10色 シーニの日常

 カーミンのとある研究所内、わたしは仕事がひと段落したので、お湯を沸かし紅茶を淹れながら、室内のテレビ画面に目を移すと、そこには『カーミンが生んだ世界の秒殺女王』というニュースが流れていた。


 そして、淹れた紅茶をお盆に移しながら、テレビのニュースには興味はないという感じに話している二人に話掛ける。


「相変わらず今日はキミのニュースで持ちきりだね」


 淹れた紅茶を机の上の3つのコップに注ぎ、椅子に腕を組んで座っている女性に云う。


「こんなのまだ通過点よ」


 女性はそう云うと、淹れた紅茶を「いただくわ」といい口に運んだ。


「秒殺の女王とは、まるで何処かの殺人鬼みたいな通り名じゃのう」


 女性の向いの席に座る、独特な喋り方で長いピンク色の髪のまるでマジシャンの様な、魔女の様な変わった格好をした女性が少しからかう様にいう。


「まあ、何時かはキミが世界のトップを取ることは分かっていたけど、まさかこんなに早く掴むなんて思わなかったよ」

「確かにのう、修行の旅に出ると云って、まだ二年も経っておらんじゃろう? たった二年、それだけの期間に何があったんじゃ?」


 ピンク魔女っ子の女性が問いかけると、世界チャンプの女性が飲んでいた紅茶を机に置き答える。

 

「そうね……強いて云うなら《愛のチカラで己の限界を超えた》とでも云っておこうかしら」

「愛のチカラのう……」


 ピンク魔女っ子の女性はよく分からないという感じに返す。


「まあ、《ミルク》らしい答えだとわたしは思うよピンコ」


 そう、この二人はわたしの親友の真白未来ましろ みるくとピンコこと桃山桜子ももやま さくらこ


 二人は学生時代からの親友で、ミルクは格闘家で、ピンコは魔女の末裔でこの街で薬屋を経営しているのだ。


「そうじゃのう、そういえば、ずっと気になっておったのじゃが《ミルク》さんの名前ずっとテレビで《ミライ》さんと間違われておるのう」

「あっ! 確かにわたしも気になってた」

「別にいいわよ。 どっちかと云うとミライ呼びのほうが格闘家っぽいじゃない」 

「確かに数秒後の未来では相手は立っていないって云う異名には相応しいかもな」

「!?」


 ふと、後ろから少し低めで中性的な声が聞こえてきて、わたしとピンコは振り返ると、そこには少し細身で腰に日本刀の様なモノと腰かけ用の小さい鞄を掛けている、身長が170前半程のそこそこ顔が整った黒髪の男性が立っていた。


