第20話 俺の金玉、喋るんだぜ。
「降りな」
カァーカァーと不気味な鳴き声がこだまする森の中で、荷馬車から降ろされた俺たちは、かつてベケス王国が魔力研究所として利用していた廃墟内を歩かされていた。
誘拐犯たちも夜間の移動は危険だと判断したのだろう。賢明な選択だと思う。蛇夜の森にはトロールも出現するのだ。
「入りな」
部屋には、ほこりまみれの簡素なベッドが一つあり、壁には苔が生えていた。
「ゴ、ゴキブリだァッ!?」
もしアウラの汚い部屋に慣れていなかったら、今ごろは俺もジミーのようにパニックに陥っていたかもしれない。
「だ、出してくれ! ゴキブリがいるんだ! すぐにこの部屋から出してくれッ!!」
ジミーは急いで部屋を出ようとしているが、どうやら外から鍵がかけられているようだ。
「君はどうしてそんなに落ち着いていられるんだ! この部屋にはゴキブリがいるんだよ!?」
ゴキブリのいる部屋に毎週通っているから、今さらという感じだ。
ジミーはしばらく一人で大騒ぎをしていたが、騒ぎ疲れたのか、今は部屋の隅で膝を抱えている。
「ねぇ、さっきから何をしているんだい?」
ベッドの下を調べる俺のことが気になったようで、ジミーが近寄ってきた。
「まあ、見てろって」
たしかこの辺りだったと思うんだけど……あった。
魔力研究所は、【終ノ空】ではちょっとしたダンジョンのような扱いになっており、様々な場所に様々なギミックが存在する。
現在、俺たちが閉じ込められているこの部屋は、かつて研究対象となっていた少年が閉じ込められていた部屋だ。
この部屋にもギミックが存在し、地下通路への入口がベッドの下に隠されている。
「君って本当に何者なんだい?」
ジミーは余程驚いたのか、俺の顔をまじまじと見つめていた。
「なんで隠し通路のことを知っていたんだい? 黙ってないで僕にも教えてくれよ」
階段を下りて地下通路にやって来たのだが、その間、俺はずっとジミーの「どうしてなんだい?」攻撃に頭を悩まされていた。
さて、なんと言ったものか。
まさか前世でプレイしていたから知っていたとは、口が裂けても言えない。
「なんで無視するんだよ!」
拗ねたかと思ったら、今度は癇癪を起こし始めた。
仕方ない。適当に理由をつけて乗り切るか。
「ああ、ごめんごめん。無視をしていたわけじゃないんだ。ジミーも特別な金玉を持っているんだからわかるだろ?」
「……?」
ジミーは訳がわからないと言った顔をしていた。
「あれ、もしかして……ジミーのは話しかけてきたりしないのか?」
「話しかけてくるって……何が?」
「何がって……もちろん金玉だけど」
「え」
ジミーは目をパチクリさせ、キョトンとした鳩のような顔をしていた。
そして、次の瞬間には大砲を放つかのように大声を上げていた。
「えええええええええええええええええええええええええええええ――――――ッッ!!!?」
ジミーはまるでギャグ漫画のように目を飛び出す勢いで叫んだ。その後、俺の股間をじっと見つめ、自分のズボンを引っ張って股間を覗き込むと、今度は自分の股間に向かって叫んだ。
「えええええええええええええええええええええええええええええ――――――ッッ!!!?」
ジミーは何度も俺の顔、そして俺の股間、自分の股間と視線を向けていた。
「お、応答せよ。……もしもーし、聞こえていますか? おーい………」
ジミーは金玉からの返事がなかったことに非常にショックを受けた様子で、顔が青ざめていた。
「ぼ、僕の金玉が返事をしてくれないんだ! ……まさか、死んでるのかもしれない!」
いや、そもそも金玉は生きてねぇよ。
「先生!
「お、おい、やめろっ!」
ジミーが何をトチ狂ったのか分からないが、彼は俺の腰に抱きついてきたかと思えば、俺の股間に話しかけていた。
「先生! 助言をっ、助言をください先生っ!」
「馬鹿っ、離れろッ! おいってばっ!」
何とかジミーを引き離すことに成功したが、彼はすっかり意気消沈していた。その様子を見て、少し悪いことをしたような気分になる。
一応フォローしておくか。
「金玉と心を通わすことはとても難しいことなんだよ。一石二鳥でできることじゃない。でも、諦めなければ、ジミーにもいつか金玉の声が聞こえるようになると思うよ」
「本当かい! いや、選ばれし真の
よくわからんが、ジミーの俺に対する信頼度はすごい。いや、これは俺というよりも、俺の金玉に対する信頼度と言ったほうがいいのかもしれない。
ま、どっちでもいいけど……。
「ジミー、金玉の話はあとだ。今はここから離れることが先だ」
「それも先生の指示かい?)
「え…………ああ、うん」
この時、俺はジミーに金玉と話していると嘘をついたことを、一生後悔することになるとは思ってもみなかった。
ファンタジーな冒険がしたいのにエロゲの世界はどこまで行ってもエロゲだった。by俺、ゲイです。 🎈パンサー葉月🎈 @hazukihazuki
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