5色 魅惑の果実と恋の暴走列車

「アナタたち……ここでナニをしているの……」


 背後からとても威圧感のある低い声が響き渡り、声のした方向に振り返る。


 振り返った先からザッザッという草を踏む音を立てながら、とても鋭いすみれ色の瞳をした女の子が歩みよってきた。


 その女の子は腰まである青紫色の髪をリボンで結んでいて、黒色の長そでのワンピース姿をして、瞳とおなじ色の丸い形をした太くて長い鍵を後ろ腰にかけて、背中にカゴを背負っていた。


「こんにちは、スミレ」


 マルが歩みよってきた少女にむかっていう。


「……マル……アナタまたきたの?」


 スミレと呼ばれた少女はマルにむかって怪訝そうにいい、クーの入った檻に目をむけると手を伸ばし、指をクイッと曲げて檻を自分の場所へ引き寄せた。


「コレ……アナタたちの?」


 スミレは鋭い眼をむけながらいう。 その眼は背筋が凍ってしまう程で、まるで、籠の中の鳥の気分だ……いや、クーは籠の中の鳥だね。


 彼女は声を低くして喋っていたけど、元々の声が高いのかすこし違和感のある喋り方だとわたしは思った。


「うん! わたしのコドモだよ!」

「えっ?」


 スミレの問いかけに自信満々に返したけど、彼女はポカンという顔をした。


「アカリ、そのいいかたは少し違うと思うよ」

「えっ? 違うの?」


 わたしが聞き返すと、マルは咳払いをして答える。


「その言い方だと、いろいろと誤解をうむと思われます」

「まあ、いいわ……さて」


 スミレは気を取り直し続ける。


「アナタたちは、ナニをしにきたの?」


 またしても、背中が凍りつきそうなくらい鋭い眼をむけてくる。


「先輩にお願いしてここの果物を分けて頂こうと思いまして」

「センパイ!?」 


 マルの言葉にスミレの体がぴくりと動いたがすぐに口を開く。


「アナタのウチって八百屋でしょ? なら、アナタのとこの果物をあげたらいいじゃない……」

「ええ、私もそう思ったのですが、新鮮で採れたてのを食べたいと思いまして」


 マルは冷静に返す。


「……そう……わかったわ……アナタたちセンパイをおそいにきたのね……」

「全然分かってないですね」


 そして、冷静にツッコム。


「えーと……先程も云ったように私たちは新鮮で採れたての果物を頂きたいだけで……」

「ナニをいってもムダよ……」


 スミレはマルの言葉を遮り続ける。


「センパイは……アタシが……護る」


 どんよりとした黒と紫が混ざった色のオーラみたいなのがスミレの体の周りに表れた。


 そして、後ろの腰に掛けていた大きな鍵を右手で掴む。


「…………」


 マルはあごに手を当てて数秒ほど考えたあと「よしっ。」といい。


 回れ右をした。


「逃げましょう」


 言うが早いかマルは走りだした。


「ええ!?」


 わたしとシーニは驚いた。


「に・が・さ・な・い・わ」


 スミレは後ろ腰にかけている鍵を引き抜き、前に構え、鍵の先をわたしとシーニの方にゆっくりとむけた。