「マコト!」

「あら、マコトさんいくらお主がハンサムだからといって、レディーの会話を盗み聞きとは余り関心しんのう」

「人聞きの悪いことを云うな」


 この世間から観たらハンサムらしいこの男は、黒崎誠くろさき まこと。彼も同じく学生時代からの顔なじみで何というか、わたしとは腐れ縁の様な関係だ。


「それと、マコトさん、いくらシーニさんと恋人同士とはいえ勝手に彼女の家に入って来るのはどうかと思うのじゃ」

「誰が、恋人だ」


 からかう様にいうピンコにわたしとマコトは全力で否定する。


「それに勝手に入った訳じゃない、入口が開いていたから、入っただけだ」

「それを勝手に入ったというのじゃ」

「!!」


 マコトは少し驚いた顔をする。


「『そうだったのか!』みたいな顔をするでないのじゃ」

「アオイ、戸締まり位はちゃんとしなさい」

「あはは、けっこうめんどくさいんだよね……」


 右手で頭を搔きながらいうとピンコはため息を吐きながらいう。


「ずぼらじゃのう……なら、わたしゃがマコトさん撃退トラップを入口に仕掛けて置こうかの」

「何で、ピンポイントで俺なんだ!」


 ピンコの言葉にマコトは食って掛かる。


「まあ、それは置いといてさ今日は何の用なの?」


 わたしは取り敢えず話を切り替え、マコトに聞く。 ……まあ、聞かなくてもなんとなく分かるけどね。


「ん?ああ、今度の任務の為に支給されたこの道具なんだが」


 マコトは腰に掛けている、小さな鞄から折り畳んである布を取り出した。


「なんじゃ、それ?」

「これは、こう使うんだ」


 マコトはそう云うと、布を広げて体を覆った。すると、たちまちマコトの姿が消えた。


「なるほど、透明マントと言った所じゃのう」

「姿を消しても気配のする場所を殴ればいいだけよ」

「そうゆうことね、云いたいことは大体分かったよ」


 わたしは自分の背後に手を伸ばし、なにも無いはずの場所から何かを掴み引っ張りあげ、そこから、人が姿を現すのが見ずとも分かった。


「これだと荷物としては大き過ぎるからもっとコンパクトにしろって所だね」

「まあ、そういった所だ」

「シーニさん、よくマコトさんの隠れている場所が分かったのう」


 ピンコは少し驚いたように云う。


「で、この作業は何時までにやればいいの?」

「6日だ」

「6日ねぇ」


 壁に立て掛けているカレンダーに目を移す。


「まあ、ギリギリといった所だね」

「間に合わなかったら別にいい出来る限りで頼む」

「じゃあ、無理せず気軽にやるとするよ。コーヒーでも飲んでく?」

「ああ、頂く」

「恋人を通り越してまるで、夫婦みたいな会話じゃのう」

「誰が、夫婦……」


 わたし達が否定しようとした瞬間、ミルクが突然手に持っていたマグカップを叩きつける様に机に置き、椅子から勢いよく立ちあがる。


「!! この気配は……まさか、」

「! 突然どうしたのじゃ?」

「間違えない……そうよ、私が《あの人》の気配を間違える訳がないわ!」

「《あの人》って……まさか……」


 ミルクの《あの人》という言葉にわたしの顔は少し引きつる。


「こいつが反応するということは《あいつ》しかいないだろう……はぁ、めんどくせー……」

「ああ……なるほど、確かにこのタイミングだと少し……いや、かなりめんどいのう」


 マコトのため息混じりの言葉にピンコもなんとなく察しがついたらしい。

 

「話は聞かせて貰ったぞ。やはりアオイはワタシの妃ということだな」

「うわぁ……出た……」


 わたしは《アレ》の声が聞こえると嫌悪声が漏れる。


「出た、とはとんだご挨拶だなアオイ。もしかして、照れておるのか?」


 なんか意味の分からないことをいいながら、灰色のスーツに身を包んで、青色のネクタイをピシッと着けている、少しガタイがいい高身長の男が研究所の入口から革の靴の音を立てながらこちらに歩いて来ていた。


