12色 アカリの日常2

 あれから、あの不思議なことは起きなくて数日がたった。


 クーはクラスにも馴染んで、今は、みんなととても仲良くやっているんだ。


「おっはよー♪」


 いつものように教室のドアを開け、ゲンキに挨拶をすると、教室の中で話していたみんながこっちに気付いて挨拶を返してくれる。


「おはようございます、アカリさんとクーさんやっと来ましたわね」

「あ、フラウム」


 教室に入ると、さっそくフラウムが歩みよってきた。


「クーさん、今日もとっておきの食材を使った食事ですわ」


 フラウムは手に持っていたバスケットからお弁当箱を取り出すと、クーは眼を輝かせながら近くの机の上に飛び移り、小さなハネをゲンキよくパタパタとさせる。


「とある国で作られている高級サラミですわ。 どうぞ召し上がって下さい」


 数日前からフラウムはクーのためにご飯を持って来てくれるんだ。


 はじめはミミズや虫などを持って来てクロロンが顔を真っ青にさせて、ある時はとある小動物をあげてそれを食べるクーをみてフラウム以外のわたし含めてみんな顔が真っ白になってクロロンが気絶していたけど…今はちゃんと食べられるものになったんだ。


「ピュルーン♪」


 クーは差し出された一切れのサラミをゲンキに食べはじめた。それを、クロロンがとても羨ましそうに観ていた。


「緑風さん達もよかったらどうぞ召し上がって下さい」

「ホッホントに!?」


 フラウムはもうひと箱のお弁当箱を取り出し、それを受け取ったクロロンは眼を輝かせた。


「ありがとう。きのせさん」

「わぁー!すごいおいしそー!」


 わたしもクロロンと一緒にタッパーに入った美味しそうなサラミをみて、眼を輝かせる。 


「はい、いろのさん」

「ありがとー!」


 クロロンはわたしに中身を渡してくれたので、中のサラミを一枚とる。


「みっくんも一緒に食べよう」

「ん」


 クロロンは今日も机に座って眠たそうに頬杖をしているシアンにもサラミを一切れ渡す。


「なかなか美味しそうなものを食べているね。 僕が味見をして挙げようじゃないか」

「アナタの分はありませんわよ」

「何でだよ!」


 本当は欲しいと思っているけど、フラウムのものだからか素直に言えないレータがフラウムと今日も口論を始める。


「成績トップの秀才で将来は闇魔術の天才の名を手にするこの僕の分が無いとは一体どういうことだい?」

「欲しいなら欲しいと素直にいいやがれですわ! この上から目線メガネ!」

「誰が君に頭を下げるものか、君に頭を下げるくらいなら靴を舐めたほうがマシさ!」


 あわわ……また、ケンカをはじめてしまった。


「じゃあ、ぼくのあげるよ」

「!!」


 二人の口論に突然クロロンが入る。


「きのせさんはれいたくんにあげたくなくて、れいたくんはきのせさんから貰いたくないんだよね? だったら、ぼくのをあげれば解決するんじゃないかな?」


 クロロンは笑顔で二人に問いかける。


「クウタ……お前……いい奴だな」

「醜い争いでしたわね」


 二人は互いを見る。


 少しの沈黙の後……


「ごめんなさい……ワタクシが大人げなかったですわ」

「いや、僕も……悪かった」

「はい、れいたくん」

「ああ、ありがとう」


 クロロンはお弁当箱を差し出し、レータはその中から一切れのサラミを取るとそれを口に運ぶ。

 それを見届けたクロロンも一切れのサラミ手に取り眼を輝かせながら口に運んだ。


「ん!!! オイシー!!!」

