44色 キミは誰?

 わたしたちはシアンのお見舞いの品を手にシーニの研究室の前に来た。 そして、インターホンを鳴らし、しばらくしてドアが開けられ、中からシーニが出てきた。


「あ、アカリにクウタくん、それにフウムちゃん、どうしたの?」


 シーニが驚きながらいう。


「シアンが体調が悪いってきいたからお見舞いにきたんだ」

「これみっくんの好きなメロンパンとみずまんじゅうです」

「それに風邪に効くといわれる飲み物も持ってきましたわ」

「くう……ミズキはなんていいトモダチをもったんだ」


 わたしたちが口ぐちにいうとシーニは涙を流しながら受け取る。


「せっかくきたなら、ミズキにあっていく?」

「え? いいんですの?」

「うん、体調が悪いっていっても風邪じゃないから大丈夫だと思うよ」

「え?」


 わたしたち三人はシーニの言葉に驚いた。


 研究室に入るとベッドのようなところでカラダに機械のようなナニかを付けられたシアンが体調が悪そうに寝ていた。


「シアン!?」


 わたしたちはシアンにかけよる。


「みっくん、大丈夫!?」

「これはどういうことですの?」


 口ぐちに驚いていると、シーニが説明してくれる。


「恐らくだけど、魔力の乱れによる体調不良だと思う」


 シーニが真剣な顔で説明する。


「え? どういうこと?」

「ワタクシは魔力がないので、知識でしか知りませんが、成長期などにみられるカラダの成長と共に魔力量が変化する時に魔力が増え過ぎてカラダに収まりきらない時に起こるといわれる症状ですわね」 


 フラウムがさらに説明してくれた。


「その症状が出ると魔力量が多いいということで、人によっては喜ばしいという人もいますわね」

「だけど、ナニか『違う』気がする」


 フシギそうにするフラウムと違ってクロロンは確信めいたようにいう。


「クウタくんもそう思う?」

「え? どういうこと?」


 シーニもなにかわかっているのか、頷いた。


「確かに天海さんの成長期は終わっているはずですので、時期外れですわね」

「それもそうなんだけど」


 クロロンは言葉を続ける。


「ぼくも何回かなったことがあるけど……うまくいえないけど、ナニか違うんだ」

「ナニかとは?」


 なんかフシギな感じを上手く言葉にできないクロロンはあたふたと言葉を繋ぐ。


「なんというか、ぼくの場合は『中に収まろう』って感じだったけど……みっくんのこの感じ、ナニかに『引っ張られている』感じがするんだ」

「引っ張られる?」

「わたしもそう思うよ」


 シーニが真剣な顔でいう。


「昨日まで全然元気だったのに、今日の朝方から苦しみだしたんだ」

「今日から?」

「ねえ、もしかしてだけど関係してるのかな?」

「ワタクシも同じことを考えましたわ」


 クロロンとフラウムは互いをみて険しい顔をした。


「なにかしってるの?」

「えっと、関係しているか分からないんですけど……実は……」


「みつけたぞ」


「!?」


 突然、声がして、わたしたちは後ろを振り返ると、メガネの青年が立っていた。


「レータ!?」


 研究所の入り口にレータが立っていたので、わたしは驚く。


「メガネ! 人の家に勝手に入ってくるとは失礼ですわよ!」

「きのせさんまって!」


 フラウムはレータに文句をいいに歩いて行こうとしたけど、クロロンがフラウムの前に立つ。


「緑風さん?」

「クロロン? どうしたの?」


 わたしとフラウムはクロロンをフシギに思いみるけど、クロロンはレータをみて険しい顔をしていた。


「『キミは誰?』」

「え!?」


 クロロンの言葉にわたしたちは眼を見開いて驚き、レータをもう一度みる。


「え!? やっぱりメガネ変えた!?」

「変えたかもしれないけど、たぶん違うと思う」

「…………」


 レータはなにもいわずにこっちに歩いてくる。


「止まって!」


 それをシーニがなぜか杖を構えて静止させる。


「ねえ、もしかしてだけど、ミズキにナニかようかな?」


 シーニはいつものやさしい感じじゃなくて、危ない人を目の前にしたような真剣な目を向ける。


「………」


 レータはなにも答えない。


「なんのようかだけ教えてくれたりしない?」


 シーニはやさしく問いかけるけど、かなり警戒した感じで聞く。


「それを聞いてどうする」 

「答えによってはキミを防衛の為に攻撃しないといけないからさ」

「そうか……なら」


 レータは「ふっ…」と小さく笑うと答える。


「そいつのカラダを『奪い』にきた」


 え? 『奪う』? どういうこと?


