第13話 毒の花と腹黒姫
「お入りになって」
グラセラに従って城の裏手にやって来たところ、彼女は何もない場所で身をかがめ、地面をコンコンと叩いた。
すると、そこに隠し階段が現れた。
好きピだった藤虎と話をするために、【終ノ空】を相当やり込んでいた俺だが、この隠しギミックは知らなかった。
ダウンロードコンテンツで実装される予定だった隠し通路だったのだろうか? 詳細は不明だ。
「この下に、何があるんですか?」
「あらあら、焦らずとも、行けばわかりますわよ」
不敵な笑みが恐ろしかった。
もし相手が腹黒姫じゃなかったら、こんなに警戒することはなかったと思う。
「どうかしたのですか?」
「……閉所恐怖症でして」
「中は広いですわ」
「……暗所恐怖症でもあるのです」
「灯り、付けましたわよ」
隠し階段の奥が突然明るくなった。
どういう原理だ。
「行きますわよ」
「あ……はい」
腹黒姫の言う通り、隠し階段を下りた先には広々とした空間が広がっていた。
「こっちですわ」
キャッスルステアケイスの内部は迷宮のような造りになっており、もしグラセラと逸れてしまったら、おそらく一人で地上に戻ることは不可能だと思われる。
「あ、そこ罠があるのでお気をつけください」
「ひぃっ!?」
石床の一部がトラップスイッチになっていて、誤って踏んでしまうと左右の壁から無数の槍が飛び出してくる。
「そ、そういうことはもっと早く言ってくださいッ!」
「うふふ。ごめん遊ばせ」
笑って言うことかよ。
こっちは危うく死んでしまうところだったんだぞ。
マキュレイに反射神経を鍛えられていなければ、たぶん今ので死んでいた。
「あ、そこは触れない方がよろしくてよ?」
「へ……? いぎゃあああああああッ!?」
壁に手をついた瞬間、足元の床が突然開いてしまった。辛うじて転落は免れたが、下を見ると床にはたくさんの剣が埋め込まれていた。
し、死んでいた。
落ちていたら確実に死んでいた。
「あ、あの……」
「あらあら、どうかいたしましたか?」
「引き上げてもらっていいですか?」
こいつ、本当は俺のことを殺そうとしているんじゃないだろうな。
……わからん。
この女だけは、さっぱり読めない。
「あらあら、大丈夫ですか?」
「え、ええ……何とか。あは……ははは」
誰のせいだと怒鳴りつけてやりたかったが、権威を失ったとはいえ、相手は王女殿下。ここはぐっと堪えるしかない。
その後も何度か死にかけた。
グラセラが涼しい顔をしているのに対し、俺はまるで水浴びをしたかのように全身汗でびっしょりだった。
「着きましたわ」
彼女は立派な鉄扉の前で足を止めていた。どうやら彼女の目的地は、この扉の奥にあるようだ。
「おおっ! これはすごい!」
その場所はまさに温室のようだった。
地下にあるとは思えないほど、驚くほど色とりどりの花が咲き乱れていた。
花ごとに異なる栽培方法が採用されており、植木鉢や水耕栽培で育てられている花、壁面や天井に垂直に植えられた花など、多様な育て方が行われている。
「すぅーハァー……」
何よりここはすごく落ち着く。
トラップまみれでかび臭かった地下通路とは対照的に、この場所は花々の香りが強く漂っている。甘い花の香りと、時折混ざる緑の葉っぱの爽やかな香りが、空間全体を包み込んでいた。また、湿度が高いためか、微かに土の匂いも感じられた。これらの香りが混ざり合って、まるで自然そのものが室内に広がっているような雰囲気を醸し出している。
「城の地下に、こんなに素敵な場所があったなんて知りませんでした。殿下はお花が好きなのですね」
花は俺も前世から好きだ。
学生時代はお花屋さんでアルバイトをしていたこともある。
現世でも、村にいた頃はよく山に花を摘みに行っていた。アイリスに花冠を作ってあげたこともあった。
「見たことない不思議なお花ばかりですね。少し見させてもらっても構いませんか?」
「ええ、ええ。それはもう構いませんわ。ただし、そちらの花は棘に猛毒があるので、注意が必要ですわね」
「……………え?」
毒……?
俺の気のせいだろうか、今毒がなんちゃらかんちゃらと聞こえたような気がしたのだが……。
「その花なら、口に含まなければ大丈夫ですわ。ええと…何かお困りですか?」
「いえ……あの、まさかとは思いますが、ここにある花って……」
「ええ、ええ。すべて猛毒を持つとされる貴重なお花ですわ」
「………」
この女のヤバさに絶句してしまった。
城の地下で猛毒の花を育てるお姫様なんて聞いたことがない。
「な、なぜ猛毒の花を……?」
怖いもの見たさというやつで尋ねてみたのだが、
「うふふ」
彼女は不敵に微笑むだけで何も答えてくれなかった。その態度が、ますます恐怖を感じさせた。
「素敵なお花を眺めながら、美味しいクッキーと、お紅茶でも頂きましょうか?」
グラセラに案内されて部屋の奥に進むと、可愛らしい小さな丸テーブルと椅子が二脚、不自然に配置されていた。
「あらあら、お掛けになって」
「は、はい」
こいつ、はじめから俺をここに連れてくる気だったな。
細心の注意を払いながら席に座ると、彼女が軽く手を二回叩いた。すると、突然天井から何かが降ってきた。
「!?」
人だ。
褐色の肌を持ち、銀髪と赤い瞳が印象的な忍者少女である。
「イデア、お茶を二人分用意してもらえるかしら?」
「勿論でござる。ダージリンでよいでござるか?」
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