「まあ、そこそこだね」


 跳び上がりそうなくらい美味しそうに食べるクロロンと違ってレータは冷静を装うが口がすこし笑っていた。    

 わたし達の視線に気が付いたレータは口元を隠す。


「な、何だい?」

「メガネ笑ってる」

「すなおじゃないなー」

「美味しんだよね」

「ツンデレメガネも緑風さんくらい素直だと助かりますわね」

「まあ、良い食材を使っているんだ当然じゃないか。それにコレってただ『美味しい食材を切っただけ』じゃないか。君でも美味しく出来そうだね」

「ちょ、れいたくん!?」


「何ですって?」


 レータの失言をクロロンが止めようとしたが遅かった。


「おい、クソメガネ……今、何と仰いましたか?」

「き、きのせさん!? お、落ちついて!? れいたくんはね、きのせさんを褒めようとしたんだよ!」

「は? 僕がこの脳筋クルクル女を褒める訳無いだろ」

「れぇうぃたくぅん!?」


 クロロンの必死のフォローをレータは蹴る。


「良いんですよ、緑風さん今からワタクシはこのクズメガネに蹴りを入れることを決めましたから」


 フラウムはクロロンには優しい口調で云いレータには殺意を籠めた口調で云う。


「はっ、やれるもんならやってみるんだね」


 レータは鼻で笑いながら云い持っていた本を開く。


「メガネ……バカ」


 シアンがそう云った瞬間にフラウムはレータに突っ込んだ。


「やっぱり突っ込んで来たなこの脳筋女! しかし、甘い! 『闇魔術・亜空間転移』」

「……!」


 レータは近くの魔法卵を取り、魔力チャージをすると自分の目の前に黒いモヤみたいなのを出現させる。 フラウムは全速力で突っ込んでいたからそのままモヤの中に入っていってしまった。

 そして、フラウムはその場から姿を消した。


「フラウムが消えちゃった!?」

「ふん、どうだ!これが僕が解読した『闇魔術』のチカラだ」


 レータは高笑いする。


「きのせさんはどこに行っちゃったの?」

「少なくともすぐに戻って来られない所さ、ダァーーーハハハハハ」


 勝ち誇ったようにいうレータの後ろに人影が現れた。


「メガネ……後ろ」

「戻りましたわよ」

「はえ?」


 突然、聞こえてきた声にレータはマヌケな声を出す。


「さて、アホ面メガネ…覚悟はよろしくて?」


 どこからか戻ってきたフラウムは手をパキパキと音を立てながらレータに一歩一歩近づく。


「ちょっとまて!? 僕は君を学校の外まで飛ばしたはずだ! こんなに早く戻ってこられる訳ない!」

「ええ、しっかりと学校の正門の所まで飛ばされましたわ。けれど、ワタクシは日頃から鍛えておりますの、だからあの程度の距離このくらいの早さで余裕を持って戻ってこられますわ」


 声を荒げて驚きながらいうレータの言葉をフラウムは涼しい顔で返す。


「ただのバケモノじゃないか!」

「まあ、レディーに向かってバケモノとは飛んだ失礼なクソメガネですわね。三発程蹴りが必要かしら?」


 フラウムは「おほほほ」とお上品に笑いながらレータに歩みよっていく。


「……くっ!……仕方ない先程の魔法で魔力を使い過ぎたようだ…だが、これは戦略的撤退だ!『闇魔術・闇隠れ』!」


 レータは持っていた本を真上に掲げ叫ぶと、その本のページから黒い霧みたいなのが溢れ出た。


「あら?」

「うえ!? なにか煙が出てきたよ!?」

「みんな! ハンカチ! ハンカチ! 避難訓練みたいに口を隠したほうがいいよ!?」


 わたしとクロロンはあたふたと走り回る。

 

