第56話 思い出す連中

オトギは戦艦ミノカサゴの部屋で待機していた。

一般兵士は詰め込まれているが、

サカナ大佐直属の部下たるオトギは、

一応個室をあてがわれている。

オトギはそこで考え事をする。

たまに、痛みが宿ることがある。

発作だとサカナ大佐には言っておいたが、

サカナ大佐はオトギのことを理解していない。

特に、痛みというものを理解していない。

オトギはそう思う。


確かに、ともに同じように痛んで欲しいわけではない。

でも、あの連中は…と、オトギは思い出す。

目を閉じて、思い出に浸る。

やわらかく微笑むタケトリ。

神経質なのに決断できないクロック。

達観したチャイ。

あいつらのためなら、天狼星の町のためなら。

オトギはいくらでも痛むものと考えていた。


電鬼というものを、

天狼星の町が孕む可能性。

様々の電波の集中によって、

意思を持った正体不明が現れる可能性。

オトギはそれを調べるために、町を出た。

そして、調べるうちにとんでもないことがわかった。

国は、いまだかつてない電鬼を作るべく、

秘密裏に強力な磁石を、天狼星の町に投げ込んでいた。

磁石。磁気を持った石。

しかも、発掘で見つかった一級永久磁石。

永久磁石を核に、電鬼が生じる。

正体不明の磁気発電鬼。力は未知数。

いつ生じるかわからないとされていたが、

サカナ大佐は情報をつかんでいた。

「もう、いる」と。


オトギは思う。

国の意図的に作り出した電鬼が、

いま、天狼星の町にいる。

痛みならいくらでも引き受けるのに、

この情報を手に入れる頃には、

オトギは老頭の三人とは、遠い関係になってしまった。


「早く、逃げろ」

オトギはつぶやく。

国が種を、災いの兵器の元である種をまいたんだ。

取引対象の電鬼は、国の兵器にされてしまうに違いない。

手始めに町が壊されることだってある。


「逃げてくれ…」

オトギは、かなわないことを願った。

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