35色 アオイロデイズ
「なるほど、それはアカリさんにとっては酷なことじゃったのう」
マグカップに入った紅茶を啜りながらピンコはそう口にする。
「そうだね」
わたし達がカーミンに戻ってきて、数日が経った。
わたしはいつもの如くお茶を飲みに来たピンコに試練のことを話していた。
「だけど、アカリならきっと大丈夫だと思うよ」
「ほう、かなり確信めいた言い方じゃのう」
ピンコはわたしの言葉が以外だったのか不思議そうに返す。
「アカリは強い子だからね」
「親みたいな言い草じゃのう」
ピンコはクスリと笑う。
「まあ、シーニさんが云うんじゃったらそうじゃろうな」
「お、さすが分かってるねぇ」
「何年の付き合いじゃと思っとるんじゃ、お主が適当なことを云う人間ではないことぐらい解ってるのじゃ」
「いえてる」
わたしもクスリと笑いカップの紅茶を啜る。
「そういえばピンコにお礼をまだいってなかったね」
「ん? なんのことじゃ?」
ピンコは心当たりがないといった感じで返す。
「『ハネ』のことだよ。 ピンコがアレを発見してくれなかったら、わたし達は今頃ミンチだったかもしれないからさ」
「不吉なことをゆうでない。 まあ、無事でなによりじゃ」
「ありがとうね」
「やめんか。 わたしゃはそういったむず痒いのは苦手じゃ」
ピンコは恥ずかしさを誤魔化す為にそっぽを向きながら紅茶を啜る。
「そうじゃ、シーニさん一つ気になったことを聞いてもいいかのう?」
ふと、なにかを思い出したようにいう。
「なに?」
「もう一度聞くが、シーニさん達の会ったクーデリアは『世界をリセットしようと考えていた』と仰っていたといっておったのうそれは本当かのう?」
「え? うん、確かにそういっていたよ」
「やはりそうなのかのう……」
ピンコはマグカップを机に置き、右手で口を隠し神妙な顔でなにかを考えていた。
「どうしたの?ピンコ」
「おっと、申し訳ないのじゃ、わたしゃだけで納得するところじゃった」
わたしの問いかけにピンコは口を開いた。
「伝奇で読んだ情報とシーニさんの話ではかなり『違い』を感じてのう」
「違い?」
「そうじゃ、伝奇で読んだクーデリアは人間のことをかなり好いている感じじゃったが、シーニさん達と会ったクーデリアは人間をあまりよく思っとらん感じがしたんじゃ」
「え!? それってまさか!?」
ピンコの言葉にわたしもその違和感に気が付く。
「あくまで可能性じゃが、伝奇と今回のクーデリアは『別々のモノ』と考えることも出来るのう」
「!?」
わたしが感じていた違和感の正体はコレだったのかもしれない……。クーデリアの話を聞いた時の違和感。
ハッキリとは分からないけど、喉になにかが詰まってるような感覚だったんだ。
「ほう、なかなか興味深いな」
「!?」
ふと、後ろから中性的な声が聞こえ、振り返ると黒髪のスカした男が立っていた。
「マコト……また勝手にはいってきたの?」
「そうじゃぞ、魔導警察という人が不法侵入とは感心出来んのじゃ」
わたしとピンコは勝手に人の家兼研究所にはいってきたマコトを咎める。
「鍵が開いていたからな」
「それでもインターホンぐらい鳴らせよ!」
「反省の色が全く見えんのう」
「はあ……もういいよ……で? なにしにきたの?」
反省の色の見えないマコトに呆れながらもわたしは聞く。
「謝礼を貰いにきた」
「謝礼?」
「忘れたとは云わせんぞ、アレだよ」
マコトはなんのことをいっているのかと考えると思い出した。 そういえば、そんな話だったね。
「ああ、小倉トーストね」
「解ってるならさっさとしろ」
「キメ顔で小倉トーストを急かすイケメンなんてみたくなかったのう」
「わかったわかった、すぐに用意するから机に腰かけてて」
マコトに急かされながらもわたしは研究所にあるキッチンに向かおうとして顔を横に向ける。
「! おい! アオイその傷どうした?」
「え? 傷?」
呼び止められ、振り返るとマコトが近くにいた。
「うわあ!?」
いきなり顔が目の前にあるもんだから叫んでしまう。
「その頬の傷だ。 塞がっているように見えるが、明らかに魔法による傷だな」
キズ? と思い、頬をケガしていたことを思い出した。 だけど、アカリのフシギなチカラで治ったのだ。
あれって、なんだったんだろう?