「お二人とも落ち着いてください。 これはメガネの見せているただの幻覚ですわ」


 フラウムは近くの自分の席の筆箱から消しゴムを取り出した。


「淑女たるもの、この程度の小細工では取り乱しませんわ」

「その消しゴムどうするの?」

「まあ、観ててください」


 そう云うと、手に持っていた消しゴムを軽く上に投げて掴む作業を繰り返し始めた。


「なにやってるの?」

「すみませんが、五秒程静粛にお願いしますわ」


 その作業を数回繰り返す。 すると、


「視つけましたわ」


 そう云うとフラウムは真後ろにバク転をしてその勢いで空中の消しゴムを蹴飛ばした。


「いでぇ!」


 消しゴムの飛ばされた先で声がして、わたしたちはそっちに振り向くと、レータが右手を抑え持っていた本を床に落としていた。


 そして、黒い靄が消えた。


「あっ! しまった! もう一度『闇隠れ』を使わないと」


 レータは慌てて本を拾おうとする。


「遅いですわ。『黄瀬流武術奥義その壱・三連蹴り』!」

「ちょ! まぎゃああああああああああああああああああ」


 レータのお尻に連続蹴りが炸裂し学校内に叫びが響き渡った。


「すごい音がれいたくんのお尻からしたね……痛そう……」


 クロロンが苦笑いでお尻を立てながら倒れているレータを眺める。


「ああ……ジヌほど……イダイヨ……」


 レータは死にそうな声を絞り出す。


「ボクの魔法ですこし楽になるかな?」


 クロロンは手から微量の風を出してレータのお尻に当てる。


「クウタ……お前、いい奴だな」

「緑風さんは本当にお人好しですわね」

「そんなことないよ、ボクなんかのチカラが少しでも役に立つなら…」

「……」


 クロロンの言葉にレータとフラウムはすこし思うところがあるのか互いを見る。


「あっそうだ! いろのさん、クーくんのことで気になったことがあるんだ」

「気になること?」

「うん、クーくん『昨日より大きくなってる』気がするんだ」

「えっ?」

「……」


 わたし達はシアンにサラミを与えられているクーを見る。


「言われてみれば初めて出会った時より大きくなってる気がするよ」


 クーは初めソフトボールぐらいの大きさだった気がするけど、今はその2倍ぐらい大きくなっていた。


「確かによく見ると一日では気が付かなかったが、数日前より一回り近く大きくなっているね、幼鳥は約十五日で巣立つというがそれとは別といった感じだね」


 レータはカッコ悪い態勢のまま冷静に分析する。

 

「クーさんが幼鳥に近い何かってことは分かりますが、元から毛並みが奇麗に生え揃っていたので、幼鳥と言っていいものか迷いますわね」

「でも、れいたくんの言ったみたいに約十五日で巣立つならもうそろそろじゃないかな?」

「そうだね、だけどクーは今のところ飛ぶ気配はないね。……アカリ、今まででクーが飛んだことや飛ぼうとしたことはあったかい?」

「う~ん、どうだったかな?」


 わたしは少し考える……


「あっ! あったよ一回だけ」

「それは何時だい?」

「えっと、あれは確かにクーに初めて合った日で隣町の果物がいっぱいあるところで、そこの木に実っている果物をクーが飛んで取ろうとした時だよ」

「もしかして果物農園かい?」


 レータの眉がぴくりと動いた。 


「うん、だけどあとすこしのところでスミレっていう女の子にクーが捕まっちゃってね」

「厄介な奴に捕まったね……」

「?」


 レータは少し怪訝そうな顔をする。


「まさかその名前が出てくるとは思わなかったよ……」

「えっ?レータはスミレのこと知ってるの?」


 わたしはスミレのことを知っていたことに驚くとレータはため息をつく。


「すまないがあまりその名前を出さないでくれ……まあ、知っているかと聞かれたらかなり『険悪』な知り合いってところかな」

「けんあく?」

「仲の悪いってことですわ」


 そうなんだ、スミレとレータは知り合いだったんだね、しかも仲の悪い……


「スミレとレータはナニかあったの? あまりいいたくないなら無理にいわなくてもいいけど」

「まあ、そんな大した話じゃないけどあの鍵女に会ったならリュイさんにも会っただろう?」

「うん、あの果物のおにいさんだね」

「く、果物のおにいさん?」


 レータはすこし唖然とする。


「キミ、あの魔術の天才と呼ばれる、林原緑はやしばら りゅいさんを果物のおにいさん呼ばわりとは正気かい!?」


 レータはわたしに信じられないといった表情でいう。


「え? 果物のおにいさんって有名人なの?」


 わたしはそういうとレータは鳩がマシンガンを喰らったような顔をする。


「ワタクシはお名前と噂はお聞きしたことがありますわ」

「ボクも少しだけ」

「……そういえば、ねえが会ったっていってた気がする」


 わたしとは違ってみんな知っていたみたいだ。


「クロロンとシアンも知ってるの?」

「有名といっても噂だけって人が大半だろうけどね」

「へー知らなかったな」

「そのリュイさんとは古くからの知り合いで《憧れ》なんだ。そして、彼女も《同じ》様にね」


 彼女とはスミレのことだろう。


「あの鍵女とも古くからの知り合いだけどリュイさんに持つ《憧れの違い》で揉めてしまってね、それから険悪なのさ」 

「憧れの違い?」


 首を傾げるとフラウムが変わりに答えてくれる。


「おそらく、《考え方の違い》ってことですわ。まあ、アカリさん、今日のところはこの辺にした方がいいと思いますわ」

「え?」

「あまり人のプライバシーに干渉するのはよくありませんわ」


 フラウムの言葉にクロロンはハッとなって慌てて謝る。


「そ、そうだね! ごめんね、れいたくん」

「いや、自分から話したことだからね、気にすることないさ」

「うん、確かにフラウムのいう通りだね、それに……」


 レータに目を向ける。


「まだイタイ?」

「ああ、かなり痛い……」


 レータはまだお尻を立てながら倒れていた。


「もうすこし風いるかな?」

「ああ、少し強めてくれるとありがたい」


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