第57話 責任

フウセンは電波局で休んでいた。

フウセンが担当している電波局だから、

離れるわけにはいかない。

でも、定期的に休みはとらなければいけない。

休みを取れといってきたのは、皮肉なことによく走り回っているカミカゼだ。


あれはずいぶん前のこと。

着任した電波局で責任に押しつぶされそうになっているとき。

問題があってからでは遅いと、

フウセンがありとあらゆる可能性を模索していたとき。

何が起きても対処できるようにと、

フウセンはがんばっていた。

それを見ていたカミカゼがいったものだった。

「少し休め。ちょっとなら俺が見てやる」

フウセンは大いに混乱した。

他の人に任せられるものじゃないと。

フウセン独自の機器もかなり導入していると、訴えた。

カミカゼは困ったような顔をしたが、

「いざというとき倒れられるのが一番きついからな」

「僕はそんなこと…」

フウセンは反論しようとする。

「まずは粥を食べてこい。それから、布団かぶってそこに横になれ」

「僕には責任が!」

「大きな事態に備えての小さな休みだ。そういう癖を付けろ」

カミカゼは有無を言わせない。

フウセンは、その雰囲気に飲み込まれるように、結局うなずいた。


それから、フウセンはちょっとだけ休む癖をつけた。

休むというのはいいことらしい。

全部休んでいては責任も何もないけれど、

休むから、がんばれるとフウセンは感じる。


フウセンは、ちりっとなにかを感じて、起き上がった。

「電波かな」

フウセンはぼんやりした頭を、切り替える気分になる。

呼吸をして、機器に向き直る。

電波の調節をする。

合法電波も何かゆがんでいるような気がする。

国がゆがめている、という噂も、粥屋で聞いた。

外に出なければ聞き得なかった情報だ。

国は大きなもの。

電波をゆがめるなんて簡単なのだろう。

フウセンはそう思うけれど。

「この町の電波は僕が握ってる」

フウセンは言い聞かせ、一人うなずく。

責任を果たすのは、いつだって元気でないとできない。

カミカゼはそう伝えたかったのかもしれない。

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