第6話 妹の手作り料理はいかがですか?②
あれからぷんすか怒っていたうがいちゃんに対して,事情を説明することに成功してなんとか伊香賀ちゃんを我が家の食卓につかせることができた。
「お兄ちゃんはうがいを怒らせすぎたのッ!今日はほんとに夜ご飯抜きねッ!」
「えーッ!考え直してくれよお!」
「待たせすぎたお兄ちゃんが悪いもんッ!……伊香賀ちゃん、だったよね?お兄ちゃんの分、全部食べていいからね?ちょっと冷めてるけど……」
うがいちゃんが睨んできたので俺は目を逸らした。
伊香賀ちゃんは頭をクラクラさせながらスプーンを手に取った。
目の前にあるオムライスにはケチャップで「お兄ちゃんのバカ!」と大胆に書かれていた。
俺にとっては胸が熱くなるメッセージを伊香賀ちゃんは全く気にせず、オムライスにスプーンを差し込み口へ運んだ。
すると、伊香賀ちゃんはただでさえ大きい目を丸くした。
「これは、なんですか……?」
「オムライスですけど……。もしかして初めて?」
「はい、初めて食べました」
「へえ、珍しい……」
うがいちゃんがほえー、と言って驚いている中、伊香賀ちゃんはすごいスピードで黙々とオムライスを食べ進めた。
「ケホッ!ケホッ!」
「ほらほら。そんな急いで食べなくて大丈夫だから。はい、水飲んで」
「……ありがとうございます」
伊香賀ちゃんとうがいちゃん、二人がオムライスを食べている姿というのはなんと良い光景なんだろう。
俺は頬杖をついて彼女らを微笑ましく見ていた。
「ごちそうさまでした……」
「もう食べちゃったの!?大丈夫かな、これで足りる?」
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございました。あなた方は命の恩人です。感謝してもし切れません」
「いやあ、それほどでもないよお!でもよかったあ。ちゃんと意識が戻って」
「本当にありがとうございます。それもこれも全部あなたが『私を買ってくれたおかげです』ね」
「…………え?」
「あ」
伊香賀ちゃんは俺のほうを向いて、絶対に言ってほしくなかった言葉を平然とした顔で俺に伝えてしまった。
うがいちゃんはまだどういう意味だかわかっていないらしい。
なんとか誤魔化さねば――。
「『私を抱えてくれた』の間違いだよなッ!まだ呂律が回っていないようだぞッ!今日はもうゆっくり休んだほうがいいみたいだな!ハハハハハッ!!!」
「何を言ってるんですか?さっき校門の前で『私を購入する』という契約を交わしたじゃないですか?」
完全に詰んだ。
俺の高笑いもむなしく、ため息に変わってしまう。
もう言い訳できない、完全アウトな発言を伊香賀ちゃんがしてしまった……。
俺は恐る恐る、うがいちゃんのほうに顔を向ける。
「オニイチャン……、ダイハンザイシャ……。ふえええええ……」
うがいちゃんは口の端にケチャップをつけて、白目をむいていた。
驚きのあまりか、完全に魂が抜けている。
「何か私、変なこと言いました?」
「ああ。たった今伊香賀ちゃんの発言のせいで家族崩壊の危機だよ……」
説得する暇もなくカミングアウトするとは全くの計算外だ。
伊香賀ちゃんは真顔のまま、ただただ小首をかしげていた。
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