第7話 訓練②

「さて、今日は君たち二人だが、アイナは本当に大丈夫なのか?」

「はい!昨日ノアさんから頂いたお金でたくさん美味しいもの食べたからもう十分元気よ!」


うん、それはよかったよ。でもねさすがにお釣りが銀貨60枚しかなくて驚いたよ。


「ちなみにガントレットは買えたか?」

「はい!前から欲しかったこれを買えました!」


アイナが見せてくれたのは彼女の髪の色と同じガントレットだった。


「へーーなかなか良いものを選んだじゃないか。見た感じ銀貨20枚ってとこか?」

「すごい!なんでわかったの!?」

「俺も何度かガントレットを買いに行ったことがあるからね」


Gランクの彼らからしたら装備一つに銀貨20枚は高価かもしれないけどDランクぐらいになれば割と手軽に買えるからね。

まあ、5層のボスには十分過ぎる装備だな。

でもまだ残り銀貨20枚ぐらい残ってるんだよねーー。

屋台の串肉が銅貨2~3枚と考えるとざっと3人で70食近く食べたことになるんだけどクレアもオリビアもそんなに食べるイメージがないし……

俺はチラッとアイナを見る。


「なに?」

「いや、なんでもない」


気にしたらダメだな。


「それじゃあ、授業を始める」

「はい!」

「は、はい!」

「まずアイナはそのガントレットを付けて軽く教会5周走ってこい」

「ええーーー!」

「お前は他の三人と違ってダンジョンにいるときは常にガントレットを付けて動くんだ。まずはそのガントレットになれる必要がある。という訳でとっとと走ってこい!」

「え、ちょっと!」

「それと俺がオリビアに教え終わる前に終わらなかったらガントレット分の料金は借金な」

「え、嘘!?」

「さ~オリビア授業を始めようか」

「も~~わかったわよ~~!!」


アイナは文句を言いながらも急いで走って行った。


「それじゃあ、オリビアには魔法の基礎かつ重要なトレーニング法を教えるな」

「なんですかそれは?」


オリビアは興味津々に俺に聞いてくる。

この子、もしかして魔法が好きなのか?