「はあ……まったくキミたちは人の研究所兼家にズケズケと」

「シーニさん、やっぱりマコトさん撃退トラップ+α(アルファ)を仕掛けとくのをオススメするのう」

「まあ、考えとくよ」

「おい、何で俺の撃退がメインみたいになってるんだよ!」


 このなんかムカつくキザ男は王真涼彦おうま すずひこ。 まあ、こう見えて若くして大企業の社長に昇りつめた超天才で魔王の末裔らしいんだけど……


「さあ、アオイ、受け取ってくれ、お前の様に美しい青い薔薇だ」


 スズヒコは片膝を地面に付けて屈むと、手に持っていた青い薔薇の束をわたしに渡してきた。


「ホントキミってムカつくぐらいのナルシストだね……まあ、せっかくだしこれはありがたく受け取っておくよ」

「はっはっは相変わらず薔薇の様にトゲのある言い方だな、だがしかし、そんなところが美しいぞ結婚しよう」

「薔薇で叩くよ」

「照れずともよ~い♪」


 この様にいつもわたしに会う度にこのウザいアプローチをしてくるのだ。


「スズヒコ様! 私との結婚なら大歓迎ですわよ!」


 スズヒコが来てから胸の前で手を組んで目をハートにしながらクネクネしていたミルクが反応する。


「アオイにはそこのいけすかない刀男がいますから、ここは是非、私と愛の逃避行を!」

「そうじゃぞ、社長さん、シーニさんには許婚の黒髪イケメンがおるからのう諦めたほうがいいのじゃ」

「誰が刀男だ人を妖怪みたいに言うな」

「そこそこ顔がいいのは認めるけど許婚じゃないから」


 わたしとマコトはそれぞれ二人に突っかかるが、それを遮るかのようにスズヒコはミルクに言葉を返す。


「真白よ、お前が私に好意を持ってくれているのは嬉しいが、私はアオイ一筋なためにすまないがお前の好意に答えることは出来ない」


 スズヒコは申し訳なさそうにミルクに告げるとわたしの方に向き直り……


「さあ、アオイ結婚しよ~う♪」

「うわぁ……最低……」


 さっきの申し訳ない気持ちはどこに行ったのか、元気よく指輪のケースを渡すスズヒコにわたしとピンコはゴミをみるような目を向ける。


「女性を振ってその直後に目の前で別の女性に告白するとは魔女のわたしゃもさすがに引くのじゃ……」


 ピンコはゴミを見る目を向けながらいう。


「いいのよ……」


 そんなピンコにミルクが続ける。


「そんなところもゾクゾクして最高じゃない!!」


 ミルクが息をハアハアさせながら興奮気味にいう。


「お前も大概だな」


 そんな状況を呆れたように観ていたマコトがツッコム。


「何度言わせたら分かるのさ、わたしは結婚なんてしないよ! なぜなら……」

「ただいま……」

「おじゃましまーす」

「おじゃまします」

「ピュルルルーン♪」


 わたしが云いかけると、タイミングよく寝むたそうな声に続き、元気な声と柔らかくて優しい声が聞こえてきた。


「おや? 誰か来たようじゃのう」

「あっ、シーニ! 遊びにきたよー」

「アオイさんこんにちは」


 元気に入ってきた女の子の隣で髪の毛が全体的跳ねてクルクルして目がくりくりとしている可愛らしい男の子が律儀に挨拶をする。その男の子がわたしの周りを見渡すと。 「もしかして、お取り込み中でしたか?」と気を使ったことを云う。


