第12話 5日ぶりの朝

晴れ渡る青空、のどかな空気に、体を照らす太陽の光が俺の体と心を癒してくれる。


「5日ぶりの外の空気……体が軽い……」


シルヴィに監禁されてから5日間、俺は何度も彼女に懇願し1日デートを条件に2日早く解放された。

5日ぶりの外の空気はとても美味く身体中の血液に染み渡る。


「まぁ、朝から抜け出すなんて感心しないわよノア」

「シーナ様…」


俺が体を伸ばしていると一人の美しい貴婦人が話しかけて来た。

シーナ・アルストロ、シルヴィとアランの母でありアルストロ家の婦人でもある。


「ノアったら、息子から様付けなんてお母さん悲しいわ…」

「お生憎様、私には母親はおりませんので」

「そんなーー、私にとってあなたは正真正銘の息子よ?」

「息子ならアランがいますでしょう」

「もちろんアランも大切な息子だけどあなたも大切な息子よ」


シーナ様が抱き着こうと駆け寄ってくるが俺は避ける。


「あら…?」


抱きしめ損ねたシーナ様だが、あきらめ悪く俺を抱きしめようと何度も追いかけてくる。

しかもこの人どんどんスピードを上げてくる。

この人ドレスの癖になんでこんな速いんだよ!?

割と本気で逃げてるのにだんだんと距離が縮まっていく!


「それ!」

「グワッ!?」


とうとうシーナ様につかまってしまった。

シーナ様はその豊満な胸を俺の顔に押し付け、頭をなでる。


「シーナ様、さすがに恥ずかしいのですが……」

「ダメよ。息子をかわいがるのは母親の特権ですもの!」

「そうは言いますけど……」


何度も言うが俺に母親はいない。

これでも俺は今年19になるんだぜ?

よそさまのお母さまに抱きしめられて頭なでなでされるのは抵抗がある。


「ノア!それに……お母様!?何をしているのですか!?」


そんな時、寝間着姿のシルヴィにこの弁明しようのない姿を見られてしまった。


「やば……」

「あらら、見つかっちゃいましたね♪」


いやいや、「あら見つかっちゃった」じゃないですよ!

シルヴィが鬼のような形相でこちらに向かってくる。

シーナ様はすぐさま俺から離れて何事もなかったのように去って行く。


「ノア、がんばってね♪終わったら晩餐室にね♪」

「いや、そんな他人事みたいに……」

「ノ~~~ア~~~?」


振り向くとシルヴィの髪は黒く染まり彼女の周りには火、水、風、土、雷、氷、光、闇の8属性の縄が浮いている。


「シルヴィ、待ってくれ!あれはシーナ様が!」

「言い訳無用!!」



***


どうにかシルヴィから生き延びた。

毎度彼女と会うと死を覚悟しなくちゃいけないのは何故なんだ?

俺はそのまま晩餐室に向かおうとしたら。


「ノア様、流石にそのお召し物では旦那様も奥様も納得しませんのでお着替えのほどを」


アルストロ家の家宰、執事服を身に纏った老紳士、ゼノスさんにそう言われて無理矢理衣装部屋に押し込まれた。


「こちらなんてどうでしょう」

「いや、そういうキッチリしたのは・・・・・・」

「ではこちらはどうでしょう。正装ですし、着やすい物です」


ならこれでいいか。

俺はゼノスさんから服を受け取ろうとしたら、その服が横から他の人の手に渡ってしまった。


「ダメですよゼノス様!これではシルヴィお嬢様と合いません!こっちの方が合います!」

「ミリアさん・・・いつの間に・・・」


そう言って、ゼノスさんが俺に渡そうとした服の代わりに別の服を俺に押し付けてくる栗色の髪の美少女。

いつの間にかゼノスさんの隣で洋服の選定に参加してたお姉さんメイドのミリアさん。

彼女はアルストロ家のメイド長でゼノスさんに次ぐ使用人のNo.2である。

とはいえ、何故この人は勝手にドレスコードしようとしてるんだ?


「ミリアさん、俺は適当にゼノスさんが選んだ奴で」

「ダメです!シルヴィお嬢様を悲しませるなど旦那様がしてよいことではございません!」

「いや、旦那様って別に俺は誰とも結婚してないし、ましてや付き合ってないから」

「一緒に寝たくせにですか?」

「寝てないから。椅子の上で拘束されて寝たことを既成事実のように言うのはやめてください」


この人、絶対分かっていってる。

俺はゼノスさんが持っていた服を半ば無理矢理取って着替える。


「お似合いです」

「ああ〜〜!!せっかくのドレスコードが!?」


ミリアさんは・・・・・・少しはゼノスさんのように落ち着きを持ったらいいのに。

俺が着替えて衣装部屋を出るとそこには薄い水色のドレスを着たシルヴィがいた。 


「何よその服・・・」

「ゼノスさんが勧めてくれたんだけど・・・」


どうやらお嬢様はこの服にご不満らしい。


「ミリア・・・失敗してるじゃないの・・・後でお仕置きね」


小声で言ってるけど聞こえてるから。

それとやっぱりお前の差金か。

俺は腕を出してシルヴィを誘う。


「それでは行きましょうか

「ふん。分かってるならいいのよ。それとそれは禁止!」


文句は言うけどちゃんと腕を絡ませてくるお嬢様。

こうしないとコイツはまた暴れるからな。

俺とシルヴィの後ろにゼノスさんとミリアさんが続いて4人で晩餐室に向かう。

晩餐室の前に着くとゼノスさんとミリアさんが前に出た。


「それでは」

「ごゆるりと」


二人は扉を開ける。

晩餐室にはシーナ様をはじめとするアルストロ家にクレアさんと子供たちがいた。


「師匠!?」


真っ先に声をかけてきたのはケイレブだった。

彼に続いて4人が俺のもとに駆け足できた。


「師匠、大丈夫だったか!?」

「心配したのよ!」

「一時はどうなるかと・・・」

「け、怪我はない?」


各々が俺に心配の声をかけてくれる。


「見ての通りなんともない。心配をかけたな」


俺が4人の頭を撫でよと手を前に出すとその腕に闇魔法で作られた鎖が巻かれて動きが止まった。

隣を見ると『なに・・・しようと・・・してるの・・・?』

と完全にハイライトを消した美少女がこちらを睨んでいた。


「し、シルヴィ・・・魔法を解いてくれないか?」

「アンタが腕を下げたらね・・・・・・」


俺の筋力とシルヴィの闇魔法の力は拮抗して俺の腕が震える。


「そこまでにしなさい」


落ち着いた声が広がる。

その美声の持ち主たるシーナ様が扇子を口にそう言うとシルヴィは大人しく闇魔法を解除して俺も腕を下ろす。


「全員席に戻りなさい」


子供たちもその冷たい声に危機感を感じて急いで自分の座っていた席に戻る。

俺もゼノスさんに案内されてアイナの対面に座る。

そして当たり前のようにシルヴィは俺の隣に座ろうとするが


「シルヴィ、あなたは私の隣よ」


シーナ様がそう言った。

もちろんシルヴィは目で訴えるがシーナ様の鋭い目線に敗北し泣く泣くシーナ様の隣に座る。

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