「正直な子はおねえさん好きだけど、それを聞いちゃ黙ってられないね」


 シーニは杖を構え直して魔法を放つ。


「バインド!」


 そう叫ぶと、握る杖の先から魔力で生成された紐が勢いよく射出される。

 しかし、眼前のレータを縛り上げる為に放たれたそれは、一瞬にして姿をかき消したレータの残像に掠っただけだった。


「はやい!?」


 シーニは直ぐに消えたレータの姿を探すが、どこを見回しても捉えることは出来ない。


 刹那、不敵な笑みを浮かべたレータの顔がシーニの眼前に現れる。


「おそいな」

「なっ!?」


 守りの態勢にはいろうとしたけど間に合わない!


「黄瀬流格闘術弐ノ型『旋風脚』!!」


 フラウム叫びと共に豪風を纏った蹴りが、バシーン! という風を切るような音と衝撃波と共にレータに繰り出される。


 しかし、


「…………」


 レータはフラウムの蹴りを左腕一本で悠々とで受け止めていた。 

 有り得ない光景に、思わずフラウムは目を見開く。


「そんな!? メガネのクセにワタクシの蹴りを止めるなんて!?」


 フラウムは得意の蹴りを止められたことに、驚愕の表情を浮かべた。


「お前『魔力なし』か」

「!?」


 レータの言葉にフラウムのカラダがビクリと反応するのと同時に、レータはカラダから衝撃波を放ってシーニとフラウムを吹き飛ばした。


「うわあ!」

「きゃあ!」

「シーニ!」

「きのせさん!」


 シーニは飛ばされた衝撃で何度も地面を転がる。 フラウムはクロロンが咄嗟に受け止めたので、すこし飛ばされたけど、衝撃を抑えることができたようだ。


「ぐう……!」

「シーニ!」


 シーニに駆け寄る。


「大丈夫! それよりフウムちゃんは!?」


 わたしはシーニにいわれフラウムをみると、二人は床に倒れていたけど、クロロンがフラウムをなんとか受け止めていた。


「大丈夫!? きのせさん?」

「はい、なんとか……それより……すみません緑風さん」

「ぼくは全然大丈夫だよ」


 なんとか大丈夫みたいだ。 わたしはほっとして胸を撫で下ろす。


「ちっ……このカラダはこの程度しかチカラが出せんのか」

「え?」


 あんなすごい技をだして本気じゃないってこと? ん? 『このカラダ』? どういうこと? レータだよね?


「はやく我が半身を手に入れなければ話にならん……」


 もしかして、『レータじゃない』?


「それって……」

「ミズキが半身ってこと!?」

「正しくは一部とでもいっておこうか」


 え!? シアンが半身? 一部? どういうこと?


 わたしは、訳が分からなくて、頭の中がパニックになる。  みんなも状況を理解できている訳ではないけど、本能的に危険を感じているみたいだ。


「それを聞いちゃ、なおさら、キミにミズキを渡す訳にはいかないね」


 シーニはヨロヨロと立ち上がり杖を構える。


「シーニさん達は逃げてください!」

「!?」


 フラウムは叫ぶようにいうと、レータにむかってもう一度蹴りをいれた。 しかし、かわされてしまう。  


「フウムちゃん!?」

「せめてもの時間稼ぎですわ! 今のうちに助けを呼びにいってください!」


 フラウムの鋭い蹴りをまるで止まってみえているといわんばかりに最小限の動きでかわす。

 かかと落としや回し蹴り、跳び蹴り、払い蹴り、浴びせ蹴り、沢山の技をだすけど避けられてしまう。


「クソ……すばしっこいですわね!」

「しつこいな」


 フラウムはカラダを捻り素早い回し蹴りをする。 しかし、足を捉まれてしまった。


「な……!?」


 ピタリと動かなくなった足をみて眼を見開く。


「この! 放しやがれですわ!」


 フラウムは激しく抵抗するけど、まるで、足が固定されてるかのように動かない。


「この足を黙らせるか」

「!?」

 

 その言葉を聞いたフラウムの顔が青くなる。 そして、レータは腕にチカラをいれる。


「グウゥ!!!」


 フラウムが痛みで顔を歪める。


「フラウム!!」

「フウムちゃん!!」

「やめろぉ!!」 


 隣にいたクロロンは叫ぶと、一瞬、姿が消えた気がした。 だけど、次の瞬間にレータの目の前に姿を現して腕を振り上げる。


「!?」


 一瞬で目の前に現れたクロロンに驚愕の表情を浮かべる。 そして、レータの背後にもうひとつの人影が手にしていた棒を振りかざす。


「なにっ!?」


 クロロンに気を取られていたけど、レータは咄嗟にフラウムの足を放して、両手を使って前後にバリアを張る。


 前後からバチン! と火花が散ったような音がした。


「新手か」


 レータはそういうと距離をとった。


「すまん、遅くなった」

「もうちょっとはやくきてほしかったな」


 黒髪の青年が現れてそれをみたシー二はうれしそうに笑う。




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