第2話 朝が来る

いわゆる化石から圧搾された電気が、変換機を通じて、

町のあちこちに配給される。

電気は料金制でなく、配給制だ。

限りあるかもしれない化石、みんなで大切につないでいかなければならない。

電気がいつものように町にいきわたり、

町は静かに動き出す。


ウゲツは寝床で身をよじる。

いつもの感じで目をさます。

光が届かなくても、朝というものが来るのを感じる。

電波を浴び続けているから、朝の電波の感じがわかるんだろうか。

ウゲツは細い目を一応開くが、

傍から見たら、開いても閉じても、あまり変わらないように見える。

起き上がり、目をこすり、あくびと、伸び。


上の階に夫婦が住んでいる。

足音や声、物音などが、結構響くものなのだなと、

少年ウゲツは、いつものように思う。

ぱたぱたとした軽やかな足音と、

それよりちょっとだけ重い足音。

響く足音は、時にうるさく、時に心地いい。

聞き耳立てているわけではないが、

いつも誰かが傍にいるというのは、どんな気分になるものだろう。

ウゲツはいまいち理解できない。


今日も太陽が昇る。

電波局から電波が届く。

ウゲツの部屋の空中線がとらえているのは、

一応、町の合法電波局。

違法なのはいろいろやばいと子供の情報網で言われているので、

ウゲツもそれに倣って、電波は合法なものだけにしている。

違法な電波を浴びるとどうなってしまうのだろうか。

ウゲツはそこまでして、違法というものに身を投じようとは思わない。


今日のお粥はどうしようか。

ウゲツは仕事服に着替えながら思う。

あんまりみんながいるときに行くのもなんだし、

とりあえず、気が向いたときに食べようかと思う。

ウゲツは食に頓着しない。

それは、この町の住人の大半がそうであるように。


ウゲツは受信機の電波を流しながら、

今日も穏やかな気分で仕事ができそうだと思う。

上の階の足音も、軽く穏やかに。

密集している町ではあるけれど、

合法ばかりではない町だとわかってはいるけれど、

ウゲツはこの町が好きだし、

光の射さないこの町の朝も、結構好きだ。

何かが始まる予感がする。


ウゲツは、支度を整えると、

仕事に出かける。

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