第16話 鑑定具
「お、俺のレベルはまだ3なんだよッ!」
俺の俺を咥えかけていたイデアの動きがピタリと止まり、グラセラの表情がはっきりと不機嫌なものに変わった。
「レベル上限を突破するためには、上限突破する者のレベルが上限に達していなくてはならない。さらに、金玉に魔力を宿した者のレベルがその者と同等、あるいはそれ以上でならなくてはならない。この2つの条件を満たした者同士がまぐわり合うことで初めて、限界突破は成功する! 違いますか!」
厳しい口調で問いかけると、グラセラは俺を冷徹な視線で睨んでいた。その視線には寒気を感じた。
「貴方、マキュレイに修行を見てもらっているのよね?」
その声にはかなりの刺々しさが込められていた。
「ご存じないのですか?」
と尋ねると、グラセラはイデアに視線を向けた。イデアは俺の股間を握ったまま、何のことかわからないと言うように首を横に振った。
一呼吸置いた後、俺は男女の違いについて語った。
「女神によって優遇されている女性とは違い、男性はレベルが上がりにくいとされています。たとえ1つレベルを上げるだけでも相当な研鑽が必要です。実際、レベルを1から2に上げるだけでも相当な苦労がありました。魔力を持って生まれてきた男性でも、10年もの長い年月をかけてようやくレベルが5になることもあるのです。ご存知でしたか?」
これは方便、半分本当で半分嘘だ。
実際、「終ノ空」というゲームでは、主人公であるアレン・マイヤーを含む男性キャラクターのレベルが非常に上がりにくい設定となっている。これは、制作サイドが女性キャラクターを重視したいという意図からきていると考えられる。しかし、この設定が原因で主人公が弱すぎて使い物にならないというクレームが相次いだ。あるネット掲示板では、エロゲ史上最も使えない最弱主人公とまで言われるほどだ。
そこで運営はこの問題に対処するために、レベルアップアイテムを導入した。これは、文字通りレベルを上げるためのアイテムだ。
レベルアップアイテムには大きく分けて2種類ある。課金アイテムと非課金アイテムだ。課金アイテムの方がレベルを上げるのに効率は良いが、非課金アイテムでも以前までとは比べものにならないくらいレベルが上げやすくなった。
要するに、課金アイテムは忙しいサラリーマン向けであり、非課金アイテムはお金はないが時間だけは無限にある学生向けと言える。ちなみに、どちらも王都で購入可能であることは調査済みだ。(※ただし、これらのアイテムはアレン・マイヤーでなければ購入は不可能だ)
ではなぜ、俺はレベルアップアイテムを使わなかったのか、その理由は、グラセラ・ヘーゲルナッツが必ず接触してくるという確信があったからだ。俺のレベルが10未満なら、たとえ腹黒姫でさえ手を出すことはできないと知っていた。無闇にレベルを上げないことは、俺が自己防衛のために唯一できることだと考えた結果だ。
魔王軍との戦いが避けられないと分かっている以上、いずれはレベルを上げる必要があることは理解している。
しかし、その時は今ではない。
「イデア、鑑定具を持ってきてもらえますか?」
「了解でござる」
イデアが股間を離してくれたことで、俺はようやくズボンを履くことができた。
その後1分程で、イデアが鑑定具を手に持って戻ってきた。
そして、グラセラによって俺のレベルが計測された。
その結果、俺のレベルは『3』と表示される。
「……っ!」
グラセラは悔しくてたまらないという顔をしていた。
「ならば、早くレベルを上げなさい! これは王女殿下としての命令ですわ!」
「もちろんです! そのために、俺も日々マキュレイのもとで鍛錬を積んでいるのです」
「そんなのは生ぬるいですわ!」
「は?」
「体を鍛えるだけでは、得られる経験値は極僅か、そんなことくらいはご存知ですわよね!」
それはその通りなのだが、だからといってレベル3の俺がモンスター退治や、ダンジョン攻略などできるはずもない。マキュレイも、そのような訓練はレベルが5か6に達してから始めるべきだと言っていた。
「行きますわよ!」
「え、行くってどこにですか?」
グラセラが俺の腕を掴んで、再びトラップだらけの通路に向かって歩き出した。
「当然、蛇夜の森ですわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。