「ううん、大丈夫だよ。むしろかなりいいタイミングだよアカリとクウタくん」


 わたしは二人の後ろであくびをしていたミズキに近づくと後ろに回り彼の両肩にわたしの両手を置き、スズヒコに向けて云い放つ。


「わたしには世界一愛する弟がいるからね」


 その言葉にアカリとクウタくんはポカンという顔をし、マコトが呆れたような顔をしながら口を開く。


「お前のそれも治ってなかったか……」

「おっと、嫉妬かのう?」

「違うわ」

「そこの欠伸小僧が一番ということはこの私は二番ということだな」

「お前もブレないな……」

「あーーーーーーーーーーー!!」

「!?」


 わたし達がそんな会話を続けていると、さっきからマコトを不思議そうに見ていたアカリが突然叫びだし、わたしの前に壁になる様に手をバタバタさせながら立った。


「ど、どうしたの!? いろのさん!?」

「そこの黒髪のカッコイイお兄さん! またシーニを空にユーカイしにきたの!?」

「なんのことだ」


 アカリの突然の言葉にマコトはきょとんと目を見開く。


「ええ!? アオイさんをユーカイしに来た人ですか!?」

「なんだその質問」


 クウタくんもわたしの前に立ち両手を広げて壁になる。 その頭の上でクーが小さなハネをパタパタさせながら「ピュルン」と鳴いた。


「マコトさん……やっぱりそんなことをしておったんじゃのう……」

「おのれぇ黒崎誠、やはり我がフィアンセを狙っていたのか」

「手を出すなら堂々とだしなさい」

「お前ら落ち着け」


 マコトは三人から冷たい眼で観られるが冷静に言葉を返す。


「……アカリ落ち着いて、その人はねえのカレシ」

「話をややこしくするな」

「ちょっ! ミズキ!?」


 ミズキがとんでもないことをいいわたしは驚く。


「……なるほど……シーニのカレシさん、略して『カレシーニ』さんだね」

「なんだカレシーニって」


 ミズキの説明に納得されてしまったわたしは少し複雑な気分だった。


「あの……カレシーニさんはもしかして『魔導警察』の方ですか?」


 クウタくんはマコトが掛けている鞄に付いているタマゴに盾の柄が描かれている金色のバッチを見ていう。


「ん? ああ、そうだがその呼び方やめろ」

「いろのさん、もしかしたらいろのさんの言っていたこと少し分かるんじゃないかな?」


 クウタくんはアカリの方を向きながらいう。


「その頭の上の奴のことだろ」


 マコトはクウタくんに歩みより頭の上のクーをみる。


「お兄さんクーのこと知ってるの?」

「知っている訳ではないが、昨日、そこのブラコン製造機から少し調べてほしいって連絡があってな」


 マコトは親指でわたしの方を指す。


「『昨日の夕方の4時頃に花民カーミンの上空で変わったことはないか?』ってな」

「で、どうだったの?」


 わたしは一旦ミズキから離れマコトの話の続きを聞く。


「『特に何も異常はなかった』」

「なるほどねやっぱり何もなかったんだね」


 なんとなく分かっていた答えにわたしは驚かなかったが、前に立っていたアカリは驚きの声を上げた。


「わたしが観た空から光るモノが落ちてきてないの!?」

「そんなモノの目撃情報も現象も確認出来なかった」

「ええーーー!? どういうこと!?」

「落ち着いてアカリ、昨日、マルが云っていた『一時的に何処かに飛ばされていた』っていう仮説が濃厚になったって事だから」


 そう、マルの推測が合っている可能性があると思ったわたしは、昨日、自然現象や魔道具による犯罪を取り締まる魔導警察のマコトに調べて貰っていたのだ。


 まあ、相変わらず仕事が早いね。


「? う~ん……」


 アカリはよく分かっていないのか唸る様に返す。


「ねえマコト、これの代金と云っちゃなんだけど、アカリが飛ばされた場所も調べてくれるかな?」


 わたしはさっきマコトから渡された布とマコトが飲んでいるコーヒーを指さし云う。


「マジか……」


 マコトはコーヒーをほぼ飲み干したマグカップを見つめ、一本取られたみたいな顔をした。


「プフッー! シーニさんまるで夫を尻に敷く妻みたいな上手い頼み方じゃのう、それに、マコトさんの顔も滑稽じゃ」


 ピンコはお腹を押さえながら笑いだす。


「うるせー誰が尻に敷かれる夫だ」

「キャーーーこれがコイビトってヤツなんだねキャーーー」

「えっどういうこと?女の人に踏まれるのがコイビトっていうの?」

「クウタくん微妙に違う」


 マコトはピンコを怒鳴りつけていたが、何故かアカリが興奮しだす。


「まあ、確かにそのコトリさんは何か不思議な魔力を感じるのう」


 ピンコはマコトを軽くあしらい、クーを観る。


「魔力の流れが変わっておるのう」

「リュイさんっていう果物のおにいさんもそう言ってたけどおねえさんも視える人なの?」

「もちろんじゃ、なんせわたしゃは魔女の末裔じゃからのう魔術にはかなり詳しいのじゃ」


 アカリに尊敬の眼差しを向けられたピンコは胸を張る。


「まあ、じゃが、そこのカップルとさっきから何故か間接技を決めているのと決められている二人にも視えていると思うんじゃがのう」


 ピンコの言葉にその光景を無視していたわたしは床でミルクに何故か間接技を決められているスズヒコをみる。クウタくんはさっきからそれを不思議そうに観ていた。


「おお!!アオイやっと気付……痛でででで……くれたか……もうそろそろ本当の意味で私の腕が持って逝かれそうなんだ助けてくれないか?」


 スズヒコは悲鳴混じりにナルシ顔は崩さないで云う。


「ミルク、無視してたけど人の家で何やってるのさ」


 わたしは真顔でスズヒコの腕に十字固をするミルクに問いかける。


「何ってわたしの《愛》の強さを知って貰おうとスズヒコ様の体に叩きこんでいるのよ」

「し……真白……お前の《強さ》は十分に私の体に叩き込まれているから……放し痛ででで! ……くれると……助かるぞ!」


 スズヒコはナルシ顔を崩さない。


「シーニとそこの何だかカワイソウなおにいさん達も視えてるの?」


 二人を余り気にせずにアカリは聞いてくる。


「え? うん、わたしの場合はピンコや果物の彼みたいにはハッキリとは視えてないけど目を凝らせば一応視える程度かな」

「目をこらす? わたし一回やってみる!」

「じゃあ、ぼくも」


 クウタくんは頭の上に乗っていたクーをテーブルの上に乗せると、アカリと一緒に凝視する。


「じー……」

「じぃー……」

「ピュ?」


 クーはそんな二人を不思議そうに眺める。


「だぁーつかれたー!」

「けっこう疲れるんだね……」


 二人は床にお尻を付く。


「どう、視えた?」

 

