6色 禁断の果実はおふくろの味?
「さっきはわるかったわ、お詫びにこれでも食べなさい」
休憩所の中の席まで案内されたわたしたちの前にスミレはいちごケーキをだしてくれた。
「こんないいのをだしてもらっていいの?」
シーニは眼を輝かせながらいう。
「いいのよ……ウチがケーキ屋と喫茶店を経営してるからいくらでもあるわ」
「スミレありがとうございます。 では、いただきます」
マルは顔の前で手を合わせて言い、ケーキを食べ始め、わたしとシーニも「いたたきます」と手をあわせ、ケーキをフォークで一口サイズに切り、口に運ぶ。
「!!!」
わたしの体に電撃のような衝撃が走った。
その衝撃で体内の細胞ひとつひとつに味が染み渡っていき、脳が活性化したような感覚が全身に伝わり、わたしは考えるよりも先に叫んでいた。
「おいしーーーーーーー!」
「うん、たしかにすごくおいしいね」
わたしとシーニはあまりのおいしさに感動する。
「さすがスミレ、いつ食べても頬っぺたが落ちそうなくらい美味しいです」
マルは頬をおさえながらいう。
「それに、いちごの酸味がケーキの甘さといい感じのハーモニーを奏でています」
「いいところに気付いたわね」
スミレはにやりと笑う。
「トッピングの果物はここの農園の果物をつかっているけど、そのなかですこし酸味の利いたのをつかっているの……そうすると、ケーキの甘さがさらに引き立つわ……そう、それは乙女の甘酸っぱい恋のように……」
スミレは恋する乙女のような顔で斜め上をみつめる。
恋する乙女は普通鉄パイプを飛ばしてくるのだろうか? とわたしは思ったけど口にケーキを運び言葉にださないようにした。
「まあ、愛の鉄分といったところです」
わたしの心情を察したマルが耳打ちをする。
「待たせちゃってごめんね」
ドアの開く音と同時に穏和な声が室内に響き、片手にカゴを持ったリュイさんが中に入ってきた。
「はい、ボクの農園で育てた自慢の果物だよ。切らないといけないのは切ってあげるから是非、食べてみて」
リュイさんはニコニコしながらカゴを机の上に置いた。
「ありがとうございます。 では、お言葉に甘えて」
マルは籠の中の果物に目を移してそのなかのリンゴを掴みリュイさんに渡す。
「これをお願いします」
「まかせて」
「じゃあ、わたしはこれをもらうね」
「わたしはこれ」
シーニは青ぶどうをわたしはイチゴのいっぱいはいったお皿を取り出す。
わたしは「いただきま~す」といいイチゴを口に放り込む。
すると、さっきケーキを食べたときの感覚とは違う衝撃がわたしの体を襲う。 例えるなら、砂漠でオアシスのように実る伝説の果実とか! これを巡って世界が滅亡する禁断の果実とか! 毎晩おかあさんが夕食でだしてくれるみそ汁のおふくろの味とか……!
そう、一言でいうなら…
「なんかよくわからないけど、おいしー!」
うん、おいし過ぎて「なんかよくわからないけど、おいしい!」これがわたしの率直な感想。
ふと、わたしはシーニの方をみるとシーニは右手で顔を覆っていた。
そして、数秒後に顔から手を放すと、我が子が誕生した時のような優しい笑顔でにこりと微笑み天を仰ぐ。
「もう……思い残すことはないよ……」
そういうと、目を閉じ空からシーニにむかって優しい光が注ぎ、光の先から黒髪の顔が整っていてとてもカッコいい天使さんが降りてきた。
そして、そのままシーニの手を引き空へエスコート!…………って!?
「ダメダメダメーーーーーー!」
わたしは手を激しくばたばたさせながら天使さんを追い払う!
「……っは!わたしはなにを!?」
「思いっきり悟りを開いてました」
正気に戻ったシーニにマルは冷静に返す。
「なんか今までの楽しかった事が鮮明に脳内を走っていった気がする」
「それ絶対ソーマトーってやつだよ!」
「それにしても先輩の農園の果物は凄まじい威力ですね。 改めてあれを観て実感しました」
「あれってよくあるの!?」
「はい、五人に一人はああなります」
「まさかの禁断の果実!?」
シーニは驚くけど、マルは気にせずにリュイさんから切られたリンゴが乗ったお皿を受け取る。
「まあ、ああなるのは、はじめて食べた人の五人に一人ですけどね」
「初見殺しもいいところだよ」
マルは口でリンゴをパキッといい音を立てて割り「まあ、そろそろ本題にはいりましょうか」と口をもぐもぐさせながらサクランボを美味しそうに食べているクーをみてリュイさんに目を向ける。
「先輩、何か分かりますか?」
マルの問いかけにリュイさんはすこし考えるような仕草をして、口を開いた。
「魔力の流れが違うみたいだね」
リュイさんは手をあごに当てながら答える。
「魔力の流れ?」
「どういうこと?」
わたしとシーニは聞き返す。
「う~ん、どうやって説明すればいいかな~」
「私が説明します」
マルは口のものをごくんと飲み込み、ハンカチで口を吹くと話しはじめた。
「私達は日常生活で魔法を使いますよね? 魔法を使うには魔力が必要です。 そして体には魔力が流れています」
マルは手元の空いているお皿を手にとり続ける。
「これを私達の体だとすると、この丸いお皿の端をグルグルと魔力が流れているんです」
マルはお皿を左回転に回す。
「つまり、クーの場合はその魔力の流れが私達と違うって事です」
「どういう風に違うの?」
「私はよくみえないので分かりません」
「ありがとう、ここからはボクが説明するよ。 このコの場合は螺旋状に魔力が流れているみたいなんだ」
「らせん状?」
「うん、例えるならこんな感じにくるくると下から上に流れているんだ」
リュイさんは人差し指をくるくるとまわし、それをみたスミレは「センパイ、その動きキュートです」という。
「まるで、『吸い上げる』ようにね」
「吸い上げる?」
わたしたちは首を傾げるとクーも一緒に丸いカラダを横に傾げていた。
「まあ、この件についてはボクよりも彼のほうが詳しいと思うから彼に連絡してみるよ」
「やはりあの方の出番ですか」
リュイさんの言葉にマルが反応する。
「彼?」
「あの方?」
わたしとシーニが二人に聞くと、マルがまた熱弁してくれる。
「あの方とは私の通うセーラン魔導学園で成績トップで、尚且つ魔法の定義について研究している云わば、学問の天才といわれる、私がとても尊敬している方なんです」
「ついでにセンパイは魔術の天才といわれているわ」
マルの説明にスミレが付け加えマルは話を続ける。
「ちなみに二人の天才という意味でダブル・ジーニアスと呼ばれていてそれを訳して2G《ツージー》と呼ばれています」
「2Gは初耳かな」
リュイさんが軽くツッコム。
「まあ、彼にはボクから連絡をしておくよ」
「はい、よろしくお願いいたします」
マルはリュイさんにペコリと頭を下げる。
「そうだ、みんな飲み物はなにが飲みたいかな」
リュイさんは席を立つと冷蔵庫からいくつかの紙パックの果物ジュースを取り出すとわたしたちの前におく。
「ここの果物でつくったジュースだよ好きなのをどうぞ」
「お気遣いありがとうございます」
「ありがとうリュイさん」
「じゃあ、わたしはこれを貰うね」
わたしたちは口々にお礼をいうとそれぞれリンゴジュース、イチゴジュース、オレンジジュースを手にとり飲む。
「う~ん、おいしー♪」
「よし、今度は大丈夫だった」
「とても新鮮でさっぱりした味わいがしてとても美味しいです」
わたしたちが感想をいうとリュイさんは嬉しそうにニコリと笑い、隣に座っているスミレにブドウジュースを渡す。
「はい、スミレもよかったらどうぞ」
リュイさんからジュースを受け取るとスミレはとてもうれしそうな笑顔になる。
「ありがとうございます、一生家宝にします」
「出来れば飲んでほしいな」
リュイさんはニコリと微笑み優しい口調で返す。
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