第10話 二人の襲撃者
さて、予想はしていたが思っていた以上に早かったな……
「師匠、連れ戻すってどういう・・・」
「あ、もしかしてその子達が新しい君の生徒かい?」
「そうだが?」
近づいて来ようとするケイレブに俺は首を振って来るなと伝える。
ケイレブはそれを感じとって足を止め下がる。
「まさかコイツらを人質にってことはしねぇよな?」
「最悪の場合はそうするしかないかもね」
アランはあっけらかんと言う。
「あ、別に君達の先生が悪人ってことじゃないからね。ただ少し彼にしてもらわなくちゃいけないことがあってね」
「誤解を生むような言い方はやめろ。それに元はと言えばあのバカに言われてこうなったんだぜ?俺に後始末させるのはお門違いじゃねぇか?」
アランはクレアたちに弁明するが、突然斬りかかって来るやつの言葉じゃ逆に疑われるだろうが。
まぁ、アランが俺に王都に帰ってきて欲しい理由は察しがついてる。
「それを言われると僕も何も言えないんだけど、王都の住民のことも考えてくれよ」
「妹の後始末は兄の仕事だろ?」
「それは一般家庭の常識さ、僕がそんなことをしたら痛ぶられて殺されるだけだよ?」
「兄ならその運命を甘んじて受け入れろ」
「断る!僕はまだ生きたい!そして君達のお姉さんに告白するんだ!」
「一度フラれた癖に」
「ヴッ!!」
アランは胸を押さえて少し後退る。
そう、こいつは昔、俺たちの姉さんに告って見事にフラれた。
その癖に諦めが悪くずっとあんなことを言っているん・・・だ・・・?
待てよ?アランのやつ今君達って言っての、か!?
背後に迫りくる気配を感じた俺はその気配の根源を蹴り飛ばす。
そして蹴り飛ばした男はアランの横へと着地した。
「やっぱり兄さんには通じないか」
「ネモ、お前まで・・・」
まさか、アランのやつ弟まで連れ出してくるとは。
「アラン、お前、とうとうネモにまで縋ってここに来たのかよ?」
「違うよ兄さん。僕は自分の意思でここに来てアランさんと一緒に兄さんを連れ戻しに来たんだ」
なんだよそれ・・・アラン一人なら楽だったのにネモが一緒となると話がだいぶ変わってくる。
「実の兄よりアランに味方するのかよ?」
「それ以前に自分の命も大事だからね。兄さんが帰ってこないと僕も死んじゃうから」
ネモにそこまで言わせるって、アイツ、一体どんだけ荒れてんだよ。
「それは悲しいね」
「結論兄さんが帰ってくれれば全て解決するんだけどね」
「それで俺が責任を持つとか勘弁願いたいもんだ」
まずいな、こんな会話最中でも人がどんどん集まってくる。
元から冒険者は荒くれ者が多い。
これを喧嘩と駆けつけて一つの娯楽としちまうつもりだろうが、命の保証も出来ねえ。
「そっちが諦めて帰ってくれるって選択肢は?」
「ごめんだけどそれはないね、ノア」
俺の唯一の双方穏便に済ませる選択肢をアランが一刀両断する。
そうか・・・なら、選択肢は一つしかないか。
俺はアランに向かって剣を振る。
アランはその一撃を剣で受け止める。
「なら、強制退場といこうか!」
「退場じゃなくて帰還がいいね!!」
アランは何とか耐えてみせるが腕がプルプル震えている。
しかしネモにはその一瞬で十分。
ネモは俺の首筋目掛けて麻痺毒付きの短剣を振るう。
しかし俺は風魔法でネモを後ろに吹き飛ばす。
「狙いは悪くねぇが、ネモ、お前じゃ俺には勝てねぇぞ?」
「そんなのはなから分かってるよ!」
アランの後ろに火の玉が数個浮んでいる。
俺はアランと一度距離を取る。
だがその隙にネモが俺との距離を詰めてくる。
だがこの2対1の攻防、アランとネモが繰り出す連携や魔法も全てノアの掌の上。
ノアは全てを弾き、いなし、相殺する。
最低限の動きで立ち回り疲労を見せる二人に対して息一つ乱れないノア。
「はあはあ、やっぱりノアはすごいね。流石僕の義弟だ」
「お前の義弟になった記憶はねぇよ」
汗をかき息も絶え絶えのアランが冗談を抜かす。
「奇襲なら兄弟で一番の自信はあったんだけどな」
「確かに奇襲に関して言えばお前が一番だろうなネモ。だがな、俺や姉貴にそんな奇襲が簡単に通じると思ったか?」
「愚問だったね」
ネモも決して弱い訳じゃない。むしろ暗殺や奇襲に関してはこの世界でトップクラスだろう。
アランだって近衛騎士副団長という地位についてる人物だ。弱いはずがない。
「あの動き、俺たちに教えた動きを再現してるのか?」
「確かにあの動きノアさんが私に教えてくれた動きのまんまだ」
「魔法の使い方も」
「つまり師匠は俺たち4人の動きを一人でやってるのか!?」
ジンのやつ、勘がいいな。
試しにやってみたがまさかネタバレする前に言い当てられちまったか。
「なるほど、いつもより手加減してくれると思ってたらそういうことかよ!」
「兄さんはそういうところあるよね」
二人は動きを止め俺と距離を取り武器をしまう。
俺も武器をしまう。
「ジン、よく気付いたな。ケイレブの言う通りさっきの動きはお前らに教えたことの総合版だな。今の動きができればこの国の近衛騎士副団長すら足止めできるってわけだ」
「やめてくれよ。僕にだって面子ってもんがあるんだからさ」
アランはケイレブ達に近づき挨拶する。
「急な訪問で悪かったね。僕の名前はアンラック、気軽にアランってよんでくれ」
アランはそう言うけどみんな警戒している。
「安心しろ。こいつは信頼できる。それは俺が保証する」
俺がそういうと4人は互いを見合って少し警戒心を解く。
「あれ?僕嫌われちゃったかな?」
「いきなり襲い掛かってくる奴を警戒しないわけないだろ」
何を言ってんだコイツは?
