17色 ヴェルデの森と試練の塔
「何だか不思議な場所ですね」
しばらく、森の中を歩いているとマルが周りを見回しながらいう。
「フシギ?」
「はい、この森に入ってからというか、この島に着いてから少し《魔素が濃い》ですね」
「そうだね、周りに浮かぶ魔法卵から少し濃い魔力を感じるね」
そういうと、シーニは近くの魔法卵を手に取り割ると腰にかけていた杖の先端に魔力を集中させる。
「へえー、ここの魔素はカーミンの約1・3倍の濃さみたいだね」
「え? シーニはそこまで解るのですか?」
「まあ、なんとなくだけど、わたしは《モノに魔力を与える魔法》が得意だからそういったことを知っているってだけだけどね」
「ほう、噂に聞くあの珍しい魔法ですか」
マルはシーニの魔法に興味があるのか、話に食い付く。
「そうだね、もう少し分かりやすくいうとね。 えーっと、アレなんかいいかな」
シーニは近くに落ちていた少し大きめの石に杖をむけて、先端に集めた魔力をぶつけた。
すると、その石は浮きだしてシーニのもとにくる、そして、それに腰をかけると説明をしてくれる。
「わたしの魔法はこういう風に魔力を与えた《モノ》を自由に動かすことが出来るんだけど、例えば、本来わたしの魔力量では人10人分の重さが限界だとして13人分まで運べるようになったって感じかな」
「それは、かなりのパワーアップですね」
「でも、いつもの感覚で魔法を使うのは気をつけないといけないね」
「そうなの?」
「アカリ、試しに軽く【フレイム】使ってみてよ」
「うん、わかった、よし、【フレイム】!」
わたしはシーニにいわれたとおりに学校で習う初級魔法の【フレイム】をつかってみるとわたしの指の先から火の玉がでた。
「あれ?なんかいつもより火が大きいね」
指先にでた火の玉がいつもより大きかった。
「なるほど、初級魔法でも変化がしっかり分かるんですね」
「そう、もし、いまこの場所で本気の【ブレイズ】なんて撃ったらどうなると思う?」
「それは……」
「辺りが火の海に成りかねないですね」
それを想像してゾクッっとして急いでフレイムでだした火を消した。
「ごめんごめん、話が極端だったね。 そんなに怖がらなくてもいいよ」
「いえ、意識から変えるのは大切なことです」
「そ、そうだね、わたしも気をつけないと」
わたしたちは魔法を使う時はしっかりと注意をはらおうということになった。
そのまま探索を続けているとすこし身に覚えがありそうな場所についた。
「あれ? ここって」
小走りでさらに奥にすすむ。
「やっぱり……ここって」
草木の生い茂る森の中、風景はなんの変哲もない森の中のはずだけど、来たことのある『感覚』がした。
「どうしました? アカリ」
「もしかして《ココ》?」
「うん」
感のいい二人は気が付いてくれたみたい。
「ここで《クーのタマゴを拾った》んだ」
よく覚えているこの場所。
わたしとクーが出会った場所。
あのときはよくわからなかったけど、たしかにわたしは『この場所』にいた。
「早速ですが、辺りを調べてみますか?」
「そうだね、最善の注意をはらってね」
二人はさっそく準備に取りかかろうとする。
わたしも周囲を見回してみると二人の顔がみえなくなっているのに気が付いた。
「あれ!? マル、シーニどうしたの!? 二人がみえなくなっちゃったよ!?」
「!!」
わたしの叫びに二人も異変に気がついた。
「こ、これは!? 《霧》ですか!?」
「二人とも落ちついて! その場所から動いちゃダメだよ!」
シーニは冷静に指示をだす。
しばらくすると、霧が晴れて周りがみえるようになった。
「へぇーこんなことがあるんだね」
「これは驚きですね……空いた口が閉じませんよ……」
「……う、うん」
わたしたちは目の前の光景に唖然とする。
そこには、さっきまであきらかになにもなかった場所に大きな塔がそびえたっていたのだ。
「私達が飛ばされたのかはたまたあるべきものが姿を現したのか……」
マルは突然現れた大きな塔を唖然と見つめる。
「とにかく目の前に現れたってことは歓迎されてるんじゃないかな」
「よ、よし、じゃあさっそくいってみよう!」
塔に近づいてみると入口のような場所に着いた。
「わたしやっぱりこの塔みたことあるよ」
前にクーがみせてくれた景色を思い出す。
「なら、もう間違いありませんね」
「ここが《試練の塔》だね」
わたしの言葉に二人は真剣な顔で互いをみる。
「クーここがキミの家なの?」
「ピュルーン?」
問いかけにクーは首をかしげる。
「クーが生まれた時もそうですが、急な展開で頭が付いて行けませんね」
マルは苦笑いを浮かべる。
「まあ、冒険してる感じがあって楽しいけどね」
シーニが楽しそうにいうとマルも「そうですね」と笑う。
「さて、まずはこの扉もとい門をどうやって開けるかですね」
マルは門を押してみるが、ビクともしないようだ、そして、すぐに切り替えて門の描かれている絵に目をやる。
「やはりこれを解かないと中に入れない仕組みなんでしょうか?」
「これはなんだろうね」
二人を悩ませている絵をわたしもみる。 そこには、アーチ状になっている長い枠が上から下に数えて七つあった。 そして、左の門に丸いナニかを置く台みたいなのが枠のひとつひとつにあった。
「どこかでみたことあるような?」
なんだかみたことあるような絵に首を傾げる。
「そうなんですよ。 何処かで見覚えがある形なんですよ」
「七つ、枠、線?」
わたしたちは大きく唸る。ふと、ナニかに気付いたのかマルがクーを眺める。
「色です!」
「!?」
「謎が解けました。 この絵が現すことは七つのアーチ状の色! つまりは《虹》です!」
「ああ! たしかに虹の形にみえるね!」
「なるほど!」
シーニは手をポンッと叩いた。
「つまり、枠の先にあるこの台に魔力を通してみます」
マルは上から二番目の台に魔力を通すと上から二番目の枠のアーチが橙色に染まった。
「私の魔力の色は《橙》ということは虹の一色として使えます」
「ということは、わたしとアカリの魔力も使えるね」
そういうとシーニは下から二番目の台に魔力を通すと下から二番目の枠が青に染まった。
「え、えっと、虹の赤ってどこだっけ?」
「一番上です」
「ありがとう」
マルにわたしの場所を教えてもらってわたしも試してみると一番上の枠が赤色に染まっていった。
「さて、三色は埋めることが出来ましたが問題発生ですね」
「どうしたの?」
「私達三人では三色が限界です」
「あっそういえばそうだね」
「私達の《複色魔力》では虹の色がありません。どうしたものか」
マルは手を顎にあてて考える。わたしたちには魔力の『色』っていうのが、あるんだけど、それとは別に人によって数は違うんだけど、『複色魔力』っていうのがあるんだ。 例える、なら、赤の魔力が7割で青が3割で持ってるみたいな感じだね。
「これって使えるかな?」
シーニは魔空間から色のついたハネを何枚か取り出した。
「それは、カーミンで帰りを待つ人々の魔力を籠めたハネですね」
「そう、ミズキたちが魔力を流して色が変わったハネだよ」
シーニが取り出したハネはみんながクーのハネを使って遊んでいた時に出来たモノだった。
「ナニか役に立つかもと思ってなんとなく持ってきてたんだ」
「ナイスですシーニ。 原理は解りませんが、魔力を流す事によって色が変わるクーのハネの性質なら恐らく《魔力が残っている》かもしれませんね」
「じゃあ、さっそくためしてみよう!」
二人は頷きさっそく台の上にハネを置く。
試しに一番下の台に《柴色のハネ》を置くと一番下の枠が柴色に染まった。
「ビンゴですね」
「よし、じゃあ、他のも試してみようか」
続けて《水色のハネ》、《緑色のハネ》を置いていき、最後の台に《黄色のハネ》を置くためにシーニがハネを取り出すとマルが静止する。
「少し待って貰ってもいいですか?」
突然、静止してきたマルにシーニは首を傾げる。
「どうしたの? マル」
「いえ、このままそれを置いても問題はないと思うのですが、その《黄色のハネ》だけ《違う方法で作った》ので少し気になってまして」
「あ、たしかにそうだったね」
