第4話 アドバイス
「次はアイナだな」
俺はアイナを呼んでアドバイスを始める。
「まずアイナの戦闘力に関してはあんまり言うことはない」
「よし!」
アイナはガッツポーズをとる。
「ただ分断した後にケイレブに加勢に行ったのはいただけないな」
「ん?どうしてですか?」
「お前がケイレブの方に行ったら近距離職二人でバランスが悪いだろ?」
「でもこっちのほうが戦いやすいし」
アイナが言うこともわからなくない。
だがそれはもっと上のランクの奴らなら大丈夫な話になってくる。
「だがそれだとジンとオリビアが危なくなる」
「え…」
それを聞いた瞬間アイナの顔色が悪くなる。
だが俺は気にせず話す。
「ジンは小回りが利きにくい槍使いだ。それもお前みたいに無手じゃないし、ケイレブの剣より重い。一度敵と離れたら真っ先に狙われるのはオリビアだ」
「あ…」
「もしジンじゃなくお前やケイレブならすぐに押さえつけられるだろうが、今のジンの技量となると難しい」
例え鍛えていようが、まだ子供の体、筋力不足と槍の長さと身長のバランスで万が一の可能性が高い。
「じゃあもしかしたら私のせいで二人が大怪我してたかもしれないって…」
「その可能性もなくはないな」
冒険者の命は軽い。たとえ一つの小さなミスも自身や仲間の命を危険にさらす。
だからこそ冒険者はパーティのバランスを考えて連携を組む。
今回の戦闘の場合において、オリビアの様子を見る限り、アイナが行かない方に行くだろうから、チームの組み合わせの決定権はアイナが持っていたと言える。
「それと装備は篭手じゃなくガントレットに変えたほうがいい。多少重くなるが手の傷が付きにくくなる」
「あ…」
アイナは手を後ろに隠す。
自覚はあったみたいだな。
篭手は軽い分、体力消費と動きの速さを効率よく扱える。だがその分、手と腕へのダメージがでかい。
逆にガントレットは重い分、手と腕の負担は軽減してくれる。
「アイナ、お前は俺が見た中でこのパーティで一番俊敏で気が利く。お前の心と体の速さでみんなを守れるようになれ」
「はい!」
アイナの俊敏さなら戦いを有利に進められることは間違いない、あとはその俊敏さをどう活かすかだな。
次はオリビアだが…一人で草いじりをしてるな……
俺は呼び出さず彼女のところに行く。
「なにかあったかオリビア」
「の、ノアさん!」
オリビアは驚いて俺と距離を取る。
なんか傷つくな。
「すまん。驚かせたか?」
「い、いえ、すみません。私臆病なんで…そのーアイナちゃんとお勉強は終わったんですか?」
「ああ、終わったよ。今度は君の番だ」
「は、はい」
彼女は臆病だけど頑張って寄り添ってくれようと努力してるみたいだな。
少し心が痛むがここは心を鬼にして。
「まずオリビアはもう少し自信をもったほうがいい」
「自信…ですか?」
「ああ、オリビア、君は常に他の三人に判断を任せて動いてる。まる他人事のように」
「そ、そんなことは…」
「ほんとか?さっきの戦闘でもジンのサポートを的確にこなしていた。ジンの方にウルフが向くように移動しながら魔法を撃っていたしな」
「そ、それは……」
「そこまで気が利ける君が分断のバランスの悪さに気づかないはずがない」
「うっ……」
オリビアは分が悪くなりそっぽを向く。
やっぱりあたりか。
「怖いんだろ。自分の判断で仲間が傷つくのが。死んでしまうのが」
「だ、だってもし私が間違ったことを言ってみんなが死んじゃったらまた…」
この感じ…なにか過去にあったんだろうな。
それがトラウマとなって彼女の自信を縛っているのか。
「だが逆もある。お前が言わなかったことで仲間が死ぬことだってある」
「……!」
その言葉にオリビアは身を震わせる。
「いいかオリビア、冒険者は一つの判断のミスで簡単に死ぬ。他の三人の判断が絶対に正しいと言う保証はない。そんな中で冷静に物事を分析できるお前が何も言わなかったらどうなる?」
「みんなが……死んじゃう…?」
オリビアがゆっくりとこちらに顔を向けてきた。
俺は無言で頷く。
それにオリビアは絶望した表情を浮かべる。
「私…どうしたら…」
「覚悟を決めるしかない。責任と言う重りを背負う覚悟を」
「責任・・・」
俺は屈みオリビアと視線を合わせて話す。
「少しずつでいい。まずは我儘も言うことからだな」
「我儘・・・ですか?」
「そう、我儘だ。まずは日常的なことでいい。アイナとかと出かけた時にこれが欲しいとか小さな我儘だな。少しずつ自分の意見を言うことが大切なんだ」
「が、頑張ります・・・」
オリビアには今はこれで十分だ。
彼女みたいなタイプは持ち手が多いと逆に弱くなる。
さて、最後はケイレブだが・・・あのタイプは無駄に手加減しないほうがいい。
「さて、ケイレブ、お前が最後だ」
「へ、俺はまだお前を認めてねぇ。だから教えてもらうこともねぇ!」
まったくコイツは・・・実力主義の冒険者社会とはいえ、それにこだわり過ぎては逆に腫れ物になるってのに。
「そうだなーー」
俺は辺りを見渡すと一匹先程の二匹とは明らかに別格な狼がいた。
「じゃあ、あれを倒せばいいか?」
「はぁ?ってアレはグレートウルフじゃねぇか!稀に他の階層に現れるって言う5層のボスの部下じゃん!」
そういえばそんなのもいたな。
「でも、お前じゃアイツは倒せねぇよ!」
「どうしてだよ?」
「いいか、レアモンスターは通常のモンスターより強いんだ!お前みたいななりたてじゃ、死ぬだけだ!まぁ、俺たちなら楽勝だけどな」
「自信満々に言うが一人じゃ出来ない癖に言うじゃないか」
「な、なんだと!!なら、観てろよ!俺一人で倒してやる!」
「って、おい待て!」
ケイレブはそのままグレートウルフに突撃しに行った。
しまった!少し煽り過ぎたかっ!