「ア・ナ・タ・た・ち・も・よ」

「え?」


 まっ黒な棒状のものが十数本ほどスミレの回りに現れる。

 その棒状のようなものは、すべて同じ向き長さ間隔で並んでいた。 そして、その中の一本がわたしの方に向けられ、そのまま風を切るように勢いよく飛んできた。


「うわぁ!!」


 わたしは横に飛退きギリギリのところでかわす。


「アカリ! 大丈夫!?」

「うん、大丈夫!」


 シーニが駆け寄り、わたしの手をとり起こしてくれた。


「……つぎは……あてるわ」


 スミレはまた鍵をこっちにむけて攻撃態勢にはいる。


「とりあえず逃げよう!」

「うん! それがいいとおもう!」


 わたしとシーニは回れ右をして地面を蹴り全力で走りだした。


「に・げ・て・も・む・だ・よ」


 スミレは魔法で体を空中に浮かして、ドス黒いオーラを放ちながら追いかけてくる。


 わたしとシーニは猛ダッシュで走り前を走っていたマルに追いついた。


「いや~やっぱりこうなっちゃいましたね~」

「マル! なにあれ!?」

「なんか怖いし、なぜか攻撃されたけど!?」

「彼女は、ちょっと訳ありで少し面倒なんです」

「少し以上に面倒そうなんだけど!?」


 わたしたちが走りながら、話している間にもスミレは後ろからいくつもの棒を飛ばしてくる。


「なにあの魔法!?」


 マルの横に並びながら、シーニは必死に聞く。 


「あれは周囲の魔法卵の魔力を素に鉄パイプのようなものを造りだして、そのまま飛ばしてくるスミレが得意とする技のひとつです」

「なにそれ!? ふつうに怖い!」


 冷静に答えるマルに反射的にツッコミをいれてしまう。


「ちなみにあれの堅さは鉄パイプと同じぐらいの堅さなので、当たったら、多分、骨が逝きます」

「ホンキで殺りにきてるよね!?」

「ハハハハハ(棒)」

「目が全然笑ってないよ!」


 わたしとシーニのツッコミを受け、マルは咳払いをして一言だけ言葉を口にする。


「まあ、簡単に云うと恋の暴走列車です」


 スミレの攻撃を三人並んで走りながらも右、左、ジャンプ、しゃがんだりしながらわたしたちはかわしていく。


「ど、どうしよう!? このままじゃ本当に殺られちゃうよ!」

「スミレの魔力が尽きるのを待っている暇はないですね……仕方ありません」


 わたしが必死に叫ぶとマルはかかとで急ブレーキをかけて、その場に止まる。 わたしとシーニも続けて止まる。


「マル、どうするの!?」

「反撃します」


 そういうと、マルは目の前の魔法卵を掴み、そのまま魔法卵を一本の長い棒に変え、肩幅に足を開き左手を胸の辺りに置き右手でマジック棒をビシッと前に構える。


「これで打ち返します」


 前に突き出していた右手を自分の方に下から回転させて、そのまま左手で掴み少し膝を曲げる。 


「バッチコーイ!」


 マルは野球のバッターのようなポーズをして気合の掛け声をだす。


「イケー」

「かっとばせー」


 わたしとシーニはマルを応援するよ!


