第6話 訓練①

「おはよう」

「おはようございますノアさん!」

「おはようございますノアさん」

「おはようございますノアさん」

「おはようございます」

「お、おはようございます、の、ノア先生」


朝起きて小屋に行くと既に全員椅子に座っていた。


「アイナはもう平気なのか?」

「少し頭が重くなったり軽くなったりしますが平気です」

「血が足りないんだな。沢山食べて血を取り戻さなくちゃな」


アイナへの説教は個別の時でいいか。


「それじゃあ、改めて、昨日からここの新しい教師になったノアだ。これから当分の間よろしくな」

『よろしくお願いします』


昨日と違って全員が真剣な眼差しで俺を見てくる。

特にケイレブに至っては最初の生意気さはどこに行ったのかと言うぐらい真剣な眼差しを俺に向けてくる。


「さて、今日は昨日の教訓も加えてダンジョンには行かず個別の技能を鍛える。今日はケイレブとジンだ」

「はい!」

「分かりました」


ケイレブは力強く、ジンははっきりとした声で返事をする。


「アイナとオリビアはクレアさんと一緒アイナのガントレットを探して来てくれ。そのついでに何か食べてくればいい」

「で、ですがこの教会にそんなお金は・・・」


ああ、そうだったな。

俺は袋から金貨を1枚取り出しクレアに渡す。


「これでガントレットと飲み食いには十分だろ」

「こ、こんなに頂けませんよ!」


クレアはまさかの金貨に手を震わせて俺に返そうと押し付けてくる。

アイナとオリビアは初めての金貨をまじまじと見る。


「俺もここの教師なんですからお金ぐらい出しますよ」


俺ははっきりとそう言った。


「でも・・・・・・いえ、ありがとうございます」


クレアも俺の気持ちをくんでか、そう言って二人を連れて出掛けに行った。


「いいなーー」

「なんだケイレブ、お前もあっちに混ざりたかったのか?」

「いや、そう言う訳じゃなくて。好きなもん食えていいなーって」


そうか、こいつらまともな飯を毎日食えてないのか。

確か今日の朝食もお世辞にも良いものとは言えない。

特に食い盛りなこいつらからしてみれば食い足りないか。


「安心しろ。明日はお前達があっち側だからな」

「ほんとか!」

「ああ、ただ今日の授業をこなせたらな」

「やってやるよ!」


ケイレブの奴、飯でやる気出すとか歳相応なとこ見せるじゃねえか。

・・・それよりジンの奴、ずっと黙りっぱなしでどうしたんだ?


「ジンは食いたくないのか?」

「俺はどちらかと言うと師匠の訓練の方が楽しみです」

「し、師匠って・・・」

「いいな、師匠って!俺もノアさんのこと師匠って呼ぶわ!」


師匠って・・・なんかむず痒いな。

俺は二人に武器を持たせて小屋を出て教会の裏庭で訓練を始める。


「さて、まず二人には俺と模擬戦をしてもらう」

「模擬戦ですか?」

「そうだ。もちろん俺は武器を使わない」

「師匠、流石にそれは舐めすぎじゃねえか?」

「なら、それが本当が確かめにこいよ!」

「行くぞ!ジン!」

「おう!」


力の差って奴を見せつけてやるか。



***


20分後


「はぁはぁはぁ」

「クッ!?」

「ジンも脱落か」


模擬戦を始めてケイレブは10分経った頃には息が乱れ始めたので少しリズムを変えただけですぐにばてた。

ジンは思っていた以上に体力があったな。

ケイレブと違って無駄な動きが少なかったからな。だがこっちから攻め込んだらあっさりと倒れた。


「よし。二人の力量は把握できた。10分後に授業を再開するぞ」

「「は、はい・・・」」


二人とも寝そべって息を整える。


「というか師匠はなんで疲れねぇんだよ」

「息一つ乱れず踊らされた」

「そう言うけど俺の倍近く戦ってたじゃねえかよ」

「お前は無駄な動きが多いんだよ。もっと師匠の動きを見て動けよ」

「逆にお前は考えて動き過ぎなんじゃね?だから師匠が攻めに変わった瞬間にやられたんだろ?」


二人の言い合いが聞こえたが中々核心ついたことを言うようになったな。


「ケイレブもジンも言ってることは正しいぞ」

「あ、師匠」


ケイレブが起き上がろうとするが俺は手で別にいいと合図を送る。

それをなんとな理解したケイレブはまた寝そべった。


「ジンの言う通りケイレブは考えなしに突っ込み過ぎだ。振りも大雑把だし、俺がわかりやすい隙を作るとすぐに引っ掛かるから楽だったぞ?」

「え!?あれ師匠がわざとやってたんですか!?」


ケイレブは勢いよく起き上がり驚く。


「当たり前だろ?モンスターでも知能の高い奴もいる。どれがフェイクで主攻なのか、よく敵を観察してなるべく無駄な動きをしないことを意識して行動するように」

「はい!」

「次にジンだが。お前は相手に合わせることに集中し過ぎだ。要は受け身に徹し過ぎだ。敵には守りを特にしてものいる。時には積極的に攻めて自分のリズムに相手を乗せることを意識しろ」

「はい」

「それじゃあ次は今言われたことを意識して二人で模擬戦だ」

「「はい!」」


***

更に1時間後


「ここ……!いや…」


ケイレブがジンが一瞬止まった瞬間、攻撃移ろうと距離を詰めたが、剣を振る直前で後ろに下がった。


「チッ!…ならば!」


そしてジンは舌打ちをする。

恐らく、わざと動きを止めてケイレブを誘い出そうとしたんだろう。

だが次の瞬間ジンは槍を振る。


「うお!?…やるじゃねか!」


そしてそれを何とかかわすケイレブ。

さっきの一瞬の後退が功をそうしたな。

二人ともやる気があっていいことだ。

ケイレブもさっきより攻撃回数が減ってジンとの距離を取ってジンの動きを観察している。

かえってジンは積極的に攻めに転じたな。

何度か突きでケイレブを誘導して追い込んでる場面があった。

それから半日近く模擬戦をやってはアドバイスを繰り返した。


「ただいま!」

「た、ただいま」

「ただいま戻りました」


夕方になる頃、クレアたちが帰ってきた。


「おかえり」

「うわ!あんたたち汗だくじゃない!」

「ほんとね。いまお湯を準備します」


ケイレブ達はずっと模擬戦で汗だくで寝転んでいる。

たしかにこれで屋内に入れるのはいけないな。


「ほら、お前ら立て」

「「は、はい……」」


二人は息も絶え絶えで起き上がる。

二人の足はゼリーのようにプルプル震えてる。

あんまこっちに来んな、お前らめっちゃ臭い。


「お湯、準備できました」

「わかった。ケイレブ、ジン、お湯かぶって汗流してこい」


二人は返事をする体力もなくお湯を受け取りに行った。

明日は休みなんだから疲れて一日寝るとかないといいが……

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