第10話 まさかの転校生はいかがですか?①

 学校に着くやいなや、俺はウサギ小屋に寄り一通り面倒を見てから教室に向かった。


「おッ、また一組か……」


 俺の学校は成績順で組が決まるという制度はなく、ランダムだ。


 なので、クラス替えのときは友達とクラスが離れるケースが割と多い。


 はじめてのクラス替えだが、なかなか緊張する瞬間だ。


 俺は恐る恐る一組の教室の扉を開くと——。


「よお、満ぅ!今年度も同じクラスだな!」

「ああ、時人(ときと)か!お前もまた一組なんだな」

「そうだぜ!よかったわあ、話せる人がクラスにいて!」


 俺に話しかけてきたのは、高崎時人(たかさき ときと)。


 昨年度、俺が一番話していた友達である。


 ツーブロックの赤みがかった髪に、笑ったときのえくぼが特徴的な男だ。


 この学校、「社会人らしく」という割に、頭髪に関してはゆるいんだよな……。


「相変わらず満は朝早いな。またうさぎの世話か?」

「もう日課になってるからな。お前も今日ははやいな」

「そりゃそうっしょ!だって待ちに待ったクラス替えだぜ!興奮して早く来ちゃうに決まってるだろ!ちなみに今日俺一睡もしてない!」

「だから目の下にクマができているのか……」

「えッ!まじで……!?」


 時人は驚いた様子で目の下をこすった。


 そんなことしても意味がないのに、相変わらず行動がバカである。


「ところで、今年度の一組はお前の期待通りだったのか?」

「期待通りどころか、期待を軽く通り越したぜッ!」

「そうなのか?」

「ほら満、後ろ見てみろよッ!」


 時人が小声で俺にそう言ってきた。


 言われた通り後ろを振り返ってみると、教室の一番後ろの左端の席にうきうきした様子でスマホを触っている少女が座っていた。


「輪島月夏(わじま るな)。うちの学校の一番の人気者にして、絶世の美女!現役JKモデルとしても活躍していて今は結構忙しいらしい!それに、なんといっても巨乳!五月にはグラビアデビューも決まっているんだぜ!そんな彼女と同じクラスになれるなんて……。幸運以外の何物でもないだろッ!」

「ああ、そうか」

「なんだその淡白な反応はッ!満は嬉しくないのかよッ」

「そう言われてもな……」


 確かに、輪島月夏は誰もが思わず振り返ってしまうような美人である。


 今も金髪ロングが朝日に照らされて、そこだけキラキラ輝いているように見える。


 この学校にいるほとんどの男子が彼女に好意を寄せていると言っても過言ではないだろう。


 しかし、俺は……。


「別に好みのタイプってわけでもないからな」

「なんだよそれ、強がるなって!」

「いやだって輪島、ほっぺたのところがなんかシュッとしてるだろ?触ってもあまり気持ちよさそうじゃないんだよな」

「なんだよ、またほっぺたフェチかよ……。さすがにきもいぞ」

「うるせーよ!こっちからしたらおっぱいフェチのほうがきもいからな!」

「おっぱいフェチなんて男にとっては当たり前だろーが!当たり前すぎてそもそもそんな言葉ないぜ?この世に生を受けてから、男の脳はおっぱいで埋め尽くされる仕組みになってるんだよ!」

「そんなことはないッ!それはほっぺたの良さにまだ気付いていないから言えることだ!いっぺんうがいちゃんのほっぺた触ってみろッ!世界変わるぞ!」

「うがいちゃんって、満の妹だったか?じゃあ一回触らせてもらおうか……」

「お前みたいな男にうがいちゃんの崇高なほっぺたを触らせるわけねーだろ!汚れるわッ!」

「いや、どっちなんだよ……」


 時人は俺の言葉にツッコミ、ため息をついた。


「とにかく、俺にとって今回の一組は別に当たりってわけでもないな。話せるやつがいて良かったとは思うけど」

「その判断はまだはやいぜ、満」


 時人は俺に指を差して言った。


「ん?どうしてだ?」

「どうやらこの一組には転校生が来るらしい。しかも女の子だ」

「この学校に転校生とか珍しいな……。本当なのか?」

「ああ。新聞部のやつが言ってたから間違いない」

「それはほんとに間違いないのかよ……」


 新聞部という肩書きはそんなに強いものなのか。


 でもまあ、少しは期待することにしよう。


「これで転校生の女の子も可愛くて、担任もあたりだったらまじ完璧だぜ?最高の一年は間違いないッ!」

「さあな。まあ悪くはなさそうだけど……」

「まだそんな感じなのかよッ!まあ満はほっぺたについてノートに書いているだけで幸せだもんな!」

「そりゃそうに決まってんだろ」

「はあ、やっぱり変態だ……。おッ、そろそろ先生が来る時間か……」


 そう言って時人は俺の真後ろの席に座った。


 どうやらそこが時人の席らしい。


「ほんと、どうなるんだろうなこの一年……」


 俺が独り言のように呟きながら後ろを振り返る。


 ふと、輪島の姿が俺の目に映った。


 なぜかこちらを見ながらニヤニヤしていたような気がしたのだが……。


 いや、流石に気のせいか——。

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