第2話 かわいいうさぎはいかがですか?

「ううッ……、今日は寒いな」


 もうとっくに春だというのに、鳥肌が立つくらい冷たい風が吹いていた。


 俺はその風を浴びながら、ひたすら走った。


「いますぐ行くからな、うさちゃんたちッ……!」


 こんな寒い中、お腹を空かせてしまったんだ。


 飼育係として一刻もはやく行かなければならない。


 五分も経たないうちに俺は校舎にたどり着いた。


 校門を抜け、校舎手前にあるうさぎ小屋へと向かった。


「ああああ!!!ごめんよお、俺のかわいいうさちゃんたちぃぃぃ!!!寒かったよね!つらかったよね!今すぐ餌準備するから、もうちょっとだけ待っててな!」


 俺は人気のない校舎の前で泣き叫びながら、餌の準備をした。


 二つの皿にペレットと水をそれぞれ入れる。


「ほら、餌だぞー。いっぱいお食べー!」


 小屋の扉を開け、餌の入った皿を置くや否や三匹のうさぎが一斉にペレットに群がった。


「そうだよな!お腹空いてたよな!ごめんよお!!!でも水も飲むんだぞお!!!」


 そう言って俺はペレットに夢中のうさぎの頬を撫でた。


 ふむ……、うさちゃんたちも相変わらず良いほっぺたを持っていらっしゃる。


「じゃあ俺は始業式で明日朝はやいからもう行くよ。もう絶対餌やり忘れないから」


 俺は三匹のうさぎの頭をそれぞれ撫でてから小屋のカギを閉めた。


「よおし!俺の今日の晩ごはんは何かなあー!」


 俺は鼻歌を歌いながら校門のほうへ向かうと――。


「やっと来た……」

「……ん?」


 校門のほうからか細い声が聞こえてきた。


 そして次の瞬間、入口から小さな影が姿を現した。


「おんな……のこ?」


 目を細めて見てみるが、明らかに初対面の少女がそこに立っていた。


「あれ?どこかで会ったことありましたっけ……?って、おい――!?」


 俺は彼女の右手にあるものを見て、背筋が凍った。


 彼女の手に握られていたのは、――包丁だった。


 刃先が街灯の光に反射してギラリと輝いていた。

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