「ああ、これね。 全然対したことないよ。 試練の勲章ってやつ?」
わたしは笑いながら返すが、マコトは真剣な顔でみてくる。
「マコトさんや解らんのか? シーニさんは心配をかけまいと黙っておったのじゃぞ」
「え!? ピンコも気づいてたの!?」
ピンコの言葉に驚く。
「当たり前じゃ、こうみえてもわたしゃは魔女じゃぞ、魔法のことに敏感なのじゃよ」
ピンコはなにをいっておると云わんばかりに紅茶を啜る。
「だから、マコトさん解ってやるのじゃ」
「ああ、仕方ないが理解してやる。 だが、気をつけろよ。 お前も一応女なんだからな」
「一応ってなんだよ、い・ち・お・うって?」
マコトの言葉に少しカチンとくる。
「はあ?なにを怒ってるんだ?」
「女心を全く理解しとらんのう。 顔面ステータスと引き換えにしてきたんじゃな」
ピンコは呆れたと云わんばかりにジト目でマコトをみる。
「俺もそのぐらい解ってるさ、顔に傷があったら貰い手がいなくなるだろ」
「うーわ! サイテーそういうの差別っていうんだぞ!」
「はあ? なにを訳の解らんことを」
「だったら、マコトさんがシーニさんを貰ってやればいいんじゃないかの?」
「はあ!?」
突然の爆弾発言にわたしは驚く。
「なにいってるんだよ! ピンコ! マコトもそう思うよね?」
「……」
わたしはマコトに振るけど、マコトはなぜか黙ったままわたしを見つめる。
「え? っとどうしたの? マコト?」
「……」
マコトは口を開かない。
なぜかわたしは少しドキドキしてしまう。
「も、もしかして……その……」
少し期待を込めてマコトに聞く。 すると、
「……ふん」
「え?」
ほんの数秒の沈黙の後、マコトは突然鼻で笑うと言い放つ。
「ないな」
その言葉にわたしの頭がプッツンと音を立ててなにかが切れる。
「あああああああああああああ!!! ふざけるなよ!!! 散々期待させといてなんだよ!!! わたしのドキドキをかえせよおおおおおおおお!!!!!!」
わたしは一心不乱に叫ぶ。
「なんだ!? 急に!?」
「キミはもっと考えて発言しろよおおおおおおお!!!!!」
「はあ!? お前みたいなブラシスコン製造機に貰い手なんているのか!?」
「もおおおおお! いいよ! わたしは愛する弟と妹さえいれば、一生独身でもいいよ!!! 独身貴族バンザーイ!!!」
「うるさいな! ギャーギャー叫ぶな鬱陶しい!」
「相変わらずの夫婦漫才じゃのう」
「誰が夫婦漫才だ!」
わたしとマコトは同時にいう。
「ほら、息ピッタリじゃ」
「話は聞かせてもらったぞアオイ! ワタシの妃になれば毎日おはようからおやすみまで愛の言葉を囁いてやるぞ!」
「スズヒコ様ダメですわ! アオイには勿体ないです! ですから、是非とも私にその役目を全うさせてくださいまし」
めんどくさい二人がなぜかナチュラルに会話にはいってきた。
「おいぃ! なんでキミ達はナチュラルに人の家にズケズケとはいってくるんだよおおおおお!!!」
「さあ、アオイ、ワタシとあまいあまーい新婚生活を楽しもうじゃないか♪」
「そうですわね。 子供は16人程つくって家族で武道大会を開きたいですわ! キャアー♪ スズヒコ様ったら恥ずかしいこと言わせないでくださいよ♪」
ミルクはカラダをクネクネさせながら勢いよくスズヒコを突き飛ばす。
「ギャバア!!!」
なぞの奇声を発しながらスズヒコはわたしの造りかけの発明に突撃して目を回していた。 ……って!?
「あああああああ!? ちょ!? ちょっと!? なにやってるんだよ!?」
スズヒコが飛んできたことにより、わたしの発明が木端微塵になってしまった。
「あら?」
「はあ……」
「やってしまったのう……」
「え? ……今のワタシ悪くないよね?」
ミルクはなにが起こったのか全く理解してない様子でマコトは溜息をつき、ピンコは呆れた様子で、スズヒコは少し焦った様子で無残に砕けっちった残骸をみる。
「ア、アオイ、これはだな……アレだな……そう! 事故だ! 重機に吹っ飛ばされて起きたことだ!」
「人のせいにして女性を重機扱いとはほんと最低な社長さんじゃのう」
「まあ、実際そうだしな」
「うるさああああい!!! とりあえずみんな黙って! シャラップ! そして、席に座って! コーヒーをいれてやるから飲みながらキミ達みんな説教だあああああ!」
「え? わたしゃも?」
ピンコがなにかいったけど、無視してわたしはキッチンに向かう。
まあ、これはこれでなんだかんだ少し楽しい気がするしいいかなと思ってるのは内緒かな。 わたしもこの騒がしいけど、かけがえのないこの日常を大切にしていきたいと心から感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます