜の森なんて俺にはまだ無理です! 殿下も見ましたよね? 俺、まだレベル3なんですよ!」

「安心なさいアレン、わたくしも共に参りますわ」


 いやいやいや、クソ雑魚仕様のグラセラ・ヘーゲルナッツがパーティーに加わったところで、それが一体何の意味になるっていうんだよ。クソ雑魚パーティーが出来上がるだけだろ。


「わたくし、すでにレベル10ですのよ」


 いやいやいや、だから、あんたはクソ雑魚仕様なんだよ。ポ●モンで言うところのコイ●ングなの! 跳ねるだけしかできないゴミなの! ギャ●ドスに進化すれば確かに強いけど、そうなるのはずーっと先のお話なんですよ。

 あんたの熱狂的信者でさえ、序盤ではマジで使えないゴミ姫って罵るくらいなんだよ。


「嫌だっ、行きたくない! 俺はまだ死にたくない!」

「あらあら、そのような情けないことを仰っていては、いつまで経ってもわたくしを女王にすることなどできませんわよ」


 っんなのどうでもいいよ。

 アウラだろうがグラセラだろうが、誰が次期女王になろうが俺は興味がないんだ。


「わたくしが女王になった暁には、貴方を夫にして差し上げますわ。ですから、わたくしの為に死ぬ気でレベルを上げて、わたくしを突いて突いて突きまくりなさい!」


 何言ってんだよ!?

 意味分かって言ってんのかよ。

 そもそも俺は受けなの、ネコなの。突かれる側なの。アヘアヘ言うのはお前じゃなくて俺なんだよ……くそっ。


「イデア、殿下を止めてくれ! こんな即席のパーティーなんかで蛇夜の森に行けば、殿下が確実に死ぬぞ!」

「拙者は殿下に付き従うだけでござるよ」


 ダメだ。

 このままでは本当に死んでしまう。


「さあ、出ますわよ」

「嫌だァッ! 俺はまだ死にたくないんだよ!」

「あなた、往生際が悪いですわよ!」


 駄々をこねる子供のように、俺は隠し階段から出たくないと抵抗する。


「イデア、何とかなさい!」

「了解したでござる」


 何をしたって無駄だ。俺は絶対に蛇夜の森になんて行くものか。


 ――ブスッ!


「あっ、あぁ〜〜〜〜ンっ!?」


 久しぶりの衝撃がお尻の穴から前立腺に伝わり、俺は跳びはねるように城庭園に出ていた。


「秘技、千年殺しにござる」


 こ、この野郎。

 屈辱的だ。こんな小娘の指でイキかけてしまうなんて。……悔しいが、イデアは恐るべきテクニシャンのようだ。


「あっ、やめてくれぇ……」


 イデアの浣腸で全身の力が抜け落ちて、俺はスライムのようにふにゃふにゃになってしまった。そんな状態の俺を、グラセラは荷物のように引きずった。


「だ、誰かッ! 誰か助けてくれぇッ!」


 必死に抵抗しようと、俺は声の限りに叫んだ。


「あらあら、大人しくしなさい。……イデア」

「忍法、口縛りの術にござる」

「いや、やめっ――んんっ……ンンンッ!?」


 何が口縛りの術だ。ただの口枷じゃないか。

 しかも、これはSM用の真ん中に穴が空いている変態仕様のやつじゃないか。


「ゔぅんんん――――っ!?」


 なんとかしなければ、このままでは蛇夜の森に行く前に、キャッスルステアケイスから転げ落ちて死んでしまう。


「貴方もしつこいですわね。いい加減にあきらめて、大人しくついてきなさい!」


「ぅゔゔんんん――――ッ!!」


 城の外を巡回中の近衛兵を発見して全力で助けを求めるが、


「!?」


 グラセラを見た途端に顔をそらしやがった。

 てめぇそれでも近衛兵かッ!


「あらあら、無駄ですわよ。第二王女に降格したとはいえ、彼らはわたくしには逆らえませんから」


 こんな横暴が許されていいわけがない。


 誰かッ、誰かいないのかッ!

 この世紀末覇者のような暴君に立ち向かえる、第64代伝承者のような強いやつはいないのかよ。


「……っ」


 あきらめかけたその時、


「ちょっとッ! あんた何やってんのよ!」


 こ、この声は!?

 身をねじり、声の主に顔を向けると、そこには桜色の髪の少女が立っていた。


「ううううう――――ッ!」


 俺はアウラに向かって全力で助けてくれと叫んでいた。


「あらあら、珍しいこともあるのですね。蝸牛のように部屋に閉じ籠もってばかりの愚妹がお散歩ですか? 嵐でもやって来るのかしら?」


 アウラは、わざとらしく晴れ渡る空を見上げているグラセラに青筋を浮かべ、不機嫌そうに顔をしかめていた。まるで今にもブチッと血管が切れる音が聞こえてきそうだった。


「あんた、そのゴミ虫をどこに連れて行くきよ」

「あらあら、わたくしがわたくしの未来の夫をどこに連れて行こうが、わたくしの勝手ではなくて?」

「未来の夫ですって!?」


 なんでそこで俺を睨むんだよ。

 そんなこと120%あり得ないのは、お前が一番知っているだろ。


「退いてくださるかしら――――!」


 アウラは、グラセラの進行方向に立ちはだかっていた。


「一体どういうつもりですの!」

「それはこっちの台詞よ! そいつは本来なら今頃、私の部屋でサンドバッグになっている予定だったのよ! それなのに、ストレス解消の玩具が全然来ないから探しに来てみれば、人の玩具を横取りしてんじゃないわよ。この性格ブス! ぶっ飛ばされたくなかったらさっさとそいつを置いて消えなさい」

「……っ」


 アウラは、さすが武の才だけで第一王女になっただけはある。あのグラセラが恫喝されただけでたじろいでいる。


「イ、イデア!」


 イデアが名前を呼ばれ、グラセラを守るために前に出たその瞬間、


 ――――ボンッ!


 アウラの拳が容赦なくイデアの腹に叩き込まれた。


「ゔっ……」


 そのまま前に倒れたイデアに、俺もグラセラも驚きを隠せなかった。

 タイミングよく通りかかった近衛兵は、危険を感じ取るとすぐにその場から走り去ってしまった。


 ボキッ、ボキボキ――――!


 アウラは拳を鳴らしながら、グラセラに鋭い眼差しを向けていた。


「あんたもぶっ飛ばされたいわけ」


 と言い放つアウラに、グラセラの額からは珍しく汗が伝っていた。


「……あらあら、そういえばわたくし急用を思い出しましたわ。アレン、デートはまた今度に致しますわ。……イデア、早く起きなさい!」

「き、気持ちが悪いでござる……」


 グラセラはイデアの腕をつかみ、あっという間に脱兎のごとく姿を消してしまった。


「た、助かったぁ〜」



 その後、俺はただグラセラと一緒にいたというだけで、アウラに説教されるのだった。

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