「兄さん、僕も紹介してくれませんか?」
ネモが笑顔でそう言ってきた。
「そうだな。こっちは俺の弟のネモだ」
「兄さんの弟のネモです。よろしくね♪」
ネモは笑顔で4人に挨拶する。
「の、ノア先生のお、弟さん?」
「はい。兄さんは凄いでしょ?」
「は、はい」
ネモの質問返しにオリビアはちょっと緊張しながら答える。
それに追尾するようにアランがネモの言葉に付け足す。
「君たちはかなりの幸運だよ?ノアに教えてもらえるなんてそうそうないからね」
「そういうのはいいから。それとこちらがクレアさん。この子たちの保護者だ」
「クレアです。初めまして、アンラック様、ネモ様」
「アンラックです。アランと呼んでください。それと様はなしでお願いします」
「ネモです。僕も様は無しで」
「かしこまりました。アランさん、ネモさん」
というか呑気に自己紹介なんてしてる場合じゃなかった。
「それで、ネモまで来たってことはもう持ちそうにないってことだよな?」
俺はアランにそう持ち掛けるとアランは疲れた顔で深々と頷く。
「そうだよ。だからノアにはできるだけ早く戻ってきてほしいんだ」
「それでもまだこいつらの世話もあるし」
一応、ルドハート先生の依頼の条件はクリアしたが今のケイレブ達の能力で冒険者として生きて行けるかと言えば、その保証はできない。
「それなら心配いりません。彼らの面倒は僕とアランさんが責任を持って世話しますので」
「どういうことだ?」
「簡単さ、この4人を王都に連れて行けば良いってことだよ。この子達も冒険者なら一度は王都を見ておくのも悪くはないと僕は思うよ」
確かにアランの言う通り、一度は王都に行かせるのもありだが、せっかく5階層のボスを討伐したところで王都に連れていくのはどうなのか……
それに王都行くなら最低でも20階層ぐらいを攻略できる力をつけてからだと考えていたんだがな……だが、その反面、キリがいいのも事実。
ここで王都の冒険者たちを目にするのもありかもしれない。
「4人とも、どうだ、二人の提案にのるか?一応王都にも冒険者はいるし、ここでは学べないこともたくさん学べる。ダンジョン攻略は一時中断となるがもちろん俺の授業は継続で構わない。もちろんクレアも良ければだが」
「私は子供たちの意見を尊重します」
クレアは即答する。要するに4人が行くなら自分も行き、残るなら自分も残るってことか。
俺は再度4人に問う。
「どうする?」
「もちろん行くぜ!俺一度王都に行ってみたかったんだ!」
「私も王都のスイーツ食べたい!」
「師匠のもとで学べるなら俺はどこでも構いません」
「わ、私もノア先生が一緒なら」
まったく、俺の言ったことはそもそも眼中にあんまりなかったか。
「決まりだな」
4人の答えを聞いてアランは満足そうにうなずく。
「それじゃあ、荷物を持っていこうか!」
「はぁ?」
アランが俺に肩を組みそう言った。
「ちょっと待てよ。荷物を持ってって、今すぐにか?」
「もちろんですよ兄さん。すでに今日の分の列車のチケットは取ってあるので。もちろん彼らの分も」
ネモはニヤリと笑みを浮かべ8枚のチケットを見せる。
どうやら、こいつら、元から今日俺を連れ帰すつもりだったらしいな。
アランとネモは半ば勢いでことを進めダンジョンから帰ってきて2時間もしないうちに俺たちは王都行の列車に乗ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます