31色 アカリの試練6
しばらく、静かになった廊下で余韻に浸っていた。
「よし」
ほんの数分、いや、数十秒だったかもしれないけど、ゆっくりしたわたしはそう一言口にする。
「行こうかクー」
「ピュルーン」
頭の上のクーにそういい歩き出した。
下駄箱のクツを取り出し外に出ると、一番はじめにいた場所に戻ってきた。 そして大きく深呼吸をする。
「神獣さんありがとーう!!!」
わたしは大声で叫ぶ、正しくは呼びかけるかな?
「トモダチの大切さを思い出させてくれてありがとう!」
「思い出の大切さを思い出させてくれてありがとう!」
「みんなとの大切な繋がりを思い出させてくれてありがとう!」
「今もいろいろな思い出をつくらせてくれてありがとう!」
心の底からの感謝をわたしは叫ぶ。 感謝の想いを伝え、周りがまた静かになる。
「まさか『ありがとう』とはね」
「!」
背後から声がして振りかえると、そこには茶色いカラダで丸いしっぽの頭に葉っぱをのせている生物がいた。
「タヌキさん?」
「おしい! ぼくは『たぬきち』だよ」
「おしいね」
「さて、いきなり本題にはいるけど、カケラを集め終わったみたいだね」
たぬきちさんはさっそく話に入る。
「もしかして、キミが神獣さん?」
わたしが聞くと頷き、答える。
「うん、そうだよ。 今回のぼくの試練は聞いていると思うけど、《人と人とのかかわり》をみたかったんだよね」
「みんなとさらに仲良くなった気がしてすごい楽しかったよ」
そう答えるとたぬきちさんはうれしそうに笑う。
「それはよかった。でも、正直にいうと、ぼくは人間を信用していないんだよね」
「!」
「まあ、その話をする前にこの場所を《元に戻そうか》」
たぬきちさんは飛び上がり一回転すると、ポンと辺りが煙に包まれる。
しばらくして、煙が消えるとそこは《ナニもない》空間だった。
そして、人間の少年の姿になっていた。
「こっちのほうが話しやすいと思ってね」
たぬきちさんはいたずらっぽく笑う。
「今回キミを試すにあたってぼくが行ったのは、キミの『記憶から大切な人達』を造りだしてみたんだ」
わたしは今回のことを思い出していく。
「レータ、フラウム、シアン、そしてクロロンだね」
「そう、そして、キミがクロロンと呼ぶ少年、クウタだったかな? 彼はぼくと《似ていた》んだよね」
「クロロンと?」
確かに、喋り方や雰囲気が似てる気がする。
「彼って、なんというか、無意識に《人の感情に敏感》だったんだよね。 それってぼくと同じように《人間に抱く警戒心》とも取れるよね?」
「それが、キミのいう人間を信頼していないってこと?」
「そうだね。 だけど《信頼してる》ところもあるんだ」
「え~っと? どういうことかな?」
わたしは頭にハテナを出す。
「彼はというか、ぼく自身もわかっているんだよね。 世の中十人中九人が悪い人で、一人が良い人だったとすると、すべてが嫌な人じゃなくて、信用出来る人がいる。逆もしかりだよね、嫌な人も必ず世の中に存在する。 つまり、《人とのかかわり》が大事だってね」
「かかわり」
その言葉の重要さが鮮明になってくる。
「人とのかかわりが人生をよくも悪くもするんだよね」
「…………」
「そして、ぼくは思ったんだ、キミは純粋でまっすぐな人だってね。 それを生かすも殺すもこれからのキミの人生しだいだね」
人生そんなこと考えもしなかった。
生かすも殺すもわたししだい……なら。
「うん、わかったよ! もし、わたしが間違った道を進んじゃったとしても大丈夫! だって、わたしはみんなを《信頼》しているから! だから、きっとわたしはみんなとの《かかわり》を絶対大切にするよ!」
わたしは心からの気持ちを叫ぶ。 その言葉を聞いたたぬきちさんはクスリと笑う。
「よし! よくいったね。 じゃあ、ぼくの試練はこれで終わりだよ」
たぬきちさんはわたしの後ろを指さす。
「そこに集めたカケラをはめ込むんだ。 そしたら、この場所から抜け出せるよ」
トビラにカケラをはめ込む場所が現れる。
わたしは今回の思い出をひとつひとつ思い出してはめ込んでいく。
レータとの本の話。
フラウムとのバスケ対決。
シアンと今度たくさん話す約束。
クロロンとの深まったキズナ。
ひとつひとつに気持ちを込めていく。 そして、すべてはめ込むとトビラが開いた。
「ねえ、たぬきちさん」
「うん?」
たぬきちさんに声をかける。
「また会おうね!」
ゲンキよくたぬきちさんにいうと笑顔を返してくれた。
「行こうかクー」
「ピュルーン」
そういうと、わたしはトビラをくぐった。
「どうかキミの笑顔が壊されないように」
「?」
後ろでたぬきちさんがなにかをいっていたけど、わたしには届かなかった。
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