その時、俺の横を赤い髪が横切って行った。
***
「舐めるなよ!こんな奴俺一人で!」
ケイレブは跳び、剣をグレートウルフに振り下ろす。
「なっ!?」
しかしグレートウルフは軽く剣を鉤爪で弾く。
ケイレブは剣を離してしまい、剣を弾かれた勢いで尻餅をつく。
「ひっ!」
グレートウルフはゆっくりと唸り声を上げながらケイレブに近づいてくる。
ケイレブはグレートウルフの鋭い眼光に恐怖し、固まり動けなかった。
グレートウルフは少しずつスピードを上げ、ケイレブに襲いかかる。
「はっ・・・!」
ケイレブは動けず、ただ向かってくるグレートウルフを見つめることしか出来なかった。
しかしグレートウルフが鉤爪を上げケイレブに襲いかかる瞬間アイナが颯爽と間に入りケイレブの代わりに攻撃を受け、吹き飛ばされ倒れる。
「きゃぁ!!」
「アイナ!」
ケイレブは急いでアイナの方に駆け寄る。
アイナが鉤爪で吹き飛ばされた瞬間、ジンが目を狙って突くがかわされる。
その時、オリビアが水魔法でサポートするがグレートウルフは尻尾で掻き消す。
「うお!?」
「きゃ!?」
グレートウルフはジンの槍の先を咥え槍ごとジンを放り投げた。
放り投げられたジンは後方にいたオリビアとぶつかり二人は倒れる。
「ガルルル〜〜」
「アイナ!アイナ!」
そしてグレートウルフの狙いはもちろん一番弱っているアイナだ。
グレートウルフは容赦なくアイナとケイレブに向かって走る。
「アイナ!アイナ!」
アイナは先程の攻撃で腕に大きな傷を負って動けなくなっている。
ケイレブはどうにかしようとアイナに声をかけるがそれに意味はない。
そしてグレートウルフにそんなことは関係ない。
「アイナ!」
グレートウルフが飛びかかる寸前、ケイレブは力を振り絞ってアイナを投げる。
(ごめんアイナ、俺のせいで!)
ケイレブは覚悟を決める。
「おいおい、こんな所で覚悟決めるのは、少し早すぎるぜ。ケイレブ」
そこに颯爽とノアがグレートウルフの攻撃を剣で受け止め弾き飛ばす。
「お前の悪い点は一人で突っ走っることだ。それでお前一人が死ぬなら構わないが、そのせいで仲間までも死なせるのはダメだな」
ノアは剣を右の腰の鞘にしまい、今度は左の腰にある刀の柄に右手を添える。
「さて、ここで一つ授業といこう」
弾き飛ばされたグレートウルフが今まで見せなかった牙を見せ走ってくる。
だがそんなことを気にせずノアは授業を続ける。
「ダンジョンに潜る基本として、なるべく体力は使わないのは基本中の基本だ。ではどうすれば戦闘で体力をなるべく使わずに済む?」
「えっ?いや、今はそんな場合じゃあ!」
「残念時間切れだ。正解は」
グレートウルフが口を大きく開け飛びかかっくる。
「自分から斬りに来てもらえばいい」
ノアは流れる様に震えのない線を描くように刀を抜く。
グレートウルフとノア、二人がお互いを通り過ぎるとグレートウルフは魔石を落として消えた。
「こんな風にな」
ノアは笑みを浮かべ振り向きケイレブに言った。
ケイレブは何も口に出来なかった。
その圧倒的な強さに。
ケイレブの目に映る彼の姿は、まさに御伽噺の英雄そのものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます