第4話 喝采を浴びる金玉

「うわぁー、すごい街だな」


 母に連れられて王都にやって来た俺は、マキュレイに案内されるがままに王城に向かった。

 謁見の間へと通されると、そこには華やかなドレスを身にまとった御婦人方がずらりと並んでいた。


 彼女たちは皆、その目で大きな金玉の真偽を確かめようと集まった、この国の有力貴族たちだ。


 平民出身の俺と母は、この場の雰囲気に既に圧倒されていた。


「そなたが史上稀にみる金玉の持ち主、アレン・マイヤーか」

「は、はい」


 深く玉座に腰かけ、足を組み替えるその人は、一見するとこの国の女王には見えない。

 むしろ、SとMが付くお店で働く女王様と称される方がぴったりだと思う。


「おい!」


 と、女王陛下が口にした瞬間、


「――あっ、ちょっとやめてよっ!?」


 マキュレイが俺のズボンに手を伸ばしてきた。まるで大好物のいちごのショートケーキを前にされた少女のように、彼女の瞳は輝いていた。


 みんなの前でズボンを下ろされた瞬間、恥ずかしさで両手で股間を隠しながら蹲んでしまった。


「よく見えぬ。マキュレイ!」

「はっ!」


 俺はマキュレイに後ろから羽交い締めにされ、女王陛下に金玉を突き出す格好になってしまった。


「「「「おおっ!」」」」


 謁見の間がどよめきに包まれる。

 女王陛下をはじめとした御婦人方が、瞬き一つせずに、俺の金玉をまじまじと見つめている。

 何という羞恥プレイ。

 屈辱的だ。


「これは凄いですわ!」

「史上稀にみる金玉と聞いておりましたが、まさかこれほどの金玉とは」

「遥々見に来た甲斐があったと言うものですわね」

「あの大きさなら、レベル上限999というのもあながち嘘ではないのでしょう」


 うーん、と唸る女王陛下が、玉座から立ち上がり、俺の前でヤンキーのように座り込んで、真剣な眼差しで金玉をガン見していた。

 そんなに間近で見られると恥ずかしい。


「まるで狸だな」

「!?」


 10歳の少年に向かってなんてことを言うんだ。

 作中でアレン・マイヤーの前世が狸と噂されていたのは、この女王陛下が原因だったのか。

 許せない。


「よし、レベル上限装置を運び込ませろ」


 またこれかよ。

 解放された俺はズボンを履きながら、またやるのかよとうんざりしていた。

 手を乗せるだけだから別にいいけど。


「「「「おおっ!」」」」


 再び城内が揺れた。

 水晶玉に映された『999』という数字に、先程以上の歓声が沸き起こる。気がつくと、そこら中から拍手が起こっていた。まるで見事な演劇やオペラを鑑賞し終えた後のように、一度静まり返ってから、ワーッ! と、嵐のように鳴り響いた。


「素晴らしい! アレン・マイヤーを生んだそなたには褒美をつかわす!」

「ありがとうございます! やったわよ、アレン!」


 母が喜ぶのも当然だ。

 我が家は俺の治療費のため、家財の大部分を売り払っていた。

 つまり、マイヤー家は財政難だったのだ。


 この一月は、俺とアイリスを結婚させようと企んだアイバーン家からの贈り物でしのいでいたが、それもそろそろ限界だった。そこに、女王陛下からの褒美は素直に有り難かった。


「アレン・マイヤー! そなたの金玉は我が国を、世界を救うぞ!」

「……はぁ」


 全然嬉しくない。

 大声で金玉というワードを叫ばれることに対して、どうしても嫌悪感を拭えない。

 前世では、何度この金玉を切除してやろうと考えたことか。


 この金玉さえなければ、俺だって藤虎と淡いアヴァンチュールな恋を楽しめたのだ。


 そもそも、神様が俺の性別を間違えなければ、俺が孤独な人生を送ることもなかった。

 だというのに、今度はエロゲの主人公だと? ふざけんのも大概にしろや! どうせなら乙女ゲームの主人公に転生させろ!

 そうすれば、俺はイケメン達とお花を摘みに行ったり、お洋服を買いに行ったりすることができたんだ。


 それがなんだよ……。

 お前の金玉が世界を救う? このシナリオ考えた奴は本気で頭おかしいんじゃないのか?

 なんでこんなクソゲーが人気なんだよ。金玉に魔力が宿るって何だよ! 意味わかんねぇんだよ!


 つーか、なんでこんなに金玉でけぇんだよッ!

 歩きにくいんだよ!

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