第15話 ラッキースケベはいかがですか?

 皆は嫌なことがあったとき、どう対処しているだろうか?


 俺はそういうとき、音楽を大音量で聴くことにしている。


 ロック、アニソン、ボカロ、その他もろもろ……。


 とにかくアップテンポの曲を大音量で聞いて、何も考えないようにする。


 俺は校門の前で立ち止まり、イヤホンを取るためにカバンの中をまさぐった。


 それにしてもあの写真、いったい誰が撮影したというのだろうか……。


 狙ってやらないと、伊香賀ちゃんと判断できないような絶妙な写真なんて撮れないと思うのだが……。


 しかも、あの写真には不可思議な点が一つあった。


 写真の中では、伊香賀ちゃんが包丁を持っていなかったのだ。


 一体、どういうカラクリなんだ……。


「まあいいや、明日から考えよう。今日は疲れた」


 俺は音漏れしているワイヤレスイヤホンを耳につけ、帰路についた。


 音楽を聴くことに加えてもうひとつ、俺には嫌なことがあった日のルーティーンがある。


 それは、家に帰ったら速攻でシャワーを浴びることだ。


 頭に打ち付ける温水が、まるで嫌な記憶ごと洗い流してくれる感覚になるからだ。


 あの時間は何もかも忘れられて気持ちがいい。


 俺は気付けば速足になっていた。


 家につき、玄関で靴を脱いだ瞬間にはもう走っていた。


 よし、昨日のことの分まで、何もかも洗い流すぞッ……!


 そう勢いづき、アップテンポの曲にのりながらシャワー室の扉を開けると――。


「ん?」

「なんですか……?」

「あ……………」


 おろされた長い髪。


 発展途上のお胸。


 シャンプーまみれの二人の小さな女の子……。


「お……、おおッ――」

「はあ……」

「いやあ、その違うんだッ、うがいちゃん、伊香賀ちゃん!音楽聞いていたからその、気付かなくて……。ほら、あとまだほっぺたのところしか見てないから!俺、ほっぺたフェチだから!局部見えてないからセーフ!」


 野球の審判のように、俺は大仰にセーフのジェスチャーをする。


 その反動でワイヤレスイヤホンが耳から零れ落ちた。


 いやその……、実のところ局部見えちゃいました、はい……。


「満さん、アウトです」

「お、おおおッ!お兄ちゃんのバカあああああああ!!!」

「ぐはッ――!!!」


 二人の手から同時に飛んできた風呂桶が顔にクリーンヒットし、俺はその場に倒れこんだ。


「で、デッドボールだろ――」

「お兄ちゃんなんて最も最低な人間なんだッ!もう絶対に許さないんだからッ!」


 うがいちゃんは怒号を上げ、バタンとシャワー室の扉を閉めた。


 やっぱり今日は厄日だ……。


 俺は天井を見上げながら、一筋の涙を流すのだった。


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