第15話 城での事件前半

王都とは文字通り、国の主である王が住まう都であり、その中心である王城は王が住む居住であり、王を守る要塞でもある。

そしてまた、国の全てを管理する場でもある。

その王城の中でも一際立派な部屋、俗称謁見の間は国の重大発表など重要ごとで使用されることが多い。

その謁見の間では王都から離れている父王の代わりに代理として国を任されている第3王子ウィリアムが玉座に座り、部屋の横には大臣やその派閥の貴族達が並んでいた。

そんな場で第3王子であるウィリアムに真っ向から苦言を呈する少女がいた。


「そろそろ私の兄貴の国外追放を解きなさいよ、この馬鹿王子」


彼女の名はシャルル、ノアの妹にしてネモの姉だ。


「貴様、殿下に向かってなんという言い草を!!」

「よい、彼女には王都を修復してもらった功があるからな」


ウィリアムがシャルルを注意しようとした貴族を諌める。


「だが、貴様の言は聞けぬ」


シャルルはウィリアムの答えに頭を痛める。


「…アホじゃないの?このまま兄貴を国外追放にしたままだとあの我儘お嬢様がまた暴れ出すわよ?」

「シルヴィアとて少しは暴れるだろうが、いずれは力が尽きる。そう何度も暴れることはできないだろう。そしてその空いた心を私の愛で埋め尽くし、彼女を我が妃に!」


ウィリアムの一人語りにシャルルは完全に呆れていた。


「悪いけど、彼女はアンタのものにはならないわよ?」


シャルルはシルヴィを知る者なら簡単に分かる、当たり前の答えを返した。

しかしそんなこと、このある意味盲目な王子には届かなかった。


「そんなわけない。彼女は少し照屋さんなだけなのさ。じゃなきゃ、王子である私よりあんな平民を選ぶわけがない」

「アンタ、今馬鹿にしたその男の妹が、今アンタの目の前にいるのよ?それに悪いけど、私の兄貴はアンタよりよっぽど魅力的よ」

「何を馬鹿なことを」

「その通りよシャルル」


透き通った女性の声が謁見の間に響いた次の瞬間


ドガーン!!


謁見の間の壁の一部が破壊された。

そして一人の、いや、正確に二人の人間の人影が見える。

その内1人は魔法に疎い人間でも分かるほどの魔力を放っている。

この謁見の間にいた貴族の半分はその魔力に当てられえて畏怖する。

しかし、この謁見の間の中で二人そんなことまったく気にしない者たちがいた。


「相変わらず派手な登場をするわね」

「おお!!我が愛しのシルヴィアよ!私に会いに来てくれたのか!」


シャルルが呆れていると、ウィリアムがアホまる出しでシルヴィアに向かっていく。

しかし、シルヴィから氷と土の円錐がウィリアム向かって飛んでいき彼自身を傷つけないように服の端を貫き、玉座へと上がる階段に固定した。

シルヴィは抱えていたノアを放す。


「う"…!……や、やあシャルル、久しぶりだな……」

「…まったく、兄貴は兄としての威厳ってものはないのかしら?」


ノアは苦笑交じりに久方ぶりに会った妹に挨拶する。

対してシャルルは久方ぶりに会った兄がこんなにみっともないと心の中で嘆いた。


「そんなこと言わなくていいじゃねえかよ?」

「言いたくもなるわよ。私がいなかった数日の間に国外追放になったって聞いて、そのおかげで、あの魔術の剣聖様が王都で大暴れってネモから聞いて急いで向かったら、1月もの間、彼女の相手をさせられて、終わったと思ったら夜には王都の修繕に、次の日にはまた彼女の相手、これも全部兄貴のせいなんだからね!!」


シャルルから俺がいなくなってからの一月の生活を聞いて俺は絶句してしまった。

いや、まあ確かに思ったよ。

アランとネモが俺を迎えに来た時誰がシルヴィの相手をしてるのかって。

最初に浮かんだのはシーナ様で、その次に浮かんだのは他の国にいるはずの6人だ。

そして最後に浮かんだのはシャルルだ。

まず、あの6人は無いとして、シーナ様かシャルルのどっちかとは思ってはいたが、流石に1月丸々シルヴィの相手をしているとは思っていなかった。

だがそれで俺が責められるのは癪だ。

なので反論させてもらう。


「いやいや、俺だって好きで国外追放になったわけじゃないんだぜ?」

「そうは言うけど、兄貴は一体なんの罪で国外追放になったわけ?」

「ええーーと、確か、不敬罪だっけ?」

「何したのよ?」

「特段なにも?ギルドの依頼を受けて帰ってきたら、なぜかウィリアムがギルドにいて、ドデカい声でクリスタルスライムの捕獲を依頼してんだよ」

「うわ、もうなんか聞かなくてなんとなく分かるわ……」

「でよ、依頼料がたったの銀貨5枚のランク10位以内の冒険者に強制依頼とかアホみたいなことを言ってたから俺が注意したってわけ」

「それで不敬罪って訳ね。頭可笑しいんじゃいのかしら?」


シャルルが言った頭おかしいとはもちろんウィリアムに向けてのものだ。


「それはもうしょうがないだろう。あのシルヴィに諦めず自分のことを好きだとか平気で言うやつだ。今更って話」

「それもそうね。それで不敬罪でちょうどその魔術の剣聖様がご執心の兄貴を放す口実ができたから国外追放になったって訳ね」


整理してもなぜあれが不敬罪になったのか俺には理解できない。

貴族であろうと、冒険者ギルドはどの国にも属さない独立組織、例え王子だろうとギルドのルールに従う必要がある。

俺はそれをウィリアムに教えただけなのに……


「そんなことより早くあのお嬢様を止めに行った方がいいんじゃないかしら?ここままじゃ、あのバカ王子も死んじゃうわよ」


俺とシャルルは鬼の形相でウィリアムに迫るシルヴィを見た。

うん、多分あれは俺でも死にそう。

だから俺はシャルルに顔で『行きたくない』と伝えるが、シャルルは『なに馬鹿なこと言ってんのよ?とっと機嫌直してきてよ、お・に・い・さ・ま♪』と可愛い子ぶって伝えて来た。

こいつ、こういう時だけお兄様呼びとか都合良すぎるだろ。

まあ行くけどさ……

俺は深く溜め息を吐いてシルヴィの方に向かって行った。

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