第22話 ヘンタイストーカー美少女はいかがですか?③

「じゃあお前ら、気を付けて帰るように。日直と掃除当番はサボるなよー」


 終礼が終わり、放課後になった。


「はあー」


 俺は机の上に顔を伏せ、大きなため息をこぼした。


 こんなに時が経つのが遅く感じたのははじめてだ。


 授業中、至る所からヒソヒソ話が聞こえてくるわ、いやに視線を感じるわ……。


 俺自身も輪島月夏のことが気になり、後ろの時人に話しかけるふりしてチラチラと彼女を見てしまった。


 もちろん、授業の内容は一文字も頭に入ってきていない。


 一体彼女はこの俺に何の用事があるというのだろうか……?


 まさか、告白ッ!?


 いや、さすがに違うか……。


「おい、来たぞッ……」


 時人が俺の背中をしつこく叩いた。


 机に顔を突っ伏したまま真横を見ると、満面の笑みの輪島月夏が目の前に立っていた。


「じゃ、いこっか――」

「えッ、ちょ――!!」


 俺は輪島月夏に腕を掴まれ、強引に立たされた。


 彼女の早歩きに、腕を掴まれている俺は転びそうになりながらもついていく。


 教室を出ても、廊下にいた人全員が俺たちを見ていた。


 男子共の怨嗟のこもった眼差しと、女子達の興味ありげな様子に俺は気圧される。


 それでも、輪島月夏は人目も憚らず、ガツガツと歩いていった。


「よーし!到着っと」


 階段を上がらされ、気が付けば俺たちは屋上の扉の前に立っていた。


「おい……。ここは立ち入り禁止だぞ。それにそもそも鍵がかかってて屋上には入れない」

「そう勘違いしてる人結構多いんだよねー。でも実は、ここの南京錠壊れてて誰でも開けられんだよねー」


 そう言って輪島月夏は南京錠を外し、扉の取っ手に巻かれていた鎖を簡単に外して見せた。


「入って。今から話すことは誰にも聞かれたくないの」

「お、おう……」


 ギイイイ、と耳障りな音を立てながら、屋上の両開き戸が開かれた。


 俺は輪島月夏の言葉に素直に応じ、屋上に入った。


 ひんやりとした風が肌を刺激する。


 雲一つない快晴が俺たちを出迎えた。


「よいしょっと!」


 輪島月夏は扉を閉め、壁によりかかった状態で俺を見つめた。


 彼女は下を向き、頬は若干赤らんでいた。


 やっぱり本当に告白なんじゃ……!


「実はね、私――」

「……………」


 俺は生唾を飲み込んだ。


 吐息を漏らした彼女の唇の動きに俺は集中した。


「実は夏夜先生の机に写真を置いたの、月夏なの……」

「そうか、でもなんで俺なんかのこと、って……。ん?」

「その写真を撮ったのも全部月夏なの」

「しゃ、しん……?」


 俺は思考が停止した。


 ただ、言っていることの意味は確かに理解できた。


「もうわかっているんでしょ?写真のこと」


 輪島月夏の無邪気な笑みは、一瞬にして不敵な笑みに変わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伊香賀ちゃんはいかがですか? 天方主 @nushi_amagata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