わたしたちがクーのハネを使って色を変えていった時は黄色の魔力の人はわたしたちの中に《いなかった》んだ。
そこで、魔女のおねえさんが試しにわたしの赤のハネにクロロンの魔力を流すように言ったんだ。
すると、赤のハネが黄色のハネに《色を変えた》んだ。
「アカリとテンパ少年の魔力を《混ぜた》ことによる色の変化、恐らく、絵の具の原理と同じだとは思いますが、そんなことの出来るのがどうしても不思議で気になっていたんです」
「そうだね、わたしも引っかかってたんだ」
「でも、考えられる可能性をいうのであれば……《既に試練は始まっていた》ということでしょうか……」
「え?」
「そうかもね、わたしたちはここに来る前から《試されていた》のかもね」
「どういうこと!? わたしはバカだからよくわからないよ!」
話に着いていけないわたしはあたふたしながら聞く。
「あくまで可能性ですが、よく考えてみてください。 アカリがクーのタマゴを授けられて私達が今ここにいる現状、恐らくですが、運命づけられた気がしていまして」
「そして、この《ハネ》、これがなければこのトビラのナゾは解けていなかった……つまりナニかに引き寄せられているかもしれないってことだね」
マルとシーニの顔がすこし曇る。
自分たちのやっていることは本当に偶然か? それとも必然か? 二人は不安になっていた。
でも、なんとなくだけどわたしは不安が一切なかった。 なぜなら……
「それでもいいんじゃないかな」
「!?」
二人はすこし驚いた表情を浮かべるとわたしをみる。
「わたしはバカで二人よりは全然ダメダメだけど、クーと出会ったこと、この場所にいることが、ナニか決められていたことだとしてもわたしはそれでもいいかな」
「………」
わたしの言葉を二人は静かに聞く。
「だって、つまりは、その……えーっと、そのおかげでクーに出会えて、そして、みんなと楽しく笑いあえたし、いろいろなことをしれた、なによりわたしの今まで生きてきた人生がなにか決められた運命だったとしても、マルやシーニ、それに今まで出会ってきたたくさんの人たちとめぐりあわせてくれたそれってつまりは《今を生きてる》そして、いろいろな思い出 《カラーメモリー》ってことじゃないかな!」
思っていることを伝えると、二人はしばらくわたしの顔をみていた。
すると、
「……フフ」
「え?」
「アハハハハハハ!!」
「ええ!?」
なぜか二人に大笑いされてしまった。
やっぱり変だったかな!?
「すみません。 別に馬鹿にした笑いではありません。 むしろ、感謝をしたいくらいです」
マルは訂正するようにいうとシーニもそれに言葉を続ける。
「さすがアカリだね、わたしたちじゃ気付かない……いや、あたり前過ぎて気付けかったことをいってくれるね」
「私とシーニは深く考え過ぎていましたね」
マルとシーニはもう一度、互いを見てわたしをみると
「私達も信じてみるとします。 いろいろな思い出 《カラーメモリー》を」
二人は満面の笑みで返してくれた。
そして、黄色のハネをわたしに渡してきた。
「これを置くのはアカリにやってほしいな」
「わたしでいいの?」
「はい、やっぱりクーを授けられたアカリこそが適任だと思います」
「うん、わかった」
シーニからハネを受けとるとわたしは台の前に立つ。
「じゃあ、おくね」
深呼吸をしてすこし心を落ち着かせると上から三番目の場所にハネを置く。
最後の枠が黄色に染まっていってすべての枠に色が付いて虹の絵が完成した。
トビラが音を立てて開いていった。だけど、トビラの先は光輝いていて中がまったくみえなかった。
「中に入らないと状況がわからないみたいだね」
わたしたち三人はトビラの先をしばらく眺めていた。
「はいってみようか」
わたしが二人にいう。
「そうですね。 ここまで来たらどんとこいですね」
「なにかキケンがあるかもしれないから気をつけないといけないね」
「よーし、いこう!」
わたしたちはトビラの先に歩みを進めた。
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