第12話 衝撃の事実はいかがですか?
「みなさん今年度もよろしくお願いします。ではこれで始業式を終わります」
長ったらしい校長先生の話が終わり、始業式が終わった。
俺はというもの、列の一番前にいた伊香賀ちゃんのことが気になって仕方なく、始業式での先生の話が全く耳に入ってこなかった。
背が低いから最前列にいたも関わらず、長い髪が逆立っているからどこにいるかよくわかる。
そりゃもうみんなから注目を浴びる存在になっていた。
というか、なんで伊香賀ちゃんがここにいるのか?
転校生……?
何かのドッキリなのか?
確かに包丁を向けられたときからおかしいとは思っていたが……。
教室に戻るクラスメイト達の間を縫って、俺は伊香賀ちゃんのところに駆けつけた。
「おいッ――!!!」
「ど、どうしたんですか……」
俺は伊香賀ちゃんの肩をガシッと捕まえると、伊香賀ちゃんは不機嫌そうに振り向いた。
「どうしたもこうしたもないだろッ!なんで伊香賀ちゃんがここにいるんだよ!」
「先生がさっき言ってたじゃないですか。私、転校生ですよ?」
「転校生って……。ここは高校だぞ!小学校じゃないんだぞ!」
「私、あなたと同い年ですけど……」
「……………、いやあ!またまたご冗談を!」
「いや、本当ですけど」
「……………」
俺は驚きのあまり、返事を返すことができなかった。
伊香賀ちゃんが高校生……?
なんなら俺と同い年……?
伊香賀ちゃんを何度見ても小学生にしか見えない。
逆立った髪を合わせてやっと高二女子の平均身長くらいだというのに……。
ただ、これ以上伊香賀ちゃんを疑ったところで話は進まない。
実際に先生が伊香賀ちゃんを転校生と紹介したわけだし。
とりあえず、事実として飲み込むとしよう。
「そんなことより、私の包丁どこにあるか知りません?あれ結構大事なものなんですけど……」
「おいッ!そういう話はここでするなッ……!」
「ん?なんでですか?」
「いや、なんとなくまずいってことぐらいわかるだろ……。とにかく、昨日のことは学校の人には一切しゃべるなよ!包丁の場所はあとで教えるから!ほら、教室いくぞ」
「わ、わかりました……」
ヒソヒソ声で話す俺に、伊香賀ちゃんは疑問しかない様子だった。
どうにかして伊香賀ちゃんを黙らせないと、俺の学生生活が幕を閉じることになる。
俺はため息をつきながら、教室の扉を開けると。
「よお、お二人さん。転校生がまさか満の知り合いだったとはな」
時人が俺たちに向かって手を振り話しかけてきた。
一瞬、額に冷や汗が流れるのを感じた。
「ああ、そうなんだよ。昨日たまたま会って友達になったんだよ……。まさか転校生だったとは知らなくて本当にびっくりしたよ!」
「いえ、ちがいます。満さんは昨日私を買っ――。むぐッ――」
俺は伊香賀ちゃんがやばいことを言おうとしていることを瞬時に察し、伊香賀ちゃんの口を塞いだ。
うがいちゃんにカミングアウトしたときもこんな感じだったし、なんとなく予想はついたが……。
さっき俺、伊香賀ちゃんに忠告したばかりだよな……。
「『かっ』?『かっ』ってなんだ?」
時人は眉間にしわを寄せ、俺に尋ねてきた。
「いッ、いやそのお……。ほら!飼っているうさぎの話で意気投合したんだよ!あははははッ!なあ、伊香賀ちゃん!?」
「むぐッ――!」
俺は手で強引に伊香賀ちゃんの首を縦に振らせた。
「ほえー、そうなのか。なんか二人すっごい仲良さそうだもんな!羨ましいぜ!」
時人は俺たちにウインクし、グーサインを見せた。
こいつがバカで本当に助かった……。
「おーい、お前らー。席に戻れー」
そうこうしていると、一組の教室に夏夜先生が入ってきた。
クラスメイト達は雑談を止め、ぞろぞろと自分の席に戻っていく。
「今日はとりあえずこれで終わりだが、明日からは授業が始まるからな。気を引き締めるように。以上!」
クラスメイトがまばらにはーい、と応えた。
夏夜先生はそれと、と言って話を付け加える。
「きとッ……。鬼灯はこの後私のところに来てくれ。わかったな?」
「はッ、はい……!」
「おいおい、満ぅ。何かやらかしたのかよッ!」
時人に後ろから肘でグイグイと押された。
やらかした覚えはないが……。
何かイヤな予感がする……。
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