第11話 まさかの転校生はいかがですか?②

「おーい、お前ら席につけー」


 ガヤガヤとうるさい一組の教室に担任の先生が入ってくる。


「おいッ、今年も一組は夏夜(かや)ちゃんだぜ!やっぱり最高のクラスなんだってッ!」

「わかったって……」


 後ろにいる時人が俺の肩をバンバンと叩きながら言ったので、俺はイラつきながらその手をどかした。


 教室では歓声が起こっていた。


 天沢夏夜(あまさわ かや)先生。


 茶髪のポニーテールに、スーツからでもわかるナイスバディ。


 普段は生徒に厳しい口調でありつり目で笑顔も少ないが、美人なこともあってか絶大な人気を持っている。


 昨年度の一組のときは、裏で夏夜ちゃんと呼ばれてみんなから慕われていた。


 俺にとっては怖い先生という認識だけど……。


「ほーら、うるさいぞ!はやく席につけ!」


 夏夜先生は出席簿で教卓をバンッ、と叩いた。


 その反動で夏夜先生の大きな胸が揺れ、男子生徒の頬が赤くなる。


 生徒全員が静かになったことを確認すると、夏夜先生は再び口を開いた。


「あと十分くらいで始業式が始まるので、これから全員で体育館に行ってもらう。ただ、その前に新しく来た転校生を紹介しようと思う。……入っていいぞ」


 再び、歓声があがる。


「転校生も本当だったじゃねーかッ!なあ俺言ってよなあ!」

「うるせえ!わかったから肩叩くなッ!」

「いてッ――!」


 時人が両手で俺の肩を叩いてきたので、今度は時人の頭にチョップを入れた。


 そんなことをしている間に、教室の扉がガラガラガラッと勢いよく開く音が聞こえてくる。


 俺は急いで教卓のほうに向きなおった。


 入ってきた転校生は時人の言う通り、女の子。


 高校二年生にしては背が低く、幼い風貌。


 目が真ん丸で、顔もふっくらとしている。


 真っ黒な髪は長く、なぜかスーパーサ●ヤ人のように逆立っており――。


 ……って、あれ?


「私立華教女子学院から転校してまいりました。伊香賀凪咲と申します。何卒宜しくお願い致します」

「よーし、お前らー。一年間仲良くするんだぞー。じゃあ空いてるそこの一番前の席に座ってくれ」

「はい……」


 なんの冗談だろうか……。


 俺は驚きのあまり、声も発さず硬直していた。


 教室全体も歓声はどこへやら、伊香賀ちゃんが入った途端静まり返ってしまった。


 伊香賀ちゃんが席に着くと、いたるところからヒソヒソ声が聞こえてきた。


 内容は「何、あの髪?」だの、「ほんとに同い年?小学生じゃなくて?」だの、「華教女子って、あのお嬢様学校の?」だの様々だ。


 当然、ファンキーな髪型の幼女があなたたちの転校生です、なんて言われたら驚くに決まっている。


 ただその中でも一番驚いていたのが俺だった。


 なんなら、白目をむいていた。


「よし、みんな揃ってるな。じゃあいますぐ体育館に行くぞー」


 クラスメイトは夏夜先生の言う通りに立ちあがり、扉のほうに向かっていった。


「どうやら転校生はあたりじゃなかったみたいだな……。まあ元気出せよ」


 時人は未だに座って固まったままの俺の肩に手をのせ、俺を慰めるようにポンポンと叩くのだった。

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