第11話 魔術の剣聖

たった一月しか離れていないのに何故こうなってしまったのか、いや、予想はしていた。

自分がその事実から目を背けているだけだと心の中では気づいていたんだ。


「ノアさん、何でお腹抱えてるの?」

「気にすんな。いつものことだ」


毎度この後のことを考えると胃液が噴火しそうでマジでやばい。

今度シャルルに胃腸に効く薬作ってもらうか。

王都の駅に着くと4人は目を輝かせて列車を出て王都の景色を見ようと駆け出すが、しかし4人の目に映ったのはまるで廃墟かと言わんばかりの王都だった。

想像とはかけ離れたその崩壊ぶりに絶句する。


「予想以上に荒れてるな……」


王都の美しい景色は今や戦後の敗戦国かのようにぼろぼろになっている。


ドゴンッ!!


案の定王城の一部が爆発した。

あそこにいるのか。


「妹は君がいなくなってから毎日あそこで暴れているんだ」

「その割には王都がまだギリギリ形を保っているのってことは」

「シャルルのおかげだよ。彼女が毎晩王都を修復してくれるから何とか保てているんだ」


シャルルにも迷惑かけたか……ああー聞こえてくるぞ。シャルルからの文句が次々と聞こえてくる。

後でシャルルにも詫びいれないとな……。

とりあえず今は目の前のことに集中しなくちゃな。


「さて4人とも、早速で悪いが。今からいうことを守ってもらう。いまから俺が許可するまで俺の名前を言うな。いいな?」


4人は首をかしげるが頷く。

だが俺はしっかりと言い聞かせる。


「クレアもそうしてくれ」

「わかりました」

「アラン、ネモ、5人を頼む」

「もちろん!」

「はい」


俺はアランとネモにクレア達を預けてそのまま王都の外の平原へと向かった。


移動中にも王城からは爆発音が聞こえてくる。

荒れてる・・・・・・これは1週間は覚悟しなくちゃいけないかな。

王都から十分距離を取った。ここからなら2次被害も少ないかな。王都から離れた平原で俺は剣を抜く。そして魔力を開放する。


「ふん!!」


魔力を開放すると俺を中心に魔力の渦ができた。


「闇は全てを包み込み、安然を与える」


渦となった魔力を剣に纏わせる。

その時、王城から一つの強い光がこちらに向かって飛んでくる。


「暗き導きは自由を示す」


剣が漆黒に染まっていく。


「今ここに証明するしめすは万物から解放!」


限界まで闇の魔力を収束させた剣を向かってくる光に振るう!


「ノアァァァァ!!!」

「シルヴィィィ!!!!!!」

「閃光縛雷!」

「闇解断絶!」


光と闇の凄まじい魔力がぶつかり合い大地を震わす。

そしてその魔力の中心では二つの魔力が相殺し合う。


「もう逃がさないから、ノア!!」

「別に逃げてねえよ、シルヴィ!!」


二つの魔力のぶつかり合いは衝撃破を生み大地にヒビを入れた。

白と黒の剣を交える男女とその剣から出る光と闇がバチバチとぶつかり合う。


「どうして黙って私の前からいなくなったのよ!」

「言い訳になるかもしれないけど。俺の意思でいなくなったわけじゃないからな?」

「言い訳無用!」


シルヴィの光が強くなっていく。

それに伴い彼女の美しいプラチナブロンドの髪の一部が白く輝く。

俺は魔力の増したシルヴィに押され吹き飛ばされる。

浮いた俺をほっとくほどシルヴィは甘くない。

彼女の髪は白の輝きが赤と緑の輝きに変わる。

火と風か!


「風炎蛇縛!」


シルヴィが剣を振るとそこから風を纏う炎の蛇が向かってくる。

俺は土魔法で壁を作り、それに水魔法を放ち闇魔法でコーティングする。

炎の蛇は土の壁にぶつかり共に爆散した。

俺は風魔法で爆散する炎と土の中を駆け抜ける。

シルヴィの姿が見えた俺は勝負を決めようともう一度剣に魔力を纏わせる。

「行ける!」そう確信した直後、彼女の姿が見えると彼女の髪に茶と青の色が追加されていた。


「まさか!?」


咄嗟に目線だけ後ろに向けると空中で爆散したはずの火、風、水、土が再生していた。

魔法の支配権を奪われた!?

再生した魔法は俺の手足を縛る。

そのままシルヴィの前に叩けつけられた。


「ヴッ!」


シルヴィがしゃがみ込み俺を見つめる。

俺は一瞬上を見ようとするが彼女がスカートだと気づいたのですぐに地面に顔を付け直す。


「ようやく、ようやく見つけたわよノア」

「……お手柔らかに頼みます」

「もちろん♪」


シルヴィの髪が黄色に輝くのを見て俺は察した。

あ、終わった。

ビリッとした感触をうなじに感じた瞬間俺は意識を失った。



***



「なぁ」

「なぁに♪?」

「毎回思うんだけど6属性魔法で拘束するのはやり過ぎだと思うんだが?」

「でもそうしないとノア、逃げちゃうでしょ?」


あれからどれだけ時間が経ったか分からないが、目を覚ましたら毎度お馴染みのシルヴィの部屋に椅子に座らせられて6つの属性魔法で体を拘束されていた。


「こっちに事情ってものが・・・」

「そもそもの話、アンタが私から離れなければ問題なんて起こらなかったのよ?」


シルヴィが俺の膝に座ってきた。

あ、ちゃんと自分のしたことが問題だって認識してるんだ。

でもわかってるならやらないで欲しいんだよな。


「そうだアランたちはどうなって」

「ああ、あのへなちょこ兄なら私が屋敷にアンタを担いできたときちょうど子供たちを連れてきてたわね」


ケイレブ達とあったのか……

少しの不安が胸に残るが聞かないわけにはいかない。


「ケイレブ達にちょっかい出してないよな?」

「私からは出してないわよ?」

「私からはって……」


嫌な予感しかしない。


「アンタを抱えた私を見て馬鹿にも突っかかってきたから少しお灸を据えてあげたの♪」

「ああ……」


シルヴィからもう少し詳しい内容を聞くと、俺を抱えてきたシルヴィを見た4人が俺の開放を求めたらしい。

それだけで俺は幸せだよ。

でも命は大切にするように。

まあ、でもそんなことをシルヴィが了承するはずもなく『彼は私のよ。私一人だけのもの』と言い放ったらしい。

そこでケイレブが勝負を挑んだらしい、あのバカ…!

それを面倒だと思ったシルヴィは雷魔法で4人を気絶させたということらしい。


「あいては10歳の子供だぞ?」

「安心しなさい。手加減はしたから」


シルヴィは笑顔で指先に小さい雷を見せる。

お前の手加減ってサイクロプスが一撃で失神するってことだろ?それもう死んでるって。


「そんなことより今の状況わかってる?」

「この農密度の6属性の魔法で拘束されて学園入学以来のに半ば監禁されてるこの状況のことか?」


俺は半ば投げやりにそう言った。

だがその俺の言葉にシルヴィは笑顔で答えた。


「わかってるならいいわ♪」

「監禁って認めるんだ……」


シルヴィが腕を俺の首に回して顔を近づける。


「最低でも1週間は一緒よ」

「せめて2日にしてくれない?」

「ダメ♪」

「あ、はい……」


俺は諦めてシルヴィからのハグとスリスリを受け入れる。

俺はどこで育て方を間違えてしまったのだろう。

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