第3話 ガン見される金玉

 アイリスにレベル上限のことを話した翌日、家の前にはたくさんの米俵が積み上げられていた。


「あら、私のかわいい息子のアレンじゃない!」


 母に呼ばれて家の外に出ると、アイリスの母である巻き貝婦人が突然抱きついてきた。

 ぷにぷにとおっぱい駄肉を押しつけられ、とても苦しい。


 しかも、何故か俺のことを息子と呼んでいる。


「ところでマリサ、アレンのレベル上限が999というのは本当なのかしら?」


 マリサとは、母の名前だ。


「どうなんですかね? 私は何かの間違いじゃないかと思っているんですけど……」


 母は困り果てていた。


「ちょっと見させてもらうわよ」

「えっ、ちょっと、やめてよおばさん!?」


 おばさんは俺のズボンを無理やり下ろして、金玉を確認しようとする。


 冗談じゃない!

 ここは外だぞ!


 しかも、おばさんの後ろにはアイリスも立っているのだ。

 って、めちゃくちゃガン見しているじゃないか!


 目が合うと、彼女は頬を赤く染めたが、好奇心には勝てなかったようで、視線はすぐに金玉へと注がれていた。


「「でかっ!!!?」」


 母娘は共に、村中に大きな声を響かせた。


「ま、マリサ! 今すぐにアイリスとアレンを婚約させましょう!」

「え、でも……アイリスお嬢様と違って、うちは平民の家ですよ?」

「そんなの構わないわよ! わたくし達の息子はこれだけの金玉を持っているのよ! こうしている間にも、国が動き出してしまう。その前に――」


 フルチン状態の俺の腕を握りしめたまま、おばさんは俺をアイバーン家に連れて行こうと引っ張り始めた。


「やめてよおばさん!? ちょっと母さん、見ていないで助けてよ!?」


 せめてパンツとズボンだけでも穿かせてくれと懇願する俺のもとに、豪華な馬車がやって来た。


「……でかっ!!!?」


 馬車から降りてきたのは、鮮やかな空色の髪を靡かせた女性だった。彼女は見るからに高貴な身分で、このような辺鄙な村には似つかわしくない服装をしていた。


「し、失礼。子供とは思えないほどの、その……あまりの大きさに驚いてしまって……」


 チラチラと俺の金玉を見ては、長い睫毛を何度も鳴らしていた。


「あ、あの……あなた様は?」


 母がおそるおそる尋ねると、


「これは失礼しました。わたしは黄昏の騎士団所属、マキュレイ・ドミアと申します。此度は史上稀にみる金玉の持ち主が誕生したとの報告を受け、その真相を確かめに参りました。それににしても……立派な金玉ですね」

「いつまで見ているんですかっ! おばさんも離してよ!」

「ああ、そうね」


 ったく、ひどい目に遭った。


「失礼ですが、こちらの金玉、ではなく少年の母上は?」


 こいつ今俺のことを金玉っていいやがったな。

 なんて失礼な女だ。


「私ですが……」

「少しお話を伺ってもよろしいですか?」

「え、ええ、もちろんです」


 聖騎士様に言われて断れるやつなんているわけない。

 おばさんは残念そうにしていたが、さすがに相手が悪かったのか、今日のところは大人しく帰って行った。


 その後、自宅に移動すると、マキュレイは不思議な装置を取り出した。それは魔力を持つ者のレベル上限を確認するための装置だ。以前、街の病院でも一度使用したことがある。


「おおっ! これはすごいですね! てっきり虚偽の報告だと思っていましたが、本当に999と表示されています!」


 装置の中央に嵌め込まれた水晶玉に『999』と表示されている。これがレベル上限を示しているようだ。


「わたしはこの事を、すぐにでも女王陛下にお伝えしなければなりません」

「は、はぁ……」


 母の困惑を無視して、マキュレイは俺の前で片膝をつき、手を差し伸べてきた。俺は素直に彼女の手を握った。


「わたしのレベル上限は45です。この国の小さい金玉の男では、わたしのレベル上限を突破することは不可能と言われてきました。事実、わたしもこれが自分の才能の限界なのだと諦めていました。ですがっ! わたしは君を見つけました! レベル上限999の君ならば、何れ必ずやわたしを高みに導いてくれるでしょう」


 ふーん、ふーんっ。と、マキュレイはオークのように鼻息荒くして、俺を見つめていた。

 爛々と輝く彼女の目がめちゃくちゃ怖かった。


「本当は今すぐにでも君の君を挿入して確かめたいところなのですが、あいにくわたしは王都に戻らねばなりません」


 子供相手になんちゅう恐ろしいことを言っているのだ。


 モゾモゾするなよ。

 顔を赤らめるなよ。

 ハァハァするなよ。

 股を触るなよ。


「しかし、たとえ史上稀にみる大きな金玉を持っていたとしても、今の君のレベルでは……やはり無理でしょうね」


 マキュレイは本当に残念そうにため息を吐き出し、立ち上がった。


「君にはこれから、数えきれない程の試練が訪れると思います。だけど、負けないでください。そして、いつかわたしを全力で突いて、絶頂という名の限界突破をさせてください!」


 母親の前で何言ってんだよこいつ。


「帰れッ!」


 女はまた来ますと言い、去っていった。


「二度と来るなッ!」




 それから一か月後に、俺に王都への召集命令が届いた。

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