俺は両手を前に出す。


「オリビア、俺の両手を握って」

「両手をですか?」

「そう」


オリビアは恐る恐る俺の両手を握る。

俺は彼女の手を軽く握り返して彼女に魔力を送る。


「!」


オリビアの体がビクリとなるが俺は魔力を流し続ける。


「の、ノア先生、これって」

「そう魔力だ」

「これが…魔力…」


俺はオリビアから手を放し魔力を送るのをやめる。


「今のは俺が手を通じてオリビアに魔力を送った。どうだ初めて魔力をはっきりと感じた感覚は?」

「なんだか…すごく温かかったです」

「オリビアにはこれから自身の体内にある魔力を自分で循環する練習をしてもらう。今の感覚を頭の隅に置いて練習してみろ」

「は、はい!」


オリビアは目を閉じて集中する。

当分はオリビアはこのままで大丈夫だろう。


「はぁはぁ、5周終わったわよ・・・」


息も絶え絶えでちょうど終わったところで戻ってきた。

まぁ、ほんとにギリギリだが合格だな。


「よし、借金はなしだ」

「いやったーー!!」


アイナは嬉しそうに両腕を上げて後ろに倒れ込む。

まったくこいつらは・・・・・・本格的に体力改善からするべきかもな。


「喜んでるところ悪いがここからが本番だぞ?」

「えっ?」


そんな驚いた顔で『マジ?』って言われてもこの程度でへばってじゃ、命がいくらあっても足りねえよ。


「これからお前には攻撃をいなすことを覚えてもらう」

「攻撃をいなす?」

「百聞は一見にしかずだ。遠慮せず撃ち込んでこい!」

「いいんですか?本気でいきますよ?」

「ああ、ドンっとこい!」


アイナは遠慮なく拳を突き出してくる。

俺はそれを受け止める。


「へぇー、意外と重いじゃねえか」

「これでも鍛えてますから!」

「なるほどな」

「どんどんいきますからね!」

「ああ!」


アイナはどんどん俺を殴ってくる。

思ってたより、重いし速いな・・・だが攻撃が直前的過ぎるな。

最初は全て受け止めてたが少しずつ腕と体の角度を変えて。


「え・・・?」

「よっと」


俺は一撃受け流してそのままアイナの足を引っ掛けて転ばす。


「これがいなしだ。直接攻撃を受け止めるよりダメージが少なく敵を誘導することもできる。さらに脚と組み合わせればこうやって転ばすこともできる」


俺はアイナの手を取り起き上がらせる。


「これからアイナには俺の打撃をいなしてもらう」

「え、でもノアさんって剣士なんじゃ?」

「別に剣士でも格闘術を使うぞ?一発受けてみるか?」

「大丈夫です。ノアさんがすごいのはわかりましたから」

「そうか?」


つまらないな。ケイレブならバカみたいに受けるのに。

まあケイレブみたいなタイプはパーティに一人で十分か。


「なら、いくぞ。安心しろ、もちろん手加減はしてやるから、よ!」


俺はアイナに攻撃するが咄嗟にアイナがかわす。


「ちょっと!?いきなり殴りかかるなんてズルくない!」

「敵やモンスターが今から攻撃しますなんて言わないだろ!」


今度は受け止める。


「受けてじゃ練習にならないぞ?」

「そんなのわかってる、って!」


それからアイナと30分ほど殴りかかった。


「そろそろひと休憩入れるか」

「あ、あと、一本…」


まったく無理に続けても逆効果だというのに……でもここはアイナの要望に応えたほうが彼女も納得するか。


「一本だけだぞ」


俺は再度アイナに殴りかかる。

アイナは真剣にこちらの動きを観察して見極める。


「ここ!」


アイナは腕と体を少し倒して見事俺の一撃をいなした。


「おっ!?」


更に彼女は俺の足に自分の足を引っかけた。

コイツ、俺の真似を……


「やった!」


喜んでるとこ悪いが俺もそう簡単に醜態を晒すつもりはないぜ?

俺は片手を地面につけてその腕に力を入れて空中で半回転し綺麗に着地する。


「ちょっと、それはなくない!?」

「簡単にアホずらはみせねえよ。それにしても最後の最後に決めるとはな。それもそこに足技をかけるとは」


流石に一発目に足を引っ掛けてくるとは思わなかった。


「どんな…もん…よ……」


アイナはまた倒れ込むように地面に寝転んだ。


「アイナはそこで休んでろ」


俺はオリビアのもとに向かう。

オリビアは目を閉じて自分の体内にある魔力を循環させてる。

最初の頃よりオリビア自身の魔力の密度が高まっているな……このへんが頃合いか。


「オリビア」

「あ、ノア先生」


声をかけるとオリビアは返事をしてくれた。

だが、それでも魔力の循環をやめない。


「オリビア、一度体に魔力を循環させるのを止めてくれ」

「は、はい」


俺は土魔法で壁を作る。


「あれに今まで通りに魔法を撃ってくれ」

「わ、わかりました」


オリビアは杖に魔力を集中させる。

そして火魔法を壁に放つ。


ドガーーン!!


「え…」


壁は一撃で粉砕した。


「すごいじゃないオリビア!」


寝そべっていたアイナがいつの間にかにオリビアに駆け寄り手を握って喜ぶ。

しかしオリビアは魔法の威力に驚いて固まっている。


「驚いただろ?」

「は、はい……」

「魔力を正確に感じ取ることで今まで空中に霧散していた魔力が少なくっていつもと同じ量の魔力でも威力が爆発的に増すんだ」

「すごい……」

「それに今までと同じ威力でも必要な魔力も少なくなるし、もっと上達すれば、俺みたいに杖のような媒介を必要とせず魔法を使うこともできる」


冒険者でもDランク以下の魔法使いがこれを知っている人は少ない。

こういう技術は誰かから教えてもらうしかない。

だが、冒険者は同業者でありライバルでもある。

相手に有利なる情報を簡単には教えない。

そう考えるとオリビアが俺と知り合えたのはかなりの幸運だったのだろう。


「それじゃあ、昼休憩挟んで続きな」

「「はい!」」


それから俺たちは昼飯を食べて午後はアイナには俺と模擬戦でいなしや足技の練習、オリビアには魔法の威力調整の練習をさせて一日を終えた。

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