 そして、スミレの攻撃がまっすぐ飛んできた。 マルは右足を大きく踏み込み、そのまま勢いよくマジック棒を振る。


「いらっしゃいませー! おかえりくださーい!」


 二つのマジック棒がぶつかる次の瞬間、二つのマジック棒が消えた。


「!?」


「うぉっと!」


 全力空振りになったマルはバランスを崩す。


「おや? こんなところでケンカかな?」

「!!」


 果物の木の陰からいっぱいに果物のはいったカゴを掛けて、緑色の農園着の穏やかそうなおにいさんがぷかぷかと宙に浮くホウキに立って乗りながら現れた。


「センパイ!?」

「こんにちは、リュイ先輩」


 スミレは飛び跳ねるように驚き、マルは冷静に挨拶をした。


「……えっと、せ、センパイ……これには深いわけが……」

「大丈夫だよ」


 スミレは慌てて彼のもとに駆け寄り状況を説明しようとしたが、彼は優しくスミレに笑いかけ、こっちをみて続ける。


「うん~っと、状況をみる感じだと……え~と、何かの事情ではいってきたマルたちをスミレはここの果物を盗みに来たと勘違いをして攻撃しちゃった感じかな?」


 おにいさんはわたしたちを見まわしながらいう。


「すごいです! 微妙に合っていて微妙に合ってないです」

「……かんちがい?」


 スミレはすこし首を横に傾げる。


「はい、もう一度いいますが、私たちはここの新鮮な果物を分けて貰いにきただけで先輩を襲いにきた訳ではありません」

「あれ? どうして、ボクが襲われるの?」


 おにいさんは困惑した汗をかきながらいう。


「……そういうことなら早くいいなさい」


 スミレはため息まじりにいいマルは「アハハ」と乾いた笑いをする。


「そうだ、スミレそのコを放してあげて」


 リュイさんはスミレの横に浮いているクーのはいった檻をみていう。


「はい、わかりました」


 スミレが手に持っていた鍵の先を檻にあてるとクーは解放された。


「ピュ~♪」


 自由になったクーはわたしの頭の上に止まった。


「クー大丈夫だった?」

「ピュル~ン♪」


 問いかけると、クーはゲンキに返事をする。


「ねえ、キミ」

「うん?」


 シーニはおにいさんに声をかけた。


「さっきのってキミがやったの? もし、そうならなかなかの腕だね」

「さっきの?」


 なんのことかわからず、シーニに問いかける。


「さっきのとはおそらく私とスミレの魔法が消えたことですね?」


 マルはわたしたちの方に歩みより興味ありげにいいシーニは頷く。


「わたしの推測だけど、マルとスミレのマジック棒の魔力がぶつかり合う寸前に魔力をぶつけて相殺させたんだとおもう」

「どうゆうこと?」

「同じ威力のチカラをぶつける。 簡単にいうと1と1をぶつけて0にしたってことです」


 マルは両手の掌を合わせて説明してくれた。


「それだけじゃないよ」


 マルの説明にシーニが続ける。


「さっきの場合は、数字で例えると5と3の魔力がぶつかる瞬間に5には5、3には3の威力の魔力を離れたところから的確にぶつけたんだ」


「へーすごいね!(よくわかってない)」


 リュイさんの方をみるとニコリと笑いかけてきた。


「そんなことが出来るってことは、かなりの上級者だね」

「……あたりまえよ」


 わたしたちの話にさっきまで黙っていたスミレが口を開く。


「……だって、センパイは《水星の魔導師》だもの」

「水星の魔導師?」

「なるほど、キミがあの噂の水星くんか」


 シーニは納得するけど、わたしはポカンと首を傾げる。


「!……アナタ……まさかしらないの? それでも、魔導師のタマゴ?」


 スミレはわたしを見下すようにいう。


「う……」

「私が説明します」


 困っているわたしにマルが教えてくれる。


「魔導師にはいくつかのランクがありまして、順に《星》《冥星(冥王星)》《月》《水星》《火星》《金星》《地星(地球)》《海星(海王星)》《天星(天王星)》《土星》《木星》《太陽》の魔導師があります」

「そんなにあるの!?」


 マルは「はいっ」と頷き続ける。


「このランクは分かっての通り、《星》がモチーフになっています。  《星》の次に大きな惑星は《冥王星》という様に、大きな惑星の称号を持っている程、偉大な魔導師と呼ばれます」


 すこしヒートアップしてきたマルはわたしの方にグイグイと歩みよってきた。


「そして、どんなに優れている魔導学生でも《月の魔導師》までしかなれないと云われていたのですが、リュイ先輩は飛び抜けている才能で魔導学生にもかかわらず《水星の魔導師》なんです」


 熱弁するマルの威圧にすこし押され気味だったわたしのお腹が「ぐう~」と鳴りだした。


「マル、そのコが困っているみたいだから、そのくらいにしてウチの自慢の果物をごちそうするよ」

 

 おにいさんが困っているわたしを助けてくれる。


「やった!」


 わたしはマルを押し返す感じで喜ぶ。


「さあ、3人とも歓迎するよ。 スミレ、休憩所まで案内してあげて」

「はい、わかりました……アナタたちセンパイの優しさに感謝するのよ」


 おにいさんにむける眼とは全く違う冷たくて鋭い眼をわたしたちにむけると「ついてきなさい」といい、わたしたちに背をむけて無愛想に歩きだしたスミレに「悪いコではないので気にしないでください」とマルはフォローをいれた。


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