 わたしが聞くと二人は「う~ん」と考えながら答える。


「うーん、すごいうっすらとしか視えなかったよ……」

「ぼくもあまり視えなかったけどなんかクーくんの回りのなにかがいろんな色に変わって目がチカチカして疲れました」

「え? いろ?」


 クウタくんの言葉にアカリは首を傾げる。


「ほう、そこのクルクル少年はまあまあ視えたみたいじゃのう」


 ピンコは少し驚きながらいう。


「えーっと、途切れ途切れに赤だったり、青だったり、黄色だったり、いろいろな色のものがぐるぐるしていました」 

「クウタくんすごいじゃないか。 キミは観るのが得意なのかな」


 かなり視えていたことをわたしが褒めるとクウタくんは頬をかき恥ずかしそうにする。


「得意なのかはわかりませんけど、たまーにみっくんの後ろから赤いような黒いようなナニかがみえることがあります」

「えっ……」


 わたしはその言葉に固まる。


「それとクラスのレータくんっていうトモダチの持っている本からもたまーにナニかヘンな黒いのがみえたりします」

「何!?」


 マコトも眉を少し歪ませる。


「すごいね! クロロン! わたしちょっぴりしかみえなかったから」

「ありがとう、でも、本当にチラチラとしかみえないからすごいのかどうか……」

「アオイちょっと来い」


 わたしはマコトに呼ばれアカリ達から少し離れる。


「アイツは『アレ』が視えるのか?」


 マコトはアカリ達に聞こえない様にクウタくんを目で見ながら云う。


「正直わたしもかなり驚いてるよ……」

「なるほどのう、彼から感じた、謎の感じは『視えていた』からじゃのう、しかし、彼は《自覚がない》みたいじゃがのう」


 ピンコも話に入る。


「どうする、教えるか?」

「自覚がないなら《知らない》方がいいんじゃないかな……」

「彼の瞳はこれまで見たことがないくらい純粋で奇麗な眼をしておる、そんな瞳をわたしゃは汚したくはないのう」


 ピンコの言葉にマコトは鼻で笑いながら返す。


「魔女の癖にお人好しなこった」

「そりゃどうもじゃ、それにじゃ」


 ピンコはわたしに向け続ける。


「アカリさんといったかのう? 彼女も少し変わった魔力をしとるのう。 そう、シーニさんと《同じ力》を感じるのじゃ」

「何!?」

「わたしと同じ力?」

「彼女も同じく自覚がないみたいじゃが、本人は気付かず常時不思議な魔力が外に流れておる」

「アオイと同じ《症状》か」


 この世界の人達は魔法が使えると云っても、物を浮かしたり周囲にある魔法卵のチカラで隠し芸程度に必殺技っぽいのを出せる程度で基本的に魔力は人によって違いはあれど体の中で流れているんだ。

 だけど、わたしは昔から魔力が無意識に体から溢れていて、その魔力に影響されて周囲の『物』に魔力を宿らせてしまうらしいんだ。

 その不思議な魔力を目当てで近づいて来た人が何人もいて辛かったり怖い体験をしたけど、今は少しだけコントロールが出来る様になってわたし自身が好きな『発明』に使えるようになったんだ。 


「で、あいつの魔力はアオイと同じ力なのか?」

「同じチカラとは云ったがおそらくシーニさんのとは《少し違うもの》みたいじゃ」

「どう違うんだ」

「まあ、慌てるでない。わたしゃもすべて分かる訳ではないからのう。 だから……」


 ピンコは袖の中から小さな小瓶を取り出した。


「こっそり収集したのじゃ」

「相変わらず抜け目ないね」

「これを持って帰っておばあちゃんに調べて貰うのじゃ」

「まあ、そのことは今度聞くことにするよ」

 

 わたしは少し昔のことを思い出してしまい、一度話を切り上げ、アカリの元へ戻ろうとした。


「シーニさんちょっと待つんじゃ後、もう少しだけ話に付き合ってくれぬか?」


 ピンコはわたしの心境を察してくれたらしい。


「もうひとつ気になることを彼は云ったのう……」

「クラスメートの本だな」


 マコトはそっちがメインだったようでわたしはもう少し話に付き合う。


「恐らく《古代呪魔導具こだいじゅまどうぐ》だね」

「シーニさんには少し辛いかものう……」

「無理するなよ」


 二人がわたしを気遣ってくれるけど、わたしは「大丈夫」と笑顔で返す。


 古代呪魔導具こだいじゅまどうぐっていうのは、その名のと通り『古代の呪いの罹った魔道具』ってことで、本来なら滅多に見つかることの無いものなんだけど……


「はぁ……全く……面倒なもの持ち歩きやがって……」

「知らないとはいえすごいことをポンポン口に出すのう」


 呪いの魔導具っていうモノを作ること自体法律で禁止されているんだけど、遠い昔にまではさすがに法律が届く訳もなく、極稀に遺跡などあまり人の寄り付かない場所で大昔の呪魔導具が見つかったりするんだ。


「しかも本物を見ていないから何とも云えないが『黒』っていうのはかなり厄介だな……」

「さすがのわたしゃも『黒』の呪いはおばあちゃんの話でしか聞いたことないのう」


 呪いには『色』が存在して『白い呪い』からあって、どんどん色が『黒に近い色』になると呪いの大きさや危険度が増すんだ。


「俺も中縹なかはなだまでしか扱ったことがないな」


 中縹なかはなだっていうのは少し暗い青色のことで分かりやすく云えば黒の危険度が『10』だとして青は『6』っていったところかな。


「シーニ、さっきからなにコソコソ話してるの?」

「あの皆さん、そろそろ助けてあげないとマズイと思います……」


 二人に呼ばれ振り返ると、スズヒコが本当に逝きそうになっていた。


「まだやってたの……」


 わたしはかなり呆れながらミルクを止めに入った。


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