第2話 国宝級の金玉

 この世界が、かつて好きだった男がやっていたエロゲ、【終ノ空〜黄昏のエクスカリバー】に似ていると思ったのは、俺が10歳の頃だった。


 村の名前が【終ノ空】の主人公、アレン・マイヤーの出身地と同じだったり、村の領主の娘が好きピの推しに似ていたりと、幼少の頃から、何となくではあったのだけど、前世に好きピがオススメしてくれたエロゲに似ているなーとは思っていた。


 それが確信に変わり始めたのは、幼馴染で男爵家の娘、アイリス・アイバーンが初潮を迎えた日だった。


「ゔぅっ……」


 友人のトーマと三人でケンケンパをしていると、突然アイリスがお腹を抱えて蹲ってしまった。


「アイリス!?」

「大丈夫か!」


 初めは何か良くないものを食べたのかと思っていたのだが、青白い顔で立ち上がったアイリスの太ももからは血が伝っていた。


 前世の記憶を持つ俺は、すぐに彼女が初潮を迎えたことに気がついた。


 彼女を屋敷まで送った翌日、俺は幼馴染のトーマと彼女の見舞いに向かったのだが、門前で追い返されてしまった。


 そのことを母に伝えると、アイリスは現在、初期症状というものに苦しんでいるのだと教えられた。


 初潮が起こると、女の子の子宮には『魔巣』と呼ばれる核が生まれる。

 この核のサイズなどによって、魔力の量やレベル上限などが決まっていく。

 その際、5日から10日ほど高熱に苦しむことがある。

 そのことを初期症状という。


 これらの説明を母から受けた俺の額からは、一筋の汗が流れ落ちた。


「まさか……な」


 名前や地名が一致しているのは、単なる偶然だと言い聞かせていた。

 アレン・マイヤーなんてありふれた名前だと思っていた。


「ありえない!」


 そう思い、眠りに就いた晩、俺は久しぶりに前世の夢を見た。


 俺はバーのような雰囲気のあるカウンターに座っていて、隣にはなぜかずっと想いを寄せていた男がビキニパンツ姿でカクテルを飲んでいた。


「藤虎!?」

「よぉ、久しぶりじゃねぇか、冬二」


 夢の中とはいえ、10年ぶりに再会した好きピに感激して泣いてしまうと、あきれたように微笑んだ藤虎が、「バカだな」と言いながら優しくキスをしてくれた。


 学生時代からずっと好きだった男と初めてキスをした。それもとっても濃厚なやつだ。

 興奮を抑えきれずに、バーカウンターで彼を押し倒し、前世ではできなかったエッチなことをたくさん楽しんだ。


 夢の中でなら、藤虎だってきっと許してくれるよね?


 ごめんな、藤虎♡




「ハッ!?」


 朝、イカ臭さに目が覚めた俺は、急いでパンツの中に手を入れて確かめた。


「……っ」


 パンツがカピカピに乾いていた。

 アイリスが初潮を迎えた翌日、俺は精通した。


 そして、原因不明の高熱に魘された。


 死ぬ。

 本気でそう思うほどの高熱だった。

 父が連れてきた医者に診てもらったが、原因がわからないという。

 このままでは息子が死んでしまうと思った両親は、家財を投げ売り、大きな街の病院に俺を連れて行ってくれた。


 そこで、俺は知りたくなかった事実を知ってしまう。


「これは何という金玉だ! やりましたな、マイヤーご夫妻! 御子息の金玉には魔力が込められておりますぞ! それも、史上稀にみるデカさ! これはまさしく国宝級! すぐに国に報告せねばっ!」


 ……終わった。


 意識が朦朧とする中、非常識な医者がはしゃぎ回り、入れ替わり立ち替わり看護婦たちが俺の金玉を見に来ては、「きゃぁー、こんなに立派な金玉初めて見たわ!」と黄色い声を上げており、不快だった。


 発熱から10日後、熱が下がった俺のもとに、同じく熱の下がったアイリスが訪ねてきた。


「アレン、あなたすごい金玉を手に入れたそうね!」

「……そういうこと、あんまり大きい声で言わないほうがいいと思うけど」

「あら、どうして? 魔金はとても珍しくて、貴重な存在だってお母様が言っていたわよ」

「……そう、なんだ」


 この世界がもし本当に、俺の考えるエロゲなのだとしたら、彼らに倫理観を求めるだけ無駄なのだろう。


「でも、あたしの子宮も中々すごいのよ!」


 ぽんっ! と下腹部を叩きながら、10歳の少女が凄いことを口にしている。


「レベル上限20よ!」

「それは確かにすごいね」


 この世界の一般的なレベル上限は10。

 それも初潮を迎えて魔力を得た人の平均上限がだ。したがって、アイリスの上限レベルが20ということは、彼女が一般的な女の子よりもずっと高いポテンシャルを秘めていたということになる。ちなみに、魔力を持たない者には基本的にレベルは存在しない。


 故に、この世界は女尊男卑なのだ。


「で、アレンのレベル上限はどの程度なのかしら? 立派な金玉というくらいだから、10くらいあるのかしら? それとも15?」

「いや、その……」

「何よ、はっきり言いなさいよ!」


 あまり言いたくないが、ここで言わなければアイリスが怒るだろう。

 だから、俺は仕方なく言うことにした。


「999かな?」

「は?」

「だから、レベル上限999なんだ」


 アイリスは口をポカーンと開けたまま、固まってしまった。


 まあ、そうなるよな。



 アレン・マイヤーの金玉は国宝級であり、伝説の金玉なのだ。

 要するに、エロゲの主人公に相応しいチート級の金玉ということだ。




――――

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