第13話 ヘンタイな教師はいかがですか?
「おい、きとうまん。ちょっとこっちに来い。話がある」
一組の教室。
他のクラスメイトが去って行ったことを確認した夏夜先生は俺を呼んだ。
つまり、教室には夏夜先生と俺、二人きりである。
俺はポケットに手を突っ込み、不機嫌な顔をして教卓のところまで行った。
「いい加減、俺のこと『きとうまん』って呼ぶのやめてください……」
「なに、お前の名前をただ音読みしているだけじゃないか」
「それが問題だって言ってるんだよッ!変な意味で捉えられるだろうがッ!」
俺の名前、「鬼灯満(ほおずき みちる)」をすべて音読みして「きとうまん」というあだ名をつけたのだろうが……。
さっきこの先生、クラスメイトの前でも『きとうまん』って言いかけてたよな……。
十八禁マスコットキャラみたいな、最悪のあだ名が広がるのだけは本当に勘弁してほしい。
「変な意味っていうのはよくわからないが……。お前の苗字は『ほおずき』だったか?漢字からは想定できんから普通に言いづらいんだ」
「あなた国語教師ですよねッ!?」
「失礼な。私はすべての常用漢字を音読みすることができるぞ」
「知らねーよ、あんたの特技なんてッ!」
そんなに記憶力に長けているのでしたら是非とも訓読みや特殊な読み方のほうも覚えていただきたい。
「はあ……。これだから先生は結婚できないんですよ……」
「なんだと……」
俺がボソッと呟いた一言に、夏夜先生は表情を曇らせた。
「だってそうでしょう?相手の嫌がる呼び方をしつこくしてきて……。しかも、『きとうまん』だなんて……。乙女としてどうなんですかッ!」
教卓をバンバンと叩きながら満は言い放った。
「だから前にも言っただろう?そういうことだったらお前が私と結婚しろと」
「なんでそうなるんだよ……」
確かに、同じような会話を去年もしたような気がする。
それから俺は夏夜先生のことが怖くて仕方がない。
二人きりになるたびに、「きとうまん、私と結婚してくれ」と言ってくるもんだから、そろそろノイローゼになりそうだ。
「私をもらってくれるのはお前しかいない。それに、乙女の心を傷つけたんだ。責任をとれ」
「えぇ……」
夏夜先生は二十九歳とは思えない肌つやと、スーツからこぼれ出る抜群のスタイルで男子生徒、ひいては男性教師もその美貌にメロメロになっている。
にもかかわらず、未だに結婚できていないということはつまり性格に難があるに違いない。
まあ、なんとなくわかるけど……。
あだ名で「きとうまん」と呼ばれる新婚生活を想像しただけで鳥肌が立つ。
「大丈夫だ。私と婚約した暁には、『きとうまん』ではなく名前のほうで呼ぶことを約束しよう。どうだ、お得だろう?」
「別にお得じゃねえよッ!プラマイゼロだよッ!」
「なぜだ……。超絶美少女であるこの私が求婚しているのだぞ……。プラスでしかないだろ」
「そもそも、俺まだ結婚できる年齢じゃねーよ!」
三十路女が自分のこと超絶美少女とか言うなよ、と付け加えようとしたがさすがに怒られそうなのでやめておこう。
「大丈夫だ……。あと二年くらい待ってやる」
「そういう問題じゃないんだが……。はあ、もういいですよ。じゃあほっぺたを揉ませてください。話はそれからです」
「なら、婚姻届けにハンコを押せ。話はそれからだ。乙女の体に触れるんだ、覚悟を持て」
「チッ……!」
生徒に求婚する割に、貞操観念だけは一丁前だ。
「そんなことより、きとうまん」
「はあ……」
手をパンと叩き、話題を変える夏夜先生。
先生の何も変わらない俺への対応にため息がこぼれる。
「今日お前を呼んだのはこのことについてだ……」
そう言って夏夜先生は俺に何枚かの写真を手渡した。
そこに写っていたのは――。
「なんじゃこりゃ……」
「そこに写っているの、きとうまんだよな……?」
昨夜の校門前での出来事。
俺と伊香賀ちゃんとのいざこざがバッチリと